Research 2007






2007年度 修士論文


「密集市街地建替え困難地区における歴史・景観を配慮した生活環境改善方策に関する研究」(菊山幸輝)


 密集市街地では、接道不良によって住宅が既存不適格となり、法的に建替困難となって都市部から人口が流出してしまう現象がみられる。特にこの問題は人口減少、高齢化が進み、かつ財政的にも逼迫している地方都市においては、住み続けられる地域づくりへ向けた大きな課題である。また、接道不備解消の手法も画一的で、地方都市特有の歴史的景観が破壊されることが少なくない。 本研究は密集市街地の建替困難地区を対象として、住民の意識調査に基づいて、歴史的景観に配慮しながら建て替え困難を解消する方策を探ることを目的としている。まず現地景観調査および空間データ整理により、現状では建築景観に明確な歴史的価値を見いだせなくなりつつあるが、景観と歴史を丁寧に読み取ることによって、歴史的景観の価値を有し、かつ空間的問題を抱える地区を特定した。次に、特定した地区において、ヒアリング調査によって対象地区の住民の意向を明らかにした。対象地区内の住民の多くはこれからもこの地域に住んで行きたいと考えており、「ひや」と呼ばれる細街路に災害時の不安や自動車交通の不便を感じつつも、一方で愛着も感じ、街路の拡幅は望んではいなかった。住宅は耐震補強などがされておらず、防災上問題がある一方、建替えは考えておらず、現状の生活を継続していくことを望んでいた。しかし、現在の居住者は高齢で、今後、空き家・空き地になる可能性が高い。
 これらの成果をふまえて、対象地の現状の静かな生活を維持し、路地文化を残しつつ生活環境を改善していく方策を考察した。現行の制度は道路幅員4m以上を接道の前提となっているが、条件付きで最低幅員を2mにする制度を柔軟に活用していくことが出来れば、路地文化の維持と建替え困難問題解決は両立できる可能性があることを示した。

「過疎地域における地域活性化のための人材育成に関する研究」(佐成屋 匡哲)


 本研究で対象地として取り挙げられている利賀村では、これまで、「世界演劇祭」や「そば祭り」といった巨大なイベントで世界的にも注目され、発展してきた。その結果、村内には、様々な体験施設などのインフラが整備されたことが知られている。論文中で言及されているように、これまで様々なイベントで村おこしをしてきた利賀村であるが、行政主導から住民主導への転換が求められている。しかし、住民が主体的に動けていないのが現状であり、主体的に動いていくことのできる人達(リーダー層)の育成が今後の地域持続の要となると考えられる。
 本研究は、人材に着目し、今後の利賀村(ポスト利賀)を活性化させるために解決すべき課題を明らかすることを目的としている。方法としては、まず、(1)行政主導時代に行われた活動内容をヒアリング調査によって把握し、課題を挙げた。一方で、(2)村内の主要団体等へのヒアリングをおこない、これからリーダーになる可能性のある人を特定した。リーダーになる可能性のある人の実態としては、商工会青年部や村出身の行政職員がおり、主婦層の中に今後やりたいことがあるという人も発掘された。そして、(3)リーダーになる可能性のある人たちに対して、現在の活動内容や今後の課題を把握するためにヒアリング調査を行った。その結果明らかになった課題として、「合併後の活動組織体制の弱体化対策」、「既存施設を地域経済に貢献させる対策」、「行政と地域住民に意識の格差を埋めること」、「過去の交流ネットワークを生かした地域外の人との協働の模索」、「古い地域体質への当面の配慮(女性の目立つ行動が非難される)」、「意義のある活動には素直に従い協力する地域性がみられることから、活動を初動する人の育成」、の7つが指摘されている。
 さらに、これらの課題を解決するために「今後の取るべき体制」「イベントからの脱却」「補助事業依存からの意識改変」「村づくりに関して考える場を設けること」、等を提案した。

「子どもの自然発生的遊び場の空間特性に関する研究」(野澤 知美)


 全国に都市公園が整備されてもなお,子どもの遊び場の量と質が問題となっている.その都市公園ですら子どもの遊ぶ姿を見つけるのが困難となっている現状を考えると,子どもの遊び場や施設の計画そのものに問題があると思われる.一方で子供たちは自ら遊び場を選びだしている姿が見受けられる。子どもの遊び活動や遊び空間を概観した研究はみられるが,自然発生的遊び場の魅力要因や,計画・設計に役立つような空間特性が、十分に明らかになっているとは言いがたい.
 そこで,本研究は、子どもの自然発生的遊び場の空間特性とそこでの活動を調査・記録し,今後の遊び場設計に役立つような知見を具体的に示すことを目的とし,小学生を対象として16グループ23人にヒヤリング調査を行った.ヒヤリング調査は,子どもの仲間になることでより詳細な情報が得られることから,子どもと遊びながら遊び場に案内してもらう形をとったためサンプルは少ないが詳細な情報を得た.その結果,55ヶ所の遊び場事例を抽出した.
 55ヶ所の事例について分析を行った結果,子どもが魅力を感じている遊び場所は,(1)遊び活動に必要な要素が存在することで遊び場として成立している場所と,(2)空間自体が子どもにとって魅力的でありその場で可能な遊びを見出している場所の2つに大別されることがわかった. さらに,(1)について11パターン,(2)について6パターンの具体的な空間特性を明らかにし,(1)については,現状の公園整備における通説との差異点を明らかにした.
 子どもたちが「面白い」と思う空間は,必ずしも安全性が確保されているような場所ではなかった.また私有地に及ぶ場所も今回の調査では数多く確認された.
 今後,安全性との両立をどのように図るか,また地域としてどのように子どもの遊び場確保に対応していくか議論していくことが,今後の課題であることを指摘した.

「小規模野菜農家の生き残り戦略に関する研究 山梨県内の農家を対象にして」(千須和 直人)


 現在日本の農政は大規模化を進める方針であるが、日本において9割以上が、農地が5haに満たない小規模農家である。もちろん大規模農家は日本の農業の中核を担うべき存在ではあるが、小規模でも農業を続けられる方法を考える事も、今後の農業の活性化に必要である。そのためには様々な付加価値を付ける工夫が必要だが、その中で有機や減農薬といった付加価値を付ける事が小規模野菜農家の持続可能性に影響を与えると考えられる。
 本研究は農業センサス等からのデータ収集と山梨県就農支援センターへのヒアリングから、山梨県内の農業を取り巻く状況と農業に対する支援を明らかにし、山梨県内の有機・減農薬野菜農家へのヒアリングから、農家の経営の実態を明らかにし、今後の農業の活性化に関する知見を得る事を目的としたものである。農家へのヒアリング結果から、個人宅配、生協、小売店、飲食店の4つの販売経路があり、その販売経路の違いが売り上げの違いに強く影響を与えており、取引に関わる人脈の存在、農家の理念が販売経路を決定する事が明らかになった。
 対象農家は次のような5つのタイプの農家に分けられた。コミュニケーション重視型農家:収入ではなく消費者との交流をモチベーションにしている農家。ビジネス型農家:言い分が通る店舗を選んで売り込みを行い、多くの売り上げを得ている農家。卸売り専門型農家:自身で売り込みをせず、農家同士の人脈で生協や小売店などへの共同出荷をおこなう農家。混合理念型農家:消費者との交流に魅力を感じているが、売り上げに繋がる取引先の必要性も感じて、生協や小売店と取引している農家。人材育成型農家:有機農業の普及を目指して研修生を受け入れ、農業技術の他に就農当初の販売経路の確保の教育をするとともにその労働力を活用して規模と収入を確保している農家。そして、これらの各タイプの農家の特徴と今後の課題を明らかにした。

「中心市街地活性化におけるタウン誌の役割と可能性に関する考察 長野市における先進事例」(小野 直之)


 情報化社会である現在、情報が人々の行動に与える影響は大きく、地方都市の活性化・まちづくりにおいても、まちの資源(人、物、様々な活動など)を活かしていくためのツールとして、効果的な情報発信のあり方を考える必要がある。また、まちの活性化・まちづくりに繋がる可能性がある情報発信とは、行政側からのまちづくり情報の発信というよりは、民間側からの利害関係を気にすることなく自由に発信される情報が重要であると考えられる。
 本研究は、まちの活性化・まちづくりに繋がる効果的な情報発信媒体としてタウン誌に着目した。長野で活性化・まちづくりを強く意識して情報発信しているタウン誌「KURA」(発行元カントリープレス)を研究対象として取り上げ、ヒアリング調査、文献調査を行うことで、タウン誌がまちの活性化に寄与した実態を明らかにしている。
 その結果次のような成果を得た。
1)紙面におけるまちづくりの取り上げ方・内容の特徴として、「利害関係に捉われずに幅広く団体や個人を紹介している点」「TMOの活動や行政の政策を分かり易く紹介している点」「誌面を通じてワークショップやボランティア、イベントへの参加を募っていること」「編集部自らが活動を起こすことによって、発信情報を創出している点」「まちづくりの記録資料としての蓄積になっている点」等を指摘した。
2)タウン誌がまちづくりに効果的に係わるための要点として「取材を重ねるごとに構築される人脈ネットワーク・情報ストック」を活かして、「まちづくりの計画提案や事業のコーディネートや様々な活動主体との協働による事業推進」をおこなっている点を指摘した。
 

「公共的文化財の予算決定メカニズムー日本/イギリス/オランダ /ドイツの文化関係予算を対象としてー」(小坂太紀惠)


 従来の事業評価方法では土木構造物の価値を定量的に評価する手法は存在せず、採算性も不明確である。一方で、橋梁等の土木構造物は年月を経て世界遺産や文化財に多く登録されている。このことから、土木事業は機能としての価値だけではなく、文化財的な価値も有することが示される。
 そこで、先進諸国を対象として、各国の文化関係予算の決定メカニズムを明らかにし、先進諸国の文化財事業の予算決定メカニズムをひも解くことで、将来文化財としての価値を有する土木事業に対して、基礎的知見を得られるのではないかと考えた。
 本論文では、各国の文化に関する予算決定メカニズムを明らかにすることを目的とした。日本を含めた先進諸国21カ国の文化関係機関を対象に、文献、Web、ヒアリング、アンケート調査を行った。
 その結果、次のようなことが分かった。アメリカが主に税の優遇措置を利用して文化の保存と発達に寄与する体制を整えているのに対して、フランスは、国家予算の積極投資により文化の保存と発達に寄与しようとする姿が見え、各国の財政ポリシーとシステムの違いによる予算の違いがあること。また、イギリスではトップダウンで予算を決定するシステムがあり、政策年毎の予算額とGDPの間には正の相関関係があるものの、単年毎に見ると正の相関関係が小さく、政策に応じた投資のメリハリがはっきりしていること。一方、日本は、フランスと同等の一人当たりGDPをもつにも関わらず、フランスに比べて文化関係費が少ない。その要因として、「文化に対する基本的な考え方の違い」「フランスのように目標値を議会で決定するプロセスが無い、すなわち予算積み上げ型の予算決定システムにおいては、後発の文化関係費は低い地位のままとどまっていること」を指摘した。




2007年度 修士論文(中間報告)


「町並み景観保全のための住宅建築様式に対する住民意識把握に関する研究
  −建築ガイドライン策定に向けての住民意識調査−」
(溝渕 浩平)


 景観法全面施行後、建築物に対する形態・意匠等の規制強化が以前に比べ容易となった。その結果地域住民や各自治体の町並み景観への意識向上や取組みへの後押しにもなり、今後の町並み景観保全に関する建築ガイドライン作成への動きが活発化してくると考えられる。
 建築ガイドライン作成に当たり、建築様式やそれを型造る基本的構成要素を明確にする必要がある。伝統的建造物群保存地区など町並み景観を構成する建築様式が明確な地域と比べ、ごく普通の新旧建築様式が混在し複雑化した地域においては建築ガイドラインの道筋が明瞭でない事が問題となる。そのため、複雑化した建築様式を調査し、その実態を明らかにすると共に、住民の町並みに対する意向と併せて地域独自の建築ガイドラインを作成していく事が求められている。  本研究では、地方小都市中心部における建築様式及び住民意識の現状把握結果を基に、住民が考える対象地らしい建築様式の意向が反映された建築ガイドライン策定に向けての基礎的知見を得る事及びその方策課題を示す事を目的とする。


「社寺を視点場とした眺望景観の実態把握-甲府盆地を対象として-」(加藤 友浩)


四方を取り囲む山並みの眺望は,盆地における重要な景観である.甲府盆地では近年,高層マンションや鉄塔などにより,眺望景観は失われつつある.景観法施行後,各地で景観計画策定に向けての動きが活発化しているが,眺望景観をコントロールする取り組みについては,まだ多くは見られない(1). 本研究では,眺望の主要な視点場のひとつとして挙げられる寺社に着目する.そこは,例えば神体山の山アテに見られるように,地形や景観との関係性が強く,地域の歴史的・意味的景観として重要である.寺社を視点場として,眺望景観の実態を把握することによって,今後の眺望景観保全に役立つ知見を得ることを本研究の目的とする. 寺社61箇所のうち,山アテが見られたのは瑞岩寺,酒折宮の2箇所だけだった.眺望景観の構成要素から,3つの主要な眺望景観の型(生けどり型・パノラマ型・中景型)を抽出し,寺社からの眺望景観特性を把握した. 
 
 


2007年度 卒業論文

「伝統的建築物の保存に関する居住者意識調査-文化財でない建築物を対象として-」 
(鈴木正道)


 現在、生活様式の変化や経済的理由などで伝統的建築物の維持が困難となり取り壊され、歴史ある町並みが徐々に失われつつある。文化財に至らない伝統的建築物でも地域を知る資源であり残していくことが重要である。 本研究では、伝統的建築物の保存に向けて課題を明らかにすることを目的とした。ヒアリング調査により居住者意識を把握し、伝統的建築物の住民が持つ課題を明らかにすることで今後の保存に役立つ基礎的知見を整理する。

「まちづくりに効果的な朝市の考察 
  −山梨県内の朝市における出店者調査に基づいて−」
(山上泰史)


 朝市は、単に出店者の収入増だけでなく、土地独自の商品開発、起業、市民協働まちづくりへの契機となることが期待される。さらに、地域商品の購入や、生産者との直接的な触れ合いを通じて、来訪者にその土地の魅力を知ってもらい、都市と農村の持続的な交流に効果を及ぼす期待もある。本研究は、山梨県内の朝市を対象とし、出店者にヒアリングを行ない、朝市がどのような効果をもたらし、まちづくりにつながるかを評価・考察する。

「農村生活空間における大切な場所の景観的特徴に関する研究-山梨県北社市津金地区を対象として-」(後藤晃宏)


 景観への意識の高まりを受け、文化的景観が保護対象となった。 しかし文化的景観と同等に、日常生活の中にごく当たり前に存在する生活景観も大切なのではないか。 そこで本研究ではまずこの地域の住民へのアンケート調査により、生活空間における大切な場所として抽出された場の景観的特徴を評価することにより、今後多くの地域で生活景観として残していくべき場の特徴を知るための基礎的知見を得ることを目的とする。

「甲府中心市街地における空き店舗対策事業の考察−経営者へのヒアリング調査による−」(森田慎也)


 今日の地方都市では中心市街地の衰退化が問題となり、様々な対策がとられている。甲府市でも中心市街地への新規出店への家賃補助が行われている。しかし、いまだ空き店舗が目立ち、継続できない店舗が出てしまうというのが現状であり、改善の余地があると思われる。そこで、本研究では甲府中心商店街空き店舗対策補助を受けた経営者側へのヒアリング調査を行い、今後の空き店舗対策事業のあり方について考察する。