Research 2009






2009年度 修士論文


「新たなツーリズム“フットパス”の実現プロセスに関する研究―勝沼におけるフットパスを対象として―」(鈴木正道)

 観光客が地域の景観や自然を楽しみながら歩く、新しい観光形態の1つであるフットパス活動が近年わが国で独自の展開を見せている。勝沼で行われている市民行政協働型のフットパスは経済効果が小さくとも、その実施過程で住民に地域の新たな魅力を再発見させ、協働まちづくり活動の活性化・他への展開を持続的にもたらす可能性がある。さらにこのフットパスは些細な資源でもそれを活かすアイディア次第でどこでも成立できる可能性があり、各地への波及が期待される。本研究は、勝沼でフットパスの活動が成立したプロセスとフットパス実施による効果を関係者へのヒアリング調査によって収集・整理し、その中に見いだされるフットパス成要因を明らかにし、さらにフットパスに参加する観光客の特性や彼らの評価を把握してフットパスの今後の展開を考察したものである。
 成立要因としては以下の点を明らかにしている。@組織の人材(発案し活動を楽しむ人・住民と活動できる行政職員・地域の歴史に詳しい人・積極的参加の女性・イベント時だけサポートする人)、Aこれらの人材が輩出される風土的基盤は昭和初期からの3つの活動に見いだされる(ぶどうまつり、子供教育キャンプ、住民に説明責任を果たすという行政内教育)、B住民行政協働および活動を楽しむという指向性は昭和末期からの5つの行政計画策定手法に見いだされる(委員会でまち歩きなどのワークショップ形式を取り入れて問題意識を醸成し、計画策定後に住民主体の会の発足を促す。さらにこれによって生まれた複数の会のメンバーが重複し互いに関係を持つ)、C生活資源を無理なく活用する(例えば冠婚葬祭の資源と技術)、D行政はハード事業が後にフットパスなど住民の活動によって活かされるストーリーを予め描き、ハード事業にソフト事業予算を組み込む工夫をしている。
 フットパスの実施による効果としては、集落単位での新たな活動(縁側カフェ)の発生、ガイドボランティアの増加、を把握し、それらの成立過程を整理し、観光客に対する調査では、地域の協力者としての観光客の可能性を見いだした。
 
 


2009年度 卒業論文

「デジタルカメラを用いた風土色の導出に関する研究」 
(荒木久司)


 地域にはその地域の土・石・樹木など(以下自然物と記す)が存在し地域ごとに異なった色を持つ。また、人々が住む地域の気候などから無意識的に選択する壁面の色なども、地域ごとにそれぞれ異なった色を持つ。そのような地域ごとに異なるその地域固有の色を、『風土色』と定義し、その実態を把握することを試みた。一般的な色を測る方法としては、色票を用い、対象物と色票の色を照らし合わせて色票の色を読むという方法と、測色計を用い、直接測色計を対象物にあて、算出された数値を読むという方法が一般に採られている。しかし、色票を用いた方法は対象物が均一の色を持つペイント面などでは有効だが、石などの自然物等では対象に細かい色が散在しているので、色票で色を照らし合わせるには大変な労力を要す。そこでデジタルカメラを用いた測色方法を用いた。対象地を甲府市上積翠寺とし、石・土・樹木の色を測色し、その色彩の傾向(色相・明度・彩度の特徴)を明らかにした。

「空き家バンクの伝統的農村集落への活用に関する研究 」 
(袋井智博)

 過疎化・高齢化の進行に伴い、農村集落では伝統的民家の空き家化が進行し減少に繋がっている。一方で、UIJターン者が増加するなど地方や農村地域への移住希望者が増加している。そこで、空き家を移住希望者の住居に活用することで農村地域の伝統的民家の保全・活用に繋がると考え、全国的に行われている空き家バンク事業に注目し農村地域への活用可能性を考察することを目的とした。本研究では、山梨県内における空き家バンク事業の現状把握と課題抽出を行い、伝統的民家の多く残る山梨県芦川町を対象に住民意識を調査し、それら調査結果から芦川町における空き家バンクの活用可能性を考察した結果、空き家バンクによる空き家活用可能性はあると考えられるが、自治体のみでの事業運営の困難さと登録物件数の不足が課題となることを明らかにした。

「住民・行政協働による地域減災力向上に関する研究」 
(三井あゆみ)

 住民・行政協働の減災力向上を目的とした活動を行うにあたり役立つ知見を得ることを目的とした。具体的には実際に市川大門中央地区6丁目防災会を対象に活動を行い、その活動を観察し記録を行う。さらに活動への参加住民を対象にアンケート調査を実施し、地震災害に対する意識変化や、地震対策の実施の有無についての調査を行った。これらの記録と調査を整理し、行った活動の効果と課題を抽出し、それを踏まえて今後他の地域でも使える減災力向上を目的とした活動のプロセスの提案した。
 今回の活動が効果的だったと言える点は家具固定の実施率向上、減災情報システムへの情報登録と名簿管理の合意、地域の減災活動を進めていく上で主体となる住民が育った、今後活動を行っていく上で情報提供を行っていく役場職員が育ったことが認められた。一方、今回の活動を通して残された課題点は、参加率の低下、時間経過により危機意識の低下、家具固定の実施における協力体制、耐震診断・耐震補強の意識と実施の乖離、活動への参加が出来ない住民に対して、事後のフォローが行き届かなかったことが挙げられた。これらの課題それぞれに対して改善策の案を提案し、今回の活動プロセスをもとに117のチェック項目を設け、6段階のプロセスの提案を行った。