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研究テーマの見つけ方 | |||
英語教育における研究テーマをどうやって見つけどのように研究を始めればよいかを簡単に紹介します。
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研究テーマを探す出発点 |
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研究テーマを見つける出発点は2つありますが、研究の出発になる基本は研究者本人の関心事にあります。いったいどういうことに興味があるのかを追究してください。
@これまでの経験で関心のあるテーマから見つける これまでの英語教育における指導経験(学生の場合は、これまでの指導および学習経験)から気になるテーマを深めてみる。この場合、「自分は何に興味関心があるのだろうか?」、また、「どういう問題を抱えどういうことを明らかにしたいのか?」を考えてみる必要がある。例えば、「ライティングの時間に生徒同士で書いたものをチェックさせる活動を取り入れているが、その活動が生徒の書く力を本当に高める活動なのかどうか?」 という疑問から、ライティングにおける生徒同士による修正の効果を研究テーマにすることが挙げられる。ライティング関連やライティングにおけるピア・フィードバック関連の文献を読んで、これまでの研究動向を探ることになる。
A研究論文や図書を読んで関心をもった部分から見つける これまで読んだ研究論文や研究図書から気になるテーマを見つけ出し、そのテーマを深めてみる。この場合、英語教育に関連する入門書や研究雑誌などをできるだけ多く読み進め、興味を持った分野および研究課題を見つけることが求められる。例えば、Language Learningなどの専門誌に掲載されている論文を読んで、「言語活動の繰返しの効果が、第二言語習得の分野で最近注目を浴びているようだが、日本の学習者を対象に実験を行った場合でも、ESL環境と同じような結果がでるのだろうか?そうすれば、言語活動の繰返し効果がより一般化されることになるはず」と考えて、同じような文献を集めて研究動向を調べ、よりオリジナルな研究を計画することになる。
B 学会や研究会に参加して研究発表を聞いてみる 学会リストで示した国内の英語教育学会に参加してみよう。学会では、多様な研究発表が行われているため、自分が興味がある分野の発表も必ず見つかるはずである。その分野の研究動向、仮説の立て方、研究手法、参考文献など多くのことが入手できる。さまざまな発表を聞いてみると、自分の興味・関心が絞られ、自分のやりたい研究テーマが見つかることは多い。たとえ興味のない分野である発表であっても、発表を聞いているだけで情報を得ることはよくある。直接、発表者と話ができるという利点もある。また、各地区で開かれている英語教育に関する研究会に参加してみるのも、同様の利点がある。
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研究テーマの深め方 |
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研究は拡散と収斂の繰返しです。研究分野の全体を見渡しながら焦点を絞った研究を行うことが研究を進めていく上で求められます。
@関心のあるテーマにどういう課題があるか情報収集する テーマが決まれば文献・専門誌・図書の入手方法で述べたように、このテーマに関連するこれまでの研究を集め、どういうことが明らかにされ、どういうことがまだ明らかになっていないかを整理する必要がある。そのため入手可能な限り多くの文献に目を通してみることが求められる。文献には、これまでの研究結果を概観している総論的なものと、一つの仮説を検証している専門的なものに分けられる。総論的な文献を探しながら、関心のあるテーマに焦点を絞りながら専門的な文献を集めていくことになる。
A関心のあるテーマについて焦点を絞る テーマの絞り方はその後の研究の方向を決める上で重要である。研究の方向を決断するポイントは(1)研究者の関心の度合いと (2)研究の価値の2つにある。「リーディングについての研究」ではテーマが広すぎ研究を深めることは不可能である。リーディングの何を調べてみたいのかあるいはどいうことが今英語教育に求められているのかを考え、テーマをもう一つ深めてみることが重要である。たとえば、リーディングの下位要素である、プレリーディング活動の役割やリーディングにおける発問のあり方など。
Bまず、すべてを疑ってみよう 著名人が書いた専門図書や研究論文であっても、有名なジャーナルに掲載された実験結果に書いてあることであっても、すべてが正しいとは限らない。あるいは、経験上、自明だと思っていることでも実はまったく分かっていないこともある。第二言語指導および習得研究の分野での主義・主張は、経験に基づくものであったり、ごくわずかな実験結果に基づいたものであることが多い。したがって、これまで明らかにされていることでも、疑ってみることは大切である。果たして、その主張は正しいのか、その主張の根拠はあるのか、仮説の立て方はそれでよいのか、実験デザインは正しいのか、指導方法を変えても同じ事が言えるのか、データの分析はこれでよいのか、測定方法はこれがベストなのか、すべての被験者に言えるのか、すべてのタスクに言えるのか、など多様な側面から、批判的にこれまでの研究を見ていけば、絶対的に正しいものはほとんどと存在しない。論文を読むにしても、人の話を聞くにしても、疑ってみることが、研究の糸口を見つける最大のポイントである。その後で、自分なりの考察を述べていくことが研究である。
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研究の価値 |
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研究の価値を高める一つの方法は、自分の研究にどのような意義および価値があるのかを明確にすることです。オリジナリティーがあるかないか、また、テーマ選定の意味が明瞭かどうかが求められます。
@オリジナリティーの有無 オリジナリティーには、2つの意味がある。一つはだれも主張していないことを研究するという意味。もう一つは、先行研究を十分検討・整理し、どこに自分の研究の意義があるのかと自分の研究はこれまでの研究の中でどの位置にあり何を明らかにしようとしているかを明確にしているという意味。研究では2つ目のオリジナリティーが、とくに修士論文以上の研究の場合、重要となる。例えば、「第二言語習得における学習者の気づきに関するこれまでの研究では、教師あるいは教材が意図的に学習者を気づかせる実験報告が多かった。そこで、本研究では、学習者が主体的に気づくことが第二言語習得の促進に重要であると主張し、学習者による主体的な気づきの効果を質的に調査する」などは、研究の位置を明確に示している。
Aテーマ選定の意味の明瞭さ 2つ目のオリジナリティーで述べたように、その研究テーマを深める価値があるかどうかをはっきりとした形で提示できるかどうかは大切である。どんな研究テーマにもそれぞれ価値があると思われるが、その研究価値をするどく見出してわかりやすく提示できるかどうかがその研究テーマ選定のカギとなる。例えば、「なるほど、この研究によって、これまで言われていなかったことが明らかになった」とか、「この研究の主張に従えば、これまで、よく分からなかった現象をうまく説明できる」、または、「この研究では、リーディング能力を効率的に育成できる具体的な指導方法を提案している」などである。
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研究テーマを絞る際のジレンマ |
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研究テーマを絞っていく際に、誰しも経験するジレンマがある。研究を始めていくと、「やりたい研究」、「やるべき研究」、「やれそうな研究」の3つの研究の間で研究の方向性を悩むことになる。「やりたい研究」とは、自分の興味関心をもとに追究したいテーマを研究することをさす。「やれそうな研究」とは、実際に研究を進めていく見通しのもてる研究をさす。「やるべき研究」とは、上記のように、その分野で明らかにすべき価値のある重要度の高い研究をすることをさす。「やりたい研究」を追求しすぎると自己満足的な研究で終わり、「やれそうな研究」を追求しだすと面白みのない表面的な研究で終わってしまう。では、どうすればよいか、「やりたい研究」と「やれそうな研究」を「やるべき研究」の方向につなげ、自分が行う研究の価値を見出していくことになる。そのためにも、自分の興味関心や自分の知識を冷静に判断した上で、英語教育実践上のニーズ、第二言語習得諸理論の研究動向を押さえていく必要がある。
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研究のプロセス |
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どんな研究にも、研究を発表するに至るまでに、次のようなプロセスがあります。ひとつひとつ押さえて研究を進めていきましょう。
Stage 1 概論的な背景知識を身につけよう □ どういう研究分野があるかを知る □ どういう論点があるかを大まかに知る □ 概論書を読む □ 専門用語を学ぶ
地図を手に入れましょう。今までに行ったことのない国に行ってその土地の地図を手に入れ自分がどこにいるのかを知るのと同じように、研究においても地図を手に入れ自分の関心事の位置を確認する必要があります。その地図を手に入れるためには、概論書を読んだり専門用語を身につけたりする必要があります。指導教官や先輩もガイドになってくれます。自分がどこを目指そうとしているのか。そのためにどういう経路をたどればよいのか。どれくらい時間がかかりそうか。目的地に到達するために必要なものは何か、これまでどんなことが明らかにされてきているのか、まだ十分に分かっていないことは何か、などという見通しがもてるはずです。
Stage 2 専門的な背景知識を身につけよう □ 自分の興味を探る □ 研究の焦点を絞る □ 各分野の専門書を読む □ 各分野の専門用語を学ぶ ⇒ 国内学術誌・専門誌リストへ/推薦図書・文献へ
自分だけのこだわりを見つけましょう。自動車を今から買おうとしている人は、店に行っていきなり買うことはしません。普段は気にとめなかった町を走る車を眺め始めたり、車のパンフレットを集めてみたり、試乗車に乗ってみたり、スペックに詳しくなったり、だんだん車に関するセンスが磨かれていきます。研究も同じです。研究のセンスを高めるためには、車のタイプを決めるのと同じようにまずジャンルを決定し、アンテナを張るターゲットを絞る必要があります。アンテナのターゲットが絞り込めていないと、雑音ばかりが気になり重要なものが見えてきません。焦点を絞ったら今度はそのターゲットの対象になる情報をできるかぎり多様な角度から集め、つね日頃からそのことを頭の片隅に置き考え、頭の中に情報をインプットとして蓄積していきます。その過程で自分だけのこだわりが見えてくるはずです。
Stage 3 身につけた知識を整理しよう □ 研究論文を収集する □ これまで明らかになっていること(なっていないこと)をまとめる □ 研究論文を批判的に読む □ 自分の研究テーマの位置と意味を知る ⇒ テーマの見つけ方へ/海外学術誌リストへ
研究という名の発明をしましょう。世の中の発明の中で、まったく新しいものなどほとんどないと言われます。発明は今までの既存のアイデアや概念を組み合わせた結果なのです。研究も同じです。既存の概念や情報を疑ってみたり、組み合わせてみたりした結果、まだ十分わかっていないことが見つかったり、新しい方法が見つかったりするものなのです。発明に重要なことは、さまざまな情報を収集し、キーになるポイントを見つけ出し、その本質が何かを捉え、そのキーに関わるこれまでの情報が本当なのかどうか疑ってみることです。そして、収集した情報を失敗を恐れずいろいろな角度から組み合わせてみることです。組み合わせ方は、比較・類似・変換・比喩・具体化など多種多様です。十分な情報が集まっていて、本質を見つけるセンスが高まっていれば、価値あること発見がきっとあるでしょう。その価値を他の人にうまく説明できるかどうかをまとめてみましょう。まとめるポイントはその価値が人に十分伝わるかどうかです。
Stage 4 自分なりの仮説を立てよう □ さらに研究の焦点を絞る □ 自分の考えをまとめ仮説を立てる
研究は昆虫採集と似ています。誰もが知っている虫を集めて標本を作っても面白くありません。誰も知らない貴重な虫や誰もが欲しがる虫を採集して標本を作ってはじめて価値が出ます。研究も同じです。アンテナを使って、自分の興味という網にかかってきた情報を、今度は自分のこだわりという基準で取捨選択を行います。これまでインプットしてきた情報の中から出てきた自分の「なぜ?」と、「これは!」という自分の中でのこだわりが反応しあった結果、研究者独自のメッセージ性を帯びた仮説が見えてくるはずです。研究者独自のメッセージが感じとれる研究仮説はきっと誰もがワクワクするはずです。仮説を立てるときのポイントは、一つに絞って、「○○すれば××になる」と言い切ることです。絞りきらず、かつ、言い切らないと仮説検証はできません。
Stage 5 研究をデザインしよう □ 論点を整理する □ 研究デザインを決める □ データの分析方法を決める
Stage 6 データ資料を集め分析しよう □ データを集める □ データを分析する □ 統計処理を行う
数学に、数字と公式という世界共通の思考道具があるように、研究においても世界共通の道具があります。それは、データ収集の方法とデータ処理の方法です。前者は、調査の対象をどのように集めればよいかで、例えば、アンケート調査の方法、インタビュー調査の方法、観察の方法、think-aloud protocolの方法、などが当たります。後者は、データを量的に分析する統計処理の方法に当たります。やみくもにデータを集めてみても、妥当性や信頼性のない情報となってしまうことになります。やみくもにデータから得られる数値を解釈しても、それが本当に客観的な解釈かどうかわからないことになってしまいます。そこで、データ収集や統計処理の方法をできるだけしっかりと学んでおくことが大切になります。それらをしっかりと学ぶことによって、自他の研究結果を建設的に批判できるセンスを身につけることができます。
Stage 7 データの分析結果を解釈しよう □ 結果を考察する(Stages 1,2,3で得た情報を活用する) □ 結果からの示唆を考える
考察とは、「なぜこのような結果が得られたのか(または、得られなかったのか)」を自分なりに推測してみることです。得られた結果の原因を推測することです。もし緻密な考察ができたとすれば、次の新たな研究ができたも同然です。もしこうしたらこうなったかもしれない、この条件がこうだったら結果は違っていたかもしれない、などです。「なんらかの結果が得られたから研究は終わり」ではないのです。「実験→結果→考察→仮説」のサイクルの始まりなのです。客観的に多角的に深い考察ができている研究の価値は高いものです。自分の研究の問題点を真摯に捉えたうえで、自分の仮説を主張している研究は、客観的で慎重であるとみなされます。
Stage 8 研究を発表しよう □ 口頭発表する □ 論文を作成する □ 論理性を追求する ⇒ 学会リストへ
発表は他流試合のようなものです。研究を他の人の前で発表するのは、誰しも怖いものです。場違いなのではないか、自分の主張や方法は間違っているのではないか、厳しい質問にうまく答えられないのではないか、などと悩みます。完全な自信をもって発表できる人はどこにもいないでしょう。研究を人の前で発表しなければ得ることができないものはたくさんあります。他の人の質問から、新しい視点を得ることがあります。発表してはじめて自分の理解が浅いことを知ることがあります。他の人の共感を得ることができ、自信を深めることがあります。プレゼンテーションのコツを学ぶことができます。その結果、研究のセンスがまた一つ磨かれるのです。
Stage 9 研究結果を残そう □ 論文を校正する □ わかりやすさを追求する
ものづくりの匠(たくみ)になりましょう。ものづくりを極める人に共通しているのは、納得いくまで最後の最後まで手を抜かず作品を作り直すことです。それを見る人や使う人が心から喜んでくれないものは、完成していたとしても作り直す勇気をもっています。研究の結果である論文や発表も同じです。本当に伝えたいことが読み手や聞き手に伝わっているか、読み手や聞き手にとって本当にわかりやすいプレゼンテーションになっているかどうか、など最後まで何度でもチェックし、バージョンアップしながら最高のものをつくり上げましょう。どんなに優れた内容であったとしても、最終段階の論文や発表のプレゼンテーションがまずければ、人から認知されることはありえません。一生懸命に取り掛かってきた研究だからこそ、最後の最後まで手を抜かず、自分の主張を丁寧にまとめプレゼンテーションしましょう。
Stage 10 次の研究を始めよう □ 最終発表 □ 今後の課題を追究する
研究をワンサイクル終えた時点は、実はエンジンがやっとかかった状態です。一つの研究の最中には、いくつもの関連した疑問点や興味が次から次へと湧いてきます。メモをとっておきましょう。エンジンを止めずに研究を続ければ、次の研究は、今終えた研究にかけたエネルギーの半分で済みます。研究のセンスもさらに磨かれます。その磨かれたセンスは応用のきくセンスです。一つの小さなテーマについて深く掘り下げたことは、たとえ他の分野を研究したとしても応用がききます。たとえ理論を追究したとしても、センスさえ磨かれていれば実践に生かされます。
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(c) Copyright 2001 Takeo Tanaka |