X線領域では、吸光度を求める時に常用対数ではなく自然対数が用いられる。すなわち、
、あるいは溶液などのときには、
で計算される。ここで、μは吸収係数、t は試料厚、I0 とI はそれぞれ試料前後のX線の強度、c は目的元素の濃度である。なお、このページの図では縦軸のラベルに表示しているように、t はmm、c はmol/Lの単位を使っている。
XAFS測定で見える溶液内の局所構造は、固体中と比べて必ずしも disordered ではない。たとえば、右の図のようにデバイワラー因子にほとんど違いがない場合もある。
適当な濃度の溶液と窓が得られるのなら、ほぼ理想的な均一サンプルを調製することができる。現実の問題は、
通常測定したい組成が決まっているので、サンプルの条件を自由に選べることはほとんどない。しかし、以下の条件に対してある程度の自由度があるのが普通である。
溶媒の種類が溶液サンプルの調製に対してもっとも大きく影響する要素であるが、選ぶ余地があることは少ない。溶媒の種類は background 吸収の大きさ、目的元素の溶解度、窓の材質など測定を大きく左右する条件のほとんどすべてに対して影響する。おもに考慮する必要があるのは、
目的元素の濃度は background 吸収の面から考えるとできる限り高い、すなわち飽和状態が好ましいが、実際は次の理由により必ずしもそうではない。
非常に濃い、あるいは薄い溶液を測定しなければならない場合には蛍光測定を検討すべきであろう。それ以外の場合は透過測定で充分である。
溶液中にある溶質が目的元素だけである場合はまずなく、他の溶質が共存している。共存する溶質元素としてはつぎのようなものがあげられる。
background 吸収を小さくするためには、これらの共存する溶質は原子番号の小さいものをできるだけ少量に限ることが好ましい。
溶液サンプルの透過測定を行うにはサンプル保持のために当然窓が必要である。窓に用いる材質に求められる性質は、
溶液との反応性はほとんど溶媒の性質に依存する。水やエタノールなど反応性が低い溶媒では数10μm厚のポリエチレンがいろいろな面で簡便である。iii. を重視する時にはマイラーなどのポリエステルや、化学的安定性に多少劣るようであるがカプトンなどのポリイミドも使用できる。反応性の高い溶液に対してはテフロンなどのフッ素樹脂膜も使用できるが、セルの組み立てに難がある場合が多い。高エネルギー領域では、カバーガラスや金属箔も使用できるであろう。
水溶液では問題がなかった窓材製の袋や組立式セルをそのまま有機溶媒に使用すると溶液が漏れることがある。これは水溶液はよく使用される有機高分子の窓材との濡れが悪いが、有機溶媒は濡れがよいためごく小さな隙間からも漏れだしやすくなることによる。
常温で安定な溶液を常温で測定する時には気泡はほとんど問題にならず、目視してもし窓に気泡が付着していれば軽くたたくなりセル全体を超音波洗浄器にかけてやるなりすればすぐにとれる。しかし、測定中にサンプル内で反応が起こり気体が発生する場合には溶液を循環させてやるなどして発生した気泡を光路外にすぐに追い出すか、あるいは1回のスキャンを早くして気泡が発生する前に測定し終えるなどの工夫をする必要がある。これは昇温させて測定する場合も同様で、沸点より充分低い温度でも気泡が発生しやすくなる。この場合は溶液と濡れがよい窓材を使うと防げることがある。測定中に光路内で徐々に気泡が大きくなる場合ではスペクトル上には異常がないように見えることが多いので注意が必要である。
XAFS用の溶液セルには決まった形のものはなく、おのおのの実験グループの考案で手作りのことが多い。サンプルの内容や量、あるいはサンプル数によって適当なセルの形が決まる。必要な条件は厚みを一定にできることであるが、サンプル数が多い場合にはサンプルが交換しやすいことも必要となるであろう。測定が長時間になる時は溶媒などの揮散を防ぐ工夫が必要がある。
第3回 東日本XAFS勉強会, 東京大学 (1995. 6).
2001年11月9日一部改訂
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