研究背景
現在、私たちの身の回りには、AIを搭載したロボットや機械が増えています。これらのロボットが将来、さらに発展し、原子力発電所や宇宙空間といった過酷な環境でも活躍できるようになることが期待されています。しかし、そういった環境で動作するためには、ロボットを構成する部品、特に半導体という電気を制御するための重要な部品が、非常に高い耐久性を持つ必要があります。
一般的に、半導体の材料としてはシリコン(Si)が使われています。私たちが普段使っているスマートフォンやパソコンにも、このシリコンが使われています。しかし、シリコンで作られた集積回路は、200℃以上の高温や強い放射線を浴びる環境では使うことができません。そのため、シリコンは、宇宙空間や原子炉のような極端な環境では、使用するのが難しいのです。
そこで、注目されているのが、炭化珪素(SiC)という新しい半導体材料です。SiCはシリコンに比べて、はるかに高温や放射線に強い特性を持っています。この特性を活かして、SiCを使った集積回路の研究をNASA(アメリカ航空宇宙局)は2000年頃から始めました。2019年には、SiCを使った集積回路が、金星の表面と同じような環境(460℃の高温や非常に高い気圧)で60日間正常に動作することが確認されました。これは、将来、金星の探査にも利用できる可能性を示しています。
しかし、現在のSiC集積回路は、まだシリコン集積回路に比べて性能が劣っています。例えば、私たちのスマートフォンには、数十億個ものトランジスタ(電流を制御する小さな部品)が使われていますが、現在のSiC集積回路では、多くても数千個程度しか搭載できていません。この差を埋めるために、私たちの研究室では、産業技術総合研究所・先進パワーエレクトロニクス研究センターと協力して、SiC集積回路の研究開発を進めています。
将来、SiC集積回路の性能がさらに向上すれば、より多くの過酷な環境で活躍できるロボットや機械が登場するでしょう(参考例:広島大学の取組み)。私たちはその一端を担い、技術の進歩に貢献することを目指しています。