グラフィカルアブストラクトの疑問①|山梨大学研究推進・社会連携機構

グラフィカルアブストラクトの疑問①

 同じプロンプトなのに「妙に簡素な絵になる」「イイ感じの絵が出る」理由

画像生成AIを使っていて「以前は満足できる画像が出力されたのに、今回はいまひとつ…」と感じたことはありませんか?
生成AIの活用において、プロンプトと結果の関係は決して単純ではありません。
全く同じプロンプトを使っていても「妙に簡素な絵」が出ることもあれば「イイ感じの絵」が出ることもあります。この違いはいったい何によって生まれるのでしょうか?そこにはプロンプト以外にも複数要因が複雑に絡んでいる可能性があるからです。

妙に簡素な絵になる理由

  1. サンプリングのゆらぎ
    画像生成AIは、プロンプトに基づいて絵を描く際に「サンプリング」と呼ばれる確率的な処理を行います。ここでは、毎回ほんのわずかにランダムな要素が加わるため、まったく同じプロンプトでも、線のタッチや色の濃淡、背景の描き込みなどに違いが出ます。これはいわば「ゆらぎ」のようなもので、このわずかな差が原因で「なんだか物足りない」「簡素に見える」画像が出てくることがあるのです。

  2. 「シンプル」の幅
    プロンプトで「シンプルなデザイン」や「シンプルな構図」といった表現を使った場合、その意味の解釈には幅があります。線が少ないだけのラフな絵も、ミニマルで洗練されたアイコン風も、意味をそぎ落とした抽象画もAIはすべて「シンプル」と解釈する可能性があります。そのため、プロンプトで「シンプル」と指定した場合、どの方向に振れるかはAI任せになり、結果として意図よりもずっと簡素すぎる絵が出てしまうことがあります。

  3. 抽象化処理の濃度
    画像生成AIは、プロンプトから得た情報を一度「抽象化」してから絵を描こうとします。そのため、具体的な要素よりも、より一般的でシンプルなイメージに引き寄せられる傾向があります。この処理の影響で、たとえプロンプトで細かい指示を与えていたとしても、描写される内容が省略されたり、要素の数が減ってしまうことがあります。これは、AIが入力を処理する過程で細部よりも「全体の印象」や「特徴の圧縮」を優先してしまうためです。意図より簡素な絵が出力されるのはこうした抽象化の性質が背景にあります。

なんかイイ感じの絵が出る理由

  1.  絵に直結する語彙
    生成AIは、プロンプトに含まれる単語をもとに学習データの中のイメージを参照して画像を構成します。プロンプトの中に具体的でビジュアルに直結しやすいキーワードが多く含まれていると、構図や質感が安定しやすくなり、絵の完成度が上がる傾向があります。
    これは、AIが学習データの中で豊富にみてきたモチーフをすぐにイメージしやすくなるためで、結果として描き込みや雰囲気が整った「イイ感じの絵」が出やすくなるのです。

  2. 要点の明瞭さ
    何を中心に描くべきかが明確だと、生成AIは構図や描写の優先順位をスムーズに判断して組み立てられます。主題がブレないことで、視線の誘導や描き込みのバランスも整いやすく、結果として完成度の高い絵になりやすいのです。
    逆に、複数の要素が同じくらい重要だと、焦点が分散し、情報が整理されないまま描かれることがあります。要点が明確なプロンプトは、AIがどこを描き込み、どこを抑えるかの判断を助けるため、安定した仕上がりにつながります。

  3. 学習バイアス
    生成AIは過去の学習データに基づいて画像を作るため、得意とするパターンがあります。プロンプトの内容が学習データでよく見てきた構図やテーマに近いと、AIはイメージを組み立てやすく、安定した高品質な絵になりやすいのです。
    ただし、AIが具体的に何を得意としているのか、どのパターンが多く学習されているのかはわかりません。あくまで内部の学習バイアスによるものであり、プロンプトがその得意領域にたまたま合致するかどうかが、絵の出来栄えに影響するのです。

 

生成AIの出力は、良いときもあれば、「なんだこれ?」というときもあります。
これはどの生成AIを使っても同じで、今回紹介した「ゆらぎ」「解釈の幅」「学習バイアス」は共通しています。ツールごとに多少のクセはありますが、その差が生まれる仕組みを知っておくだけで試行錯誤の方向性が見えやすくなります。
少しの言葉選びが、絵の雰囲気をグッと変えてくれることもあります。ときには狙いとは違う絵が出てくるかもしれません。それも生成AIの醍醐味といえます。
ぜひ今日からプロンプトの組み方を少し意識してみて、自分なりのコツを見つけてみてください。