Research 2014






2014年度 修士論文

「イベントにおける地域社会の関わりと活性化に関する研究ー甲州市勝沼町におけるワインツーリズムを対象としてー」 (川合 徹)



  地域資源を活用した着地型観光の推進による市民・企業・行政が協働した観光まちづくりが、新たな地域活性化の方法として期待されている。 本研究は山梨県で行われている着地型観光イベントであるワインツーリズムが観光まちづくり(地域の意識変化・行動実践・連携活動への波及)に与えた影響を明らかにしたものである。  住民(一般住民、農家、観光業)、ワイナリー、行政、主催者に対してワインツーリズムの活動実態、成果、課題と今後への期待に関するヒアリング調査を行った。 その結果、各主体の活動の関係を明らかにし、成果・課題・期待の内容を抽出した。住民とワイナリーの間の連携がやや薄いものの各主体が関係を持っていた。 また、成果としては意識変化、活動の実行、連携、観光対応の成果、課題としては意識、活動、経済、コンセプト、連携、交通の課題、期待としては地域発見、連携、活動、観光対応への期待を抽出した。 ヒアリングによって得られた成果・課題・期待を検証するために、 さらにワインツーリズムが意識や行動へ与えた影響を把握するために、住民・ワイナリーに対する調査票調査を行った。 その結果、地域への自信向上、もてなし意識の向上、個人あるいは協働の活動実行、世代間異業種間の交流増加の成果が確認された。 住民・ワイナリーいずれも他主体との交流意思、観光客へのもてなし意思が比較的高まったが、ワイナリーは住民に比べてイベントへの協力意思や観光客へのもてなし意思の増加は若干低いことが分かった。 住民・ワイナリーのいずれも互いの意見交換の場が必要と考えていた。 行動については、住民は交流の機会増加や地域に関する勉強の実践や環境美化活動など新たな行動をはじめた人がみられた。 イベントへの満足度はワイナリーで高いが、地域活性化への効果期待や継続希望は住民の方が高い。 本研究は、このイベントがワイナリーへの経済効果のみならず、 住民の意識変化や行動実践の点で良好な影響を与えていることを明らかにした。

「山梨県内における行政主体による歴史的建築物のリノベーションに関する研究」 (古瀬 俊明)


  わが国では歴史的建築物の存続が危ぶまれている。歴史的建築物の存続・活用の先導的担い手として行政の役割は大きいが、 取得後の有効活用に躊躇して保存・活用が進まない現状がある。 本研究は山梨県内において行政主体が歴史的建築物をリノベーションして活用している先進事例を対象として、 その運営の実態(課題・工夫・成果)を把握し、今後の伝統的建築物の良好な運営のための知見を整理したものである。  運営主体の行政およびNPO等の指定管理者に対してプレ調査・本調査・補足調査の丁寧なヒアリングを行った。 その結果、民俗資料展示利用・一般市民への一時的貸出利用・物販利用・飲食施設利用・図書館施設活用の常時活用運営に対する困難な点12項目(細分類30項目)、 工夫点11項目(細分類24項目)、成果点6項目(細分類18項目)を抽出し、暫時の73イベント運営に対する困難な点13項目(細分類75項目)、 工夫点9項目(細分類46項目)、成果点12項目(細分類34項目)を抽出した。 このうち、困難な点に関してはテキストデータから起因要素を抽出して考察している。 また、上記5つの常時活用に加え全国の文化財利用の一般的利用形態を参考に宿泊施設利用・福祉施設利用・事務所貸出利用を加えて、 現状でその活用を行えない理由を明らかにしている。 そこでは建物及び内部施設の制約が全般的な課題となっており、飲食・物販・宿泊・福祉では加えて認可制度・行政体制と人材の課題が指摘されている。 さらに、困難点を工夫し効果に至っている項目として歴史的建築物特有の建物施設の制約を困難と捉えずに伝統的な知恵の解説や体験によって来訪者につなげる例や、 イベント参加者の低迷に対して伝統文化の知識が無い人に対する工夫によって来訪者につなげる例や、来訪者増等の経済効果以外の地域社会への好影響(多世代コミュニケーションの生成、 歴史に興味ある人の育成、リピーターや口コミによる良質な交流等)の事例を抽出し、それらに基づいた具体的施策の提言を行なった。