再生医療の実用化に向けた生物工学研究

〜多能性幹細胞(ES・iPS細胞)の増殖と分化を制御する〜

 胚性幹(ES)細胞や人工多能性幹(iPS)細胞に代表される多能性幹細胞は、無限に増殖する能力と生体のあらゆる細胞種に分化する能力を兼ね備えています。これら多能性幹細胞の分化を誘導し、いろいろな細胞をつくりだす試みがなされています。多能性幹細胞の分化を誘導する際に、胚様体(EB)という球状の細胞集塊を形成させる方法は、有効な分化誘導技術となっています。私たちは、EB形成のための技術開発とEBの品質保証に関する研究を行っています。

マウスES細胞      
    マウスES細胞のコロニー                

 

研究テーマ

1. 胚様体の形成方法に関する研究
 私たちは、分化状態が均一の胚様体を高い再現性で生産できる方法を開発しました。それは、リン脂質ポリマー(MPCポリマー)を培養面に塗布して、細胞の付着性を低減させた96 well plateです。このプレートを用いると、単位wellあたりで、既知数のES細胞から単一のEBを再現性よく形成させることができます(下写真)。 この写真は分散されたES細胞がMPCを塗布したプレート上では接着せずに集塊を形成し、やがて胚様体 に生育していく過程を示しています。

EB2hEB6hEB24hEB48hEB72h

2. 胚様体の品質管理
 胚様体(EB)がどのような分化状態にあるのかを知ることは、その後の研究を効率的に進める上で重要です。私たちは、種々の培養条件で形成したさまざまなタイプのEBの分化状態を明らかにする研究を行っています。EB形成のための培養条件をコントロールすることにより、特定の分化状態にあるEBを意図的、かつ安定的に作製可能であることが分かってきました。本研究成果は、今後のES細胞の分化制御の研究やEB生産の品質管理に貢献するものと期待されます。

3. iPS細胞から様々な体細胞を効率的に分化誘導する技術の開発
 iPS細胞(人工多能性幹細胞;induced pluripotent stem cell)は、体細胞を初期化(遺伝子のエピジェネティックな変化を受精卵に近い状態にもどすこと)して得られる万能細胞で、再生医療や製薬への応用が期待されています。しかし、初期化のメカニズムは完全には解明されておらず、初期化に伴うエピジェネティックな変化も一様ではありません。このため、作出されるiPS細胞の性質は多様であり、このことがiPS細胞を応用していく上での課題となっています。
 私たちは、iPS細胞の応用をスムーズに押し進めるために、培養工学的な研究手法を駆使し、(1)細胞の多様性を狭める、(2)分化細胞を大量に調整する、(3)細胞調製のコストを下げる、等の課題に取り組んで行きたいと考えています。

iPSコロニー ← iPS細胞のコロニー