Research 2013






2013年度 修士論文

「住宅地内の広場・公園空間の利用実態に関する研究 -中国・新余市と甲府市を対象として- 」(傅 益)


 日常生活の一部として様々な目的で自由に利用できる屋外空間の存在は、人々のコミュニケーションを誘発して、豊かなコミュニティを形成する媒体として重要である。本研究は利用が減少している日本(甲府市)と、現在では盛んに利用されているが将来の利用減少が懸念される中国(新余市)の、住宅地内にある広場を対象として、空間利用実態および利用意識を明らかにし、特にコミュニケーションの場所としての広場空間の実態を明らかにしようとした研究である。  活動の実態では中国では多様な世代の活動とコミュニケーションが見られたが特に老人層の集団的運動が特徴的であり、その活動を核として他の活動の連鎖的発生がみられた。そして集団的運動にはその活動を支援するリーダーが存在していた。日本では幼児の遊具遊びを媒介とした主婦のコミュニケーションと老人層の個人活動(他の活動を眺める)に二分されていた。空間との関係では両国とも動的活動が空間の中心にありその周囲や残余地に静的活動が行われ棲み分けがなされていた。動的静的活動と仕分けは空間設計に十分に配慮されていないことを指摘した。利用意識では中国では幾何学的な西洋広場に対する評価が低く芝生や樹下空間などを求めていた。このような意識の点から日本の広場設計手法は中国の今後の広場設計に対して示唆を与えることを指摘した。また中国では集団的運動を核として盛んなコミュニケーションがみられたが、日本では希薄であった。しかし、広場で過去に知人を作った人は51%(60歳以上では86%)、今後、他人と交流したいと考える人は69%(60歳以上では84%)と、広場におけるコミュニケーションへの期待は高いことを明らかにした。広場を地域コミュニティ活性化の1つの媒体とするために、元気な老人を中心として、日常的で気軽に参加できる活動を誘発するリーダーの養成を提案している。   

「景観計画における色彩規制基準の傾向に関する研究」(徳武 広太郎)


 本研究は、景観計画における色彩規制基準の実態および決定要因を把握し、その特徴を明らかにしたものである。実態では、2013年6月時点で景観計画を策定済みの全国の369自治体を対象とし、色彩規制基準の多くを占めるマンセル表色系による基準に着目して、その特徴の類型化を行った。決定要因については同景観計画を策定済みの地方自治体に調査票調査を行って把握した(有効回答率58%)。  その結果、以下の成果を得た。
1)色彩規制基準は4つに類型化された。全体の85%は暖色系の彩度が緩く寒色系の彩度が厳しい設定で、そのうち7割は暖色系の彩度3~6以下、寒色系の彩度2~2.4以下を許可するものでこれが主流である(G1)。残り3割は暖色系の彩度2〜3.5以下,寒色系の彩度0.5〜0.7以下を許可するものでやや厳しい基準のものであった(G2)。また、全体の25%は暖色系と寒色系を区分しない設定で、そのうち9割は彩度5.2~6.3以下の中彩度を許可し(G3)、1割は彩度9~10以下と高彩度まで許可するものであった(G4)。暖色系と寒色系の区分はY系とGY系の境界が最も多く、次いでR系とYR系の境界が多く、詳細にみると暖色系内で若干異なる彩度を設けている場合も多く0R-9R、5YR-4Y、0Y-9Yの区分を明らかにした。
2)地域特性の違いに着目すると、「農村・歴史地域」では低明度を許可していた。これは自然素材の色と整合を図るためではないかと考察した。一方、「市街地・幹線沿道地域」では、低明度を許可していなかった。これは自然素材が使われることが少ない地域のため、騒色を排除したい意思が働いた結果と考察している。
3)色彩規制基準の決定要因に関しては、多くが先進事例の基準を参考にしたと答えた。東京都のように色彩規制基準を設定し指導している場合は、区はそれに倣って設定していた。しかし、それ以外の多くが、先進事例の色彩規制基準を参考程度にとどめて、独自に基準を設定していた実態を明らかにした。
 

「観光客と住民の観光地に対する意識に関する研究‐忍野八海を事例として‐」(柳 雅聡)

 持続的な観光地を目指すには観光客が望む観光地の姿と地域住民が目指す地域の姿の整合を図ることが求められる。本研究は山梨県忍野八海を対象に、観光客と地域住民の観光に対する意識構造を明らかにしたものである。  探索的因子分析の結果、観光客は自然景観や静的な活動に対して期待し、観光後においても満足していること、特に「自然との触れ合い」は他因子に対して高い相関を示し、総合評価に影響していたこと、「自然との触れ合い」の中でも「散策を楽しめる」ことが重要であることを明らかにした。観光客に対しては、伝統的景観・雰囲気づくり、物販・飲食の質、地域の歴史・文化・自然学習のサービスの向上を図ることで「自然との触れあい」との相乗効果が生まれ、より観光客が満足しうる観光地づくりが可能となることを明らかにしている。  また、住民の観光に対する評価は、自然景観や静的な活動に対する満足度が高かったが、総合評価に影響を与えているのは「ホスピタリティ」であり、次いで「学習」であり、「ホスピタリティ」の中でも「村民の観光客へのもてなし」が特に重要であると住民は考えていることを明らかにした。「ホスピタリティ」は現状では住民と観光客ともに期待も評価も低いが、ホスピタリティの向上が住民の目指す観光地像に一致し観光客にとっても新しい魅力となる可能性を指摘している。  現状では低い評価のホスピタリティを引き上げると同時に、観光客の重視する「自然との触れ合い」を今一度見直し、観光客がより自然と触れあえる空間整備や取組みを中心とした総合的なサービスの向上を図ることで、忍野八海観光における「ホスピタリティ」の価値を高めることにつながり、住民・観光客の両者が満足できる持続可能な観光振興の可能性を指摘した。
   

2013年度 卒業論文

「NIRSを用いた生理学的景観評価のための基礎的研究 -課題による前頭前野の脳血流変化の計測- 」(石川 峻亮)


景観評価に対する思考を直接計測するために、生理指標を用いた景観評価の研究が行われている。 既存研究では、ストレス状態からの街路景観画像提示による生理的影響を、NIRS(近赤外分光法を用いた脳機能計測装置)を用いて分析したが、十分にストレスを負荷できず、ストレス緩和を確認できなかった。そこで、本研究では6つの課題遂行時における脳血流量変化をNIRSを用いて計測し、課題によるストレス負荷の程度を分析した。 その結果、計算課題(答えあり)においてoxy-Hb濃度が比較的大きく上昇する傾向が見られた。   
  

「山梨県南アルプス市を対象とした日常生活における大切な風景の景観特徴」(河西 慶悟)


 南アルプス市において2011年10月〜2012年9月の1年間で応募のあった「大切な風景」写真のうち日常生活空間を対象とした248枚の写真およびコメントを研究対象として、景観特徴の抽出と類型化を試みた。近景の単体要素(167サンプル)の主要な視対象は四季の植物(特に紅葉・桜・歴史資源の大木)、歴史的資源(寺社・道祖神・土木遺産)、水辺であった。これらは単体要素の保全および要素周辺の景観向上が課題となる。近景から遠景に至る眺望景観(68サンプル)の特徴としては俯瞰景が3割を占める、山並みが9割、田畑が3割を占める、山並みに加えられる中景の要素としては田畑、樹木、水辺との組み合わせで8割を占める、などの特徴がみられた。
 視対象の組み合わせによって眺望景観は9つの風景パターンに類型化された(「田園の背景に見える山並み」「河川の先に見える山並み」「樹木の背景に見える山並み」「史跡と背景に広がる山並み」「道路の延長上に見える山並み」「橋梁と山並み」「富士山のみに注目」「市街地(集落)と山並」「市街地(集落)の俯瞰」である)。眺望写真68の撮影地54地点について、実際の風景および視点場の状況を確認した。 その結果、眺望の状況としては、■写真で切り抜かれている風景と、実際に行って調査した風景とでは大きなギャップはない。 写真に写っているような風景が周囲にも広がっていて、望遠で撮影して対象を絞り込まないと美しい山並みが撮影できない事例は少なかった。 ■山腹では写真方向に見通しが良く眺望の視点場として優れている。 ■河川道路では縦断方向に見通しが良くシンボルとなる山並みが望めるが、縦断方向以外でも周囲の見通しが良い場所も少なくなく広範囲の視線方向で優れた視点場である。 ■平坦地では写真方向以外の方向へも見通しの良い農地が広がっており、眺望の視点場として優れている。 等が分かった。また視点場の状況としては、■公園を視点場とする場合以外は眺望点として整備されている場所ではない ■その場所の多くは、交通量の少ない幅員の狭い道である(特に山並+田畑の風景) ■このような視点場には駐車場などを整備するよりも、近傍の幹線道路沿道に駐車スペースを設け、そこから歩いて景色を楽しめる遊歩空間の整備の方が望ましいかもしれない。複数の視点場が近接する地区では回遊性も期待したい。視点場にはベンチなど腰掛けられる物や木陰空間などの小さな整備で十分に快適な視点場空間にできると思われる。 等を指摘した。景観100選からみえる南アルプス市の大事な景観の典型は ■人工物等が視界に入らずに広範囲に開放的な田畑の小径から山を眺める風景 であり ■田園の小径に限らず(河川や道路上や山裾など多くの場合も含めて) 開放的な田園空間の保全が大事な課題である。
  

「甲府盆地を望む眺望景観の景観的特性に関する研究」(福田 隼一)


 山梨県の魅力として甲府盆地、山並み景を望む眺望景観に着目し、、観光パンフレット・冊子に掲載されている写真の視点場と既存公共眺望地点の景観的特徴を明らかにした。 観光パンフレットの視点場は多くは無名の視点場で、「俯瞰景」としては、俯角は良好な値を示さなかったが、広範囲で望める視点場が多く挙げられた。一方、既存公共眺望地点の俯角は、良好な俯瞰景を望む場所が多く挙げられ、「樹木」や「人工物」の眺望阻害によって最大水平角が減少している場所があった。俯角と最大水平角の値に基づき、全視点場の典型パターンを示し、パターンごとにおける視点場整備手法を考察した。