水の中は、まだ「圏外」だ。
さあ、光でつなごう。
山梨大学工学部 中村一彦研究室へようこそ。
未来の通信技術「水中光無線通信」の世界をのぞいてみませんか?
なぜ、水の中へ?
Wi-Fiやスマホの電波が届かない水の中。そこには通信を阻む「見えない壁」があります。
電波は、進めない。
水は電波のエネルギーをすぐに吸収してしまいます。まるで濃い泥の中を走るように、水中では数メートルも進むことができません。
音は、遅すぎる。
音(可聴音、超音波)は遠くまで届きますが、通信速度はとても「スロー」。高画質の動画を送るのは、映画を郵便で1コマずつ送るようなもので、現代のニーズには追いつけません。
光で伝える!未来の技術
レーザーやLEDの超高速な点滅で、膨大な情報を一瞬で届けます。
水中通信、くらべてみよう
下のボタンで切り替えて、電波・音波・光の性能の違いを見てみよう。
(水質によって多少変わります)
なぜ青や緑の光を使うの?
水には、光を通しやすい「窓」があります。赤い光はすぐに吸収されますが、青や緑の光は遠くまで届きます。
ただ、水質によっても変化してしまいます。
(以下のグラフは一例です)
海の未来が、ガラリと変わる
この技術が、これまで不可能だったことを可能にし、私たちの暮らしや社会を豊かにします。
深海探査と科学
未知の生物や海底火山をリアルタイム・高画質で観測。地球最後の秘境の謎に挑みます。
環境モニタリング
水質や生態系を常時監視。海の健康を守り、持続可能な漁業を実現します。
インフラ点検と防災
水中ドローンが橋やダムを安全に点検。災害時には迅速な状況把握に貢献します。
産業とレジャー
ダイビング中にビデオ通話。新しいエンターテイメントや観光の形が生まれます。
研究スタイル
アイデアを形にする科学の冒険は、終わりのないサイクルです。
1. 着想・仮説
「なぜ?」「もしこうしたら?」という好奇心からすべてが始まります。解決すべき課題を見つけ、その答えを予測します。
2. 理論構築
新しい通信の仕組み・変調フォーマット・信号処理技術のアイデアをモデル化し、どうすれば機能するかの「設計図」を描く段階です。
3. シミュレーション
コンピュータ内に「仮想の通信システム」を作り、「設計図」をテスト。コストをかけずに改良を重ねます。
Matlab(GNU Octave)を主に使います(Python, Cもたまに)。
4. 試作
シミュレーションで得た知見をもとに、実際に動く送受信機を製作します。アイデアが初めて「形」になる瞬間です。
5. 実証実験
まずは研究室の水槽を用いて、現実世界でアイデアが機能するかを確かめる、最も重要なテストを実施します。将来的には、本物の海・湖・河川で。
可視光の半導体レーザ、LEDを用いたギガビット級の光無線通信実験のための装置・設備を所有しています。
6. フィードバック
実験結果を分析し、新たな疑問や改善点を見つけます。この発見が、次の「着想・仮説」へと繋がっていくのです。
現在の挑戦:濁った水に光を届ける
最大の課題は「濁り」。港や川など、社会的に重要な応用現場の多くは水が濁っています。私の研究室では、この研究サイクルを回しながら、濁った水の中でも高速通信を可能にするため、これまで注目されてこなかった「黄色〜橙色」の光の可能性を検証しています。
中村一彦 准教授
「通信の専門家がなぜ海の中を?」と思うかもしれません。地球の広大で重要な部分が、取り残されている。私の情熱は、その「圏外」の世界をオンラインにし、「水中のモノのインターネット」を実現する技術を構築することにあります。
- 所属: 山梨大学 大学院総合研究部 工学域 基礎科学系
- 工学部 基礎教育センター
- 工学科 電気電子工学コース 兼務
- 専門: 通信・ネットワーク工学 (特に水中光無線通信)
- 学位: 博士(工学)
未来の研究者を目指す君へ
「なぜ?」から冒険は始まります。その好奇心を、世界の問題を解決する「力」に変えませんか?
山梨大学工学部は、君の挑戦を待っています。