Research 2006





2006年度 卒業論文

「歴史の重層した市街地における敷地内空間の配置の特徴について 
  −山梨県 市川三郷町 市川中央地区を対象として−」
(青沼 拓)


 市川中央地区は、江戸時代以来の市街地であるが、時代とともに敷地が細分化
され、その構成・利用形態に変化が生じ、様々な形態の敷地内空間が混在する歴
史の重層した市街地である。本研究では、土地利用など歴史的背景に着目しつつ
、市川中央地区において敷地内空間の配置の現状調査から特徴を把握し、調和の
とれた町なみ景観形成ガイドライン作成のための情報を提供することを目的とす
る。



「路傍における石造物「道祖神」の立地場所の空間的特徴に関する研究 
  −山梨市旧山梨市地区を対象地として−」
(雨宮 洋太)


 かつて人々は大事な場所に,様々な石造物を置くことでその場所を明示し,意
味を与えてきた.しかし,現在そのような場所への意味付けは無視され,道路拡
張・拡幅や区画整理などの社会資本整備などの際に移動され,場所の意味が消失
されている傾向にあるといえる.なぜ人々はこの場所に石造物を置いたのだろう
か.その場所には何か意味があるはずである.その意味と価値を考えていく上で
の基礎的研究が必要だと考え,景観特徴を把握することを目的とする.


「観光ぶどう園の空間構成の実態把握 
  −山梨県甲州市勝沼町を対象として−」
(内田 育美)


 近年、景観整備において地域の個性が重視されている。しかし現状では、景観
保全のための誘導・規制策が十分とは言えないため、美しい景観の喪失が懸念さ
れる。勝沼町の景観は、ぶどう畑や農家の雰囲気など、落ち着いた農村景観を持
っている。それは快適な空間を演出し、重要な資産である。一方、観光ぶどう園
が多数あり、それも1 つの景観の特徴となっている。しかし、観光ぶどう園の現
状は、主要道路沿いに点在し、観光客を呼び寄せるための利益追求型の形態とな
っており、乱雑な景観を印象付け、それが町全体の景観を損ねている。また、こ
れまでに観光ぶどう園の景や、空間の特徴に関する研究はなされておらず、その
実態は明らかになっていない。
 そこで、町並み景観をつくる勝沼町らしい観光ぶどう園の今後を考えるための
基礎的知見を得るために、観光ぶどう園の空間の構成要素を抽出し、その特徴を
明らかにすることを目的とした。


「甲府都市圏における人口スプロールと都市施設立地に関する研究」(加藤 友浩)


 近年地方都市では、人口空洞化と共に中心市街地の活気が失われている。人口
空洞化の要因として、アーバンスプロールなどが定性的に言われているが、山梨
県甲府都市圏において、その実態は定量的に示されていない。
 そこで本研究では、この地域を対象として、人口の空間的な変動と主な都市施
設立地に関する空間データをGIS を用いて作成し、人口空洞化とスプロールの実
態を明らかにすることを目的とする。


「甲府盆地の傾斜地における伝統的集落の道路景観の特徴」(福島 将宣)


 昔ながらの自然発生的な集落の道には独特の折れ曲がりが存在している。折れ
曲がりは自然発生的であり、その地の文化、伝統、地形を反映したものである。
それゆえ、自然発生的な道路空間の保全は重要な課題と考えられる。既存研究に
おいて、平坦地における伝統的集落内の道路形態についての定性的、定量的見解
はなされているが、傾斜地における見解は十分になされていない。地形
に着目して定性、定量的に傾斜地の道路を比較することは、興味深い結果が得ら
れるのではないかと考えられる。
 そこで、傾斜地の自然発生的な伝統的集落内の道路を、地形に着目して定性的
、定量的に把握することによって、傾斜地における道路の特徴が、地形によって
どの様に異なるのか明らかにすることを目的とする。


「町並み景観保全のための建築形態とその評価に関する研究
  −市川三郷町中央地区の建物ガイドラインづくりに向けて−」
(溝渕 浩平)


 2005 年に景観法が施行された。建築物の形態や意匠等に規制を設ける事が可
能となり、町並み景観に対する地域住民の意識も高まりつつある。まちづくり活
動において、町並み景観保全のために建築形態をコントロールする建物ガイドラ
インに関する議論の機会が今後増えていくと考えられる。伝統的建築物群保存地
区のような、伝統的建築形態が明確な地域では、方向性は明瞭である。しかし、
伝統的建築物と新しい建築物が混在し、建築形態が複雑化している地域では、方
向性を見出すのが難しい。そこで本研究では、このような混在地域を対象として
現在の町並み景観を構成している典型的建築様式を統計的方法により抽出把握す
る事を試みた。さらに、住民の建築様式に対する意識評価を行った。これにより
、地域独自の町並み景観を保全するための建物ガイドラインづくりに必要な基礎
的知見を示したい。






2006年度 修士論文


「文化的景観の抽出について -北杜市津金地区と南アルプス市白根地区を事例として-」(前島由希絵)


 本論が展開する文化的景観とは「ごく普通の景観であり生活の場に受け継がれたその地域固有の景観」である。これ
は日常であるゆえに意識されにくく些細であるゆえに容易に消失しやすいものであるが、地域らしさの核心であり、こ
の特徴を踏まえた地域計画が望まれる。
 本研究はこのような背景のもとで、文化的景観を捉える視点として、その「場所」やそこからの「眺め」の景観特徴
に加えて、そこへの「思い」やそこでの「活動」を取り上げ、調査票配布回収による調査を行ない、山梨県内の純農村
地域である津金地区とスプロールに曝されている農村地域である白根地区を対象として、文化的景観の実態を明らかに
した。指摘された場所は個人が思い入れる場所であるが、その特徴には共通点が多い。道端からの山や田園の眺望、寺
社など文化歴史施設での祭りなどの活動やその思い出が両地区で共通して多くあげられた。特に地域活動が現在でも継
続している施設は指摘率が高い。眺望、文化歴史施設、地域活動が地域環境の違いに因らず普遍的に文化的景観と結び
つく可能性を指摘できた。また津金で集落中心から半径400m以内に、白根でも半径1km以内に、指摘された場所の50%
が収まり、生活場の文化的景観は比較的狭い範囲に集中していた。今後景観計画を策定する際に集落毎にきめ細かい調
査を行う必要性を指摘した。一方、両地区で違いが現れた点は、津金では指摘が集中する文化歴史施設があり白根では
多様な施設に分散すること、津金では歴史的価値を意識し白根では快適性を意識する割合が高いことだった。また白根
において、新興住宅団地と伝統集落で指摘される場所やそこへの思い・行動に大きな違いがみられた。環境の違いと地
域コミュニティの親密度が文化的景観に影響を与えていることを指摘した。以上のように文化的景観の特徴が明らかに
され、方法論の提案という点でも本調査方法の有用性を示すことができた。

「道の駅による農業の活性化に関する研究」(亀岡 宏竹)


 山梨県における農業経営を取り巻く状況は厳しく、農業の不振はスプロールによる農地の宅地化を助長し、都市計画
の面から考えても、農業の活性化をはかることが急務である。一方、消費者の食に対する意識変化から安全・新鮮な食
品を求める要求が高まっており、また観光県である山梨県を訪れる観光客からは良質な地場産品への期待も高まってい
る。
 本研究はこのような背景のもとで、地産地消の農産物直売によって地域活性化を図ろうと県内各地に設けられた「道
の駅」に注目し、その活動の実態を明らかにしたものである。山梨県の全道の駅(16駅)を対象にヒアリング調査を実
施した。道の駅に登録したことによる集客増が共通してみられた。地域連携機能が比較的良く機能している駅は所有形
態や管理形態に係わらず、直接管理し活動する個人に因るところが大きく、それらの人は「地域への貢献」という理念
を明確に持っていた。活動の内容としては「住民への情報提供とそれによる出品農産物の確保」「農産物の付加価値付
けへのアドバイス」「新しい産品開発」「昔からあった伝統産物の発掘」「集客のための施設美化」などがあげられ
た。3つの駅では農家と観光客を結びつける農業体験などの企画をおこなっていた。道の駅の開設によって農業経営の
改善が劇的に進んだわけではない。今までより少し多く作り小遣い稼ぎが可能になった程度である。しかし直接消費者
とふれあう形での新たな販売経路は生産者の意識を変えつつあった。また大規模な事業よりも小さな稼ぎの積み重ねが
地域活性化にとっては持続性を持つと評価できる。マージンの差はみられたが、今のところ問題にはなっていなかっ
た。今後の課題としては、農業に関連した加工品生産など付加価値付けの方法、指定管理者制度への移行に伴う自治体
(所有者)側の目的意識の変化(利益追求化)があげられた。




2006年度 修士論文(中間報告)


「まちづくりに関する効果的な情報発信に関する考察」(小野 直之)


 現在は情報化社会である。情報が人々の行動に与える影響は大きい。地方都市の活性化・まちづくりに関しても、情
報発信を意識的に効果的に供給することによって活性化・まちづくりに大きく寄与すると考えられる。例えば、多くの
街でそうであるように、潜在的な歴史・文化や人の活動などの「磨けば光る資源」が存在していたとしても、情報発信
が十分行われていないことが多い。そのため、それらの資源が広く一般の人に知られていないことから、上手く活かさ
れていない状況がある。地方都市の活性化・まちづくりに関する研究は多くなされているが、情報発信が活性化・まち
づくりにもたらす効果についての研究は見られない。そこで、本研究は、活性化・まちづくりに寄与する情報の効果的
な供給にはどのような要素が重要であるのか考察する。


「地方都市中心市街地における空き店舗対策事業に関する研究
  -甲府市を対象として-」
(山本 成人)


 現在、全国各地の地方都市で、中心市街地衰退化が深刻な問題となっており、様々な中心市街地活性化策が取り組ま
れている。その中の1 つの方法として、空き店舗対策事業がある。中心市街地にある、多くの空き店舗を改善して、中
心市街地活性化を図る事業である。実際、全国の地方都市における、中心市街地活性化の事例においても、様々な空き
店舗対策事業が行われてきた。また、これまでに地方都市中心市街地活性化に関する、多くの研究が行われてきた。空
き店舗に関する研究としては、大型店舗撤退後の跡地活用の研究がある。また、空き店舗対策事業の観点から、中心市
街地活性化を考えた研究では、個店努力の必要性、基盤整備の重要性、意識改革の必要性などが指摘されていた。そこ
で、本研究の目的は、地方都市中心市街地活性化における、空き店舗対策事業が成功するためのポイントを考察するも
のとする。また、対象とする都市は、近年、多くの空き店舗対策事業が行われている甲府市を選定した。 


「過疎農村における市民主導まちづくりの取り組み
  -山梨県北杜市須玉町津金地区を事例として-」
(佐成屋 匡哲)


 まちづくりにおいて、活動の現場における試行錯誤の積重ねが大事であると言われている。本研究は、実際に活動に
参加した体験を踏まえ、活動のターニングポイントや課題などを整理することにより、まちづくりにおいて有効な活動
を行うための要素を抽出することを目的とする。市民主導のまちづくりの事例の一つである山梨県北杜市須玉町津金地
区で行われている活動を研究対象として取り上げ、@ 活動の歴史をまとめ、A 転機(ターニングポイント)の抽出と
考察をおこなった。



「中国都市部における公園での行動観察-上海、蘇州、南昌、成都を対象として-」(菊山 幸輝)


 アジアモンスーン地域には多様な水辺文化が存在していた。日本では高度経済成長による都市化や水質悪化をうけて
水辺文化が希薄になってしまった。中国都市部においても、1978 年以来の改革開放政策による社会構造の転換により、
都市化が進み水辺環境が変化している。それに伴って水辺に対する住民の意識が変化し、公園の設計や利用形態も変化
している。そこで、本研究は、中国都市部の1978 年以降に整備された水辺の公園を対象とし、行動観察を行い、活動
内容及び空間の状態を把握することを目的とした。 

「歴史の重層した密集市街地における細街路景観の特徴の抽出
  -山梨県市川三郷町市川地区中央部を対象として-」
(菊山 幸輝)


 
 わが国の地方都市は、伝統的建造物群保存地区のように、ある特定時期の歴史的景観が保全された町並みを形成する
町は稀であり、多くの町は様々な変化を受けた歴史の重層した複雑、雑然とした町並みになっている。そのような町の
街路は特徴が明確ではなく、防災上の観点から一律に拡幅すべきと判断されることが多い。しかし、雑然として無個性
にみえる街路も歴史が重層した結果であり、注意深く観察すれば、それぞれ特徴があるのではないかと考えられ、その
歴史性を生かす整備や保全が望まれる。
 本研究は、近世から昭和に至るまでの繁栄の基盤を持ち、その間様々な変化によって現状では雑然で無個性に見える
細街路景観を持つに至った地方小都市を対象として、細街路の景観の特徴を把握し、都市の歴史的文脈と関連づけて景
観的特徴の成因を把握することを目的とする。細街路景観の特徴を歴史的背景による成因から価値づけることによって
、整備・保全の留意点や保全を優先すべき街路の選定などを議論するための知見を提示したい。
 研究対象地は山梨県峡南地域の中心都市である山梨県西八代郡市川三郷町市川地区中央部とする。平安時代に町の名
前が確認され、江戸時代後期に代官所の置かれた集落として栄え、歴史のある建築物がわずかながら残っている。一方
で、木造建築の密集化や老朽化の進行、地区内細街路の不備、中心商店街の活力低下など問題傾向が生じている。この
ようなことを背景として、平成13年度から地域の人々に呼びかけ「まちづくり懇談会」を開催するなど住民参加のま
ちづくりを開始した。この地区では細街路の事を「ひや」と呼んで昔から親しんできた。しかし、防災面や接道不良の
ため、拡幅が議論されている。
 近年、地域の個性、歴史を活かすことの重要性が認識されつつある。密集市街地における歴史と細街路景観の関係に
着目した研究としては、東京の戦災を被った武家屋敷の高密化や、農地の宅地化に着目し、近世の敷地割りや耕地が現
路網を秩序付けていることを指摘しているものがある。東京の路地空間の魅力を江戸期から現在までの変遷をたどり、
在の道歴史的変遷が路地空間に影響を与えること指摘しているものもある3)。こうした既存研究の知見は、地域の歴
史的文脈と細街路の関係を考察する参考になる。しかし本研究の様に地方小都市の細街路に注目し、歴史的文脈から検
討しているものは不足している。


 


 2006年度 卒業論文参考題目




1.都市や田舎の景観を豊かにする
  ・ふつうのまちの景観を育てるために
    〜建築景観や街路景観の特徴抽出〜
  ・デザインガイドの作成
  ・農村景観の変化
2.水辺を豊かにする
  ・伝統的な水辺文化の抽出、
  ・都市に水辺空間を取り戻す
3.乱開発を防ぎ、農村を守る
  ・農村地域における生活持続と環境保全
  ・都市と農村の交流、
4.乱開発を防ぎ、コンパクトシティをめざす
  ・農地保全と農業活性化の取り組み、
  ・密集市街地の改善

 
 


2007.5.22