研究内容

我が国の食品製造・加工において、澱粉をはじめとする糖質素材は古くから重要な役割を果たしてきました。本研究室では環状イソマルトオリゴ糖(CIと略,別名サイクロデキストラン)の生産と利用法の開発を中心に、微生物が生産する有用オリゴ糖の食品への利用を目指した研究を行っています。

環状イソマルトオリゴ糖
(CI,サイクロデキストラン)

環状イソマルトオリゴ糖(Cycloisomaltooligosaccharide)は、ブドウ糖がα-1,6結合で環状に連なった構造で、サイクロデキストラン(Cyclodextran)とも呼ばれるオリゴ糖で、CIと省略されます。ある種の微生物が澱粉やデキストランから生産します。天然には少量ではありますが、黒糖から検出されています。同じくブドウ糖から成る環状糖にサイクロデキストリン(Cyclodextrin, CD)があります。CDは微生物が澱粉から生産する環状オリゴ糖で、ブドウ糖がα-1,4結合で連結している点がCIと異なります。CDは環の内側が疎水性、外側が親水性で、脂溶性の物質を内腔に取り込んで可溶化したり、不安定な難溶性物質を安定化するといった包接能を有しており、食品産業はじめ、様々な分野に利用されています。CIも包接能が見出されていますが、CDよりもフレキシビリティが高い構造で、ゆるい包接をすると考えられます。最近CIで効率的に可溶化できる難溶性食品成分がいくつか見出されてきており、当研究室ではCIを用いた効率的な可溶化方法の研究開発を進めています。また、CIは歯垢の原因となるう蝕菌のグルカン合成酵素を阻害する働き(抗プラーク作用)といったCDには無い優れた性質も有しています。

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はみがき

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グミ

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タブレット

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チョコレート

CIが入った市販品

最近CIが含まれる食品素材CI-Dextran mix入りの製品の製造販売が開始されました。個人的な感想ですが、このはみがきで磨くと歯がつるつるになる、お菓子は口がさっぱりするといった効果が感じられます。CIの抗プラーク作用を期待した製品です。このほか、ペット用のはみがきやふりかけなども販売されています。

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アンカー型CI(分岐型CI)の酵素生産

CIは分子量の小さい(重合度10未満)オリゴ糖タイプのものより、重合度10以上のメガロ糖タイプのもののほうが、さらにこれに分岐の付いたアンカー型のほうが、より包接能が強くなることがわかってきました。特にα-1,3結合グルコース分岐の入った環状イソマルトメガロ糖(α-1,3アンカー型C-IMS)に強い包接能が見出されています。そこで現在、CIに酵素的にα-1,3-グルコース分岐を導入する研究を進めています。具体的には、乳酸菌由来のグルカンスクラーゼのアクセプタ反応(スクロースを分解してアクセプタになる糖類に1~数分子のグルコースを転移する反応)の利用を検討しています。効率よく分岐鎖を転移する酵素を探索し、反応生成物の構造解析を行っています。

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CDを生産するCI生産菌の発見

Paenibacillus sp. 598K株は、世界で3番目に発見されたCI生産菌です。この菌は、澱粉をデキストラン様の中間体に転換してからCIを生産し、それを細胞内に取り込んで分解する代謝系を持つことが明らかにされています。しかし、本菌の全ゲノム解析を行った結果、CI合成酵素(CITase)遺伝子のほかに、CD合成酵素(CGTase)遺伝子を持つことがわかりました。本CGTaseはβCDを主として合成する酵素で、本菌を澱粉を炭素源として培養するとβCDを生産することがわかったため、CDとCIを両方生産する菌であることが明らかになりました。この菌がどのような環境でCDあるいはCIを生産するのか、さらにこの菌にとってのこれら環状糖の意義は何であるかを解明するために、様々な培養条件下でのCITase、CGTaseやCIやCDの分解酵素遺伝子の発現解析を行っています。

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リボゾーム工学法による休眠酵素遺伝子の覚醒

CIは優れた性質を持つ環状糖ですが、微生物が生産するCIの量は多くありません。Paenibacillus agaridevorans T-3040株は世界で最初に発見されたCI生産菌です。この菌のCI生産酵素、CITaseは野生型ではほとんど休眠状態で、工業的に利用するには十分な生産量が得られません。そこで、「リボゾーム工学法」を用いて菌を育種し、CITaseの生産量が野生型の1,000倍に増加した変異株を得ることができました。リボゾーム工学法とは、抗生物質耐性を付与してリボゾームやRNAポリメラーゼなどに特異的に変異を導入することにより、抗生物質などの二次代謝産物や、休眠酵素の生産性を高める育種法です(Ochi K. (2017) J. Antibiot. 70, 25-40)。一方、T-3040菌は全ゲノム解析の結果、キシラナーゼ、アガラーゼ、カラギーナーゼ遺伝子も持つと推定されましたが、野生株のこれらの酵素活性は高くなく、休眠酵素である可能性が高いと考えました。そこで、リボゾーム工学法でキシラナーゼ、アガラーゼやカラギーナーゼ活性を高める育種を試みています。また、2019年にスクリーニングした菌株でもリボゾーム工学法による育種が可能であるか検証を試み、リボゾーム工学法に普遍性があるかどうかを明らかにしていきたいと考えています。

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