糖鎖−糖鎖相互作用を利用したシュガークラスターの開発
〜細胞間識別の分子解析を目指して〜


 生体内における細胞間識別や接着において、細胞表層に存在するオリゴ糖や多糖が関わっていることが指摘されてきています。 しかしながら、糖質自体の複雑な化学構造のために分子レベルでの詳細な解析が難しいのが現状です。 そこで、糖鎖−糖鎖間の相互作用の解明のための分子ツールとして、蛍光分子を導入した様々な糖質誘導体を設計し、シュガークラスターの構築や糖質同士の相互作用を利用したシュガーセンサーの開発を行っています。 また、この蛍光性糖質分子ツールを細胞系へ展開させること、細胞表面状態の分子レベル解析を目指します。


細胞表層での糖鎖間相互作用の模式図


生体成分により安定化された金属ナノ粒子の構築と生理活性機能
〜ナノバイオマテリアルの創製に向けて〜

 金属はナノメートルサイズまで小さくすることで、量子サイズ効果によって特徴的な性質を示すことが知られています。 例えばそれは、色変化であったり、粒子の動きであったりします。近年これらの材料に興味がもたれ、金属ナノ粒子と呼ばれ、最先端技術への利用が期待されています。 そこで当研究室では生体親和性をもった金属ナノ粒子を作り出し、その機能性材料としての価値を追求しています。具体的には以下の通りです。

 ・生体分子により安定化された金属ナノ粒子の作製と利用
 ・生体親和性金属ナノ粒子の合成と動植物細胞への取り込み
 ・生体適合型金属ナノ粒子の電子授受を利用した各種デバイス

様々な生体分子によって保護された金属ナノ粒子


金属ナノ粒子の電子顕微鏡写真


金属ナノ粒子存在下で成育させたスプラウト


活性酸素発生能がコントロール可能な光増感システム
〜癌治療のための光増感物質〜


 現代における重要な疾患として挙げられるもののひとつにガンがあります。 有効なガン治療が開発されている中で、比較的新しい化学療法として光線力学的療法(PDT)が注目されています。 この光線力学的療法は、光増感物質に光エネルギーを与えることで、活性酸素種の1つである一重項酸素を発生させてガン細胞を壊死させるというメカニズムで成り立っています。 しかしながら、治療後に残存する光増感物質から発生する活性酸素種が正常細胞に対して傷害を与えること、即ち光毒性が大きな問題となっています。 そこで、我々は活性酸素発生能が人為的にコントロールできる光増感システムの開発を目指しています。 光増感物質の一種であるポルフィリン誘導体を用いて、その超分子組織化平衡に由来する活性酸素発生現象の制御を行うことで、 光毒性の発現-消去スイッチングが可能な光増感システムの確立に成功しました。


生理活性物質の超分子化
〜生体適合材料の発展を目指して〜


 生体系では、多様な生理活性物質が超分子組織化することで、生命現象の維持が成し遂げられていると言っても過言ではありません。 この生物の高度な機能を再現・超越するためには、生理活性物質の意図的な超分子化に関する化学的理解が必要となります。 そこで、我々は様々な生理活性物質に組織化に関連する機能性部位を共有結合や非共有結合によって導入する試みを行っています。 具体的な対象物質としてはポリフェノールや多糖等を使用しています。 これらの物質によって創出される超分子型生理活性物質、即ちポリ(ポリフェノール)やポリ多糖等の生理条件で振る舞う挙動は非常に興味深いものであります。例えば、多糖類のゲル化を利用した生理活性化合物等の有機化合物の取り込み能や安定化などを研究しています。


フラボノイド類を取り込んだ多糖ゲル



生体分子染色剤を取り込んだ多糖ゲル