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多摩川ウイルス調査

はじめに

2003年4月〜2004年3月の1年間、多摩川の上流から下流までを対象とした腸管系ウイルスの調査を行いました。腸管系ウイルスは、食べ物や水を介して人の体内に侵入し、腸管細胞に感染して増殖します。ウイルスの増殖によって、下痢や発熱、嘔吐などの症状が発生します。ウイルスに感染した人の糞便中には非常に高い濃度でウイルスが排出されるため、下水処理場では適切なウイルスの除去、不活化が求められています。

下水処理場からウイルスを含んだ処理水が放流された場合、それらが水道水源として取水されることで水道水にウイルスに含まれる可能性があります。また、海や川でのレクリエーション行為でウイルスを含んだ水を誤飲してしまうことも考えられます。牡蠣などの貝類はウイルスを高濃度に蓄積することが知られており、未加熱あるいは加熱不十分でそれらを食することでウイルスに感染する危険性があります。

しかしながら、下水処理場からどのくらいの量のウイルスが環境中に放出されていて、川や海にどの程度の量のウイルスがいるのかについては十分に把握されていません。そこで、私の研究では、河川の流路全体を調査対象とすることにより、河川水がウイルスに汚染されていく実態の把握を試みました。

下の多摩川の地図の中に採水地点を示してあります。A〜Fの6地点で毎月1回の割合で河川水(表流水)の採水を行ました。A地点は奥多摩湖(東京都奥多摩町)、B地点は羽村取水堰(東京都羽村市)、C地点は多摩大橋(東京都昭島市)、D地点は稲城大橋(東京都府中市)、E地点は砧浄水場(東京都世田谷区)、F地点は二子橋(神奈川県川崎市)です。ご覧の通り、多摩川の中流域から下流域にかけては多数の下水処理場が見られ、河川が下水処理水に汚染されていると考えられます。


多摩川地図


全12回の調査のすべてで中川技官に同行して頂きました。「走り屋」の異名に相応しいパワフルな走りで多摩川を駆け抜けて貰いました。黒田さんには計5回サンプリングを手伝って頂いた他、毎回の試料の分析にも協力して貰いました。また、片山講師、上條さん、チャネッターさんの3人には、1回ずつゲストとしてサンプリングに同行して頂きました。

写真をクリックすると拡大してご覧になれます。
また、写真にカーソルを合わせると説明を見ることができます。

走り屋技官 天気の良い日には富士山が見えました

A地点(奥多摩湖)

大学を出発すること2時間以上。奥多摩湖を目指す道路を外れ、岩の転がる曲がりくねった道の途中に最初の採水地点があります。A地点は、奥多摩湖まで数kmの地点になります。川は20mくらいの下を流れています。さーて、下に降りるか!と思ってはみたものの…。え〜と、階段がないんですけど…。と言うわけで、道のない斜面を半ば滑り落ちるかのように下まで降りることになりました。足を滑らせたら確実に大変なことになっていたことでしょうが、何とか全員無事で。

岩はゴツゴツしていて、流れが速い。そして、夏でも冷たくて気持ち良い。ペットボトルが落ちていたりしていて、誰かバーベキューでもしていたようです。つまりは、どこか近くに簡単に川に降りられる場所があったと…。吊り橋はどうにも信じられなくてかなりビクビクしましたが、ど真ん中に座って記念撮影しました。サンプリングも命懸けでございます。

採水地点 ここから下まで命懸けで降りました 中川さんと黒田さんが採水中 吊り橋は揺れて恐かったんですけど→ 頑張って中央で記念撮影しました!
吊り橋から採水地点を見下ろす 先々降りて行く片山講師 夏は生い茂っていた草木も→ 冬にはこんな寂しいことに

B地点(羽村取水堰)

羽村取水堰では、上流からの河川水の一部を引き抜いて玉川上水へと通水しています。残りの水が下流へと流れて行くので、その水を採取しました。コンクリートの川底は水深も浅く、子供はもちろんのこと、おじさんや自転車で突破する勇者も見られました。夏には水着姿の女性が見られるとの情報にワクワクした8月の調査でしたが、残念ながら私は目撃することはできませんでした。日光浴をしている人はいましたが…。

羽村取水堰 玉川上水の図 これが玉川上水 下流へ流れて行く水たち
年中釣り人で賑っていました わたくし。 上條さん(2003年8月) 記念撮影

C地点(多摩大橋)

多摩大橋の下流側のC地点は、上流の下水処理場からの放流水を受けており、鼻の詰まっている私にも分かるくらいの塩素臭がします。色もA、B地点とは明らかに異なっていて、今回の調査で対象とした6地点の中では最も「危険な」水でした。何故か巨大なコイがいたりもしたのですが、近くには家のない方々が住んでいらっしゃるようで、もしかしたら、その方たちのものだったのかもしれません。次の月に行ったときにはなくなっていたので、もしかしたら…。

多摩大橋 コツコツ採水中 黒田さんが採水中 秋の風景
ネコがたくさん♪ 食用?コイ

D地点(稲城大橋)

D地点は、稲城大橋の下流側に位置します。黒田さんが犬にいじめられたという伝説のポイントでもあります。すぐ上流には下水処理場の放流口があり、大量の泡が見られたこともありました。たくさんのコイはもちろんのこと、地元の釣り人の話によれば、アユが釣れることもあるそうです。「釣ったアユを食べてる人がいるんですけど大丈夫なんですかね〜」と聞かれたりもしましたが、そんなことを僕に聞かれても困ります。

稲城大橋 意外に広い 秋の風景 ゴルフ?

E地点(砧浄水場)

E地点への移動中、かなり何かに困っているらしい民家の前を通り過ぎました。色々な立て札があったのですが、中でも、「かんちがいするな!」がNo.1でしたね。そして、私が大学1〜2年の頃に済んでいた狛江市のタマエスティの前を通ったりもしました。

これ以上盗むな! かんちがいするな! 花木をからすな! 懐かしのタマエスティ

そこからさらに5分ほど車を走らせるとE地点に到着します。ここは、砧浄水場の前あたりに位置する地点で、下流なだけに河川敷の面積はかなり広くなっています。草を掻き分け、砂利道をかなりの距離歩かなければならないのが欠点ですが、小学生のチビッ子軍団がいたり、犬がいたりしました。ここの伏流水が取水されているわけですが、表流水には泡がたくさん浮いていました。

E地点 チビッ子軍団襲来! 採水中 獲ったどーー!
アワアワしてました もっとアワアワしてました 工事中の砧浄水場

F地点(二子橋)

田園都市線の橋脚の真下を最下流の採水地点としました。野川が本流に合流するこの地点は、二子玉川駅から近いこともあり、夏はバーベキューで賑っており、その結果、川に入水する親水行為が多く見られる場所でもあります。ゴミに群がるカラスも多く、こんな場所で水遊びをするのは微生物学者的には信じられませんが、一度だけカモが泳いでるのを見掛けました。

採水地点 意外に水深が浅い カモちゃんたち

おわりに

ここでは詳しい調査結果はお見せしませんが、本調査では、下水処理水に汚染された河川水から高い割合で様々なウイルスを検出することができました。また、ウイルスによってその検出傾向(季節パターン)が異なることが分かりました。

詳しい結果については、第38回日本水環境学会年会(2004年3月 札幌、講演集532ページ)および第52回日本ウイルス学会学術集会(2004年 横浜、抄録集246ページ)にて報告しております。また、2005年3月には第39回日本水環境学会年会(2005年 千葉、講演集537ページ)においても発表を行いました。研究論文としては、Applied and Environmental Microbiologyに2005年5月に掲載されました。そちらの方も御一読頂ければ幸いです。

↓ いつもいつも御馳走様でした!!
いつもいつも 御馳走様でした!!

Last updated : 2007.04.01
by Eiji Haramoto