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勉強会で読んだ図書             

このページでは、月1回のペースで行っている英語教育勉強会で読んでいる最近の話題の図書を要約したものです。内容に興味のある方は原典をお読みください。

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Schmitt, N. (2002). An Introduction to Applied Linguistics. London: Arnold.

■第1章の要約
An Overview of Applied Linguistics
応用言語学とは、言語とはどのようなものなのか、言語がどのように学ばれるのか、言語がどのように使われるのか、などの多様な問題を探求する学問分野である。これまで応用言語学では様々な議論が行われてきている。例えば、Grammar-Translation Method, Direct Method, Reading Method, Army Method, Audiolingualism, Universal Grammar, Communicative Competence, Notions and Functions, Monitor Theory, Communicative Language Teaching, Focus on Form, という用語や概念に代表される。その背景には、行動主義心理学、生成文法論、社会言語学、語用論、談話分析、社会文化論などの多様な言語学習観が影響を与えてきている。この本では、応用言語学の主な分野を取り上げるが、各分野は単独で孤立しているという意味ではなく、互いに相関的な関係にある。また、文法と語彙、4技能の個々の技能が切り離せないことや、学習者の学習過程への積極的参加の必要性に見て取れるように、個別から統合へという視点も重要である。

■第2章の要約
Grammar
文法には、規範文法(prescriptive grammar)、記述文法(descriptive grammar)、学校文法(pedagogical grammar)などいくつかの形があり、文法の定義も難しい。その文法を描写する際の論点はいくつか存在するが、常にその論点は文法の定義だけでなく、文法指導のデザインにも影響を及ぼす。例えば、(1) どの文法規則を描写すべきなのか(不変の規則か例外の規則も含めるのか、公式の規則と非公式の規則も含めるのか)、(2) 文法を描写する際に、文法の形式(form)、意味(meaning)、機能(use)を独立させて議論することができるのか、(3) 文法規則の種類を同列併記で描写するのか(type)と談話上での頻度を表記するのか(token)、(4) どのような談話や文脈の中での文法選択なのか、(5) 話し言葉と書き言葉のどちらでの文法なのか、などが挙げられる。また、進行相の意味は動詞そのものの語の意味により異なるなど語彙と文法は密接な関係にあり、定型表現やイディオムと文法規則も簡単には切り離せないという課題もある。第一言語習得研究では、未分化のチャンクが先に習得され、その後文法規則として分析されることも示されてきている。
 これまで文法学習は、習慣形成のひとつと捉えられたり、規則の創造と捉えられたり、多様な学習理論に影響を受けてきた。研究対象も、形態素や統語などの文法能力から、言語使用の適切さといった語用的な能力にも焦点が当てられ、それに伴い文法指導も文法構造シラバスや概念機能シラバスなどが登場した。正確さよりも流暢さを重視するコミュニカティブアプローチが主流になると、文法指導は排除される時期もあった。しかし、最近の第二言語習得研究では、意味のある文脈の中で学習者が文法規則に気づくことで文法が習得されやすいと考えることが主流になりつつある。文法指導においては、いかにその条件を作り出すかが重要になってくる。これまで、input enhancement, consciousness-raising, input-processing tasks, productive practice, grammaringなど多様な文法指導アプローチが考案されてきた。しかし、その学習者に、文法のどのような側面に問題があるのか次第で、効果的なアプローチも異なってくる。いくら文法指導をしても学習が促進されない事例が示すように、文法学習は決して直線的に行われるのではなく、いくつもの要素が関係し有機的に行われるものと考えられ、螺旋状に文法を繰り返し指導すべきであるという考えもある。このように、文法学習は複雑かつ多面的であるため、多様な指導アプローチが必要とされると考えられる。

■第3章の要約
 Vocabulary 
語彙とは何かという問いに答えることは容易ではない。例えば、どのように語をカウントするかにおいても、すべての語をカウントする延べ語数(tokens)と再使用された語はカウントしない異なり語(types)の2通りの方法がある。また同じワードファミリー(word family)としてカウントされる語も多数あったり、多語的単位(multi-word units)、形式化前言語(preformulated language)、定式表現(formulas)、語彙的成句(lexical phrases)などと呼ばれる、分析不可能な語のかたまりが存在したりすることも、語のカウントを困難にしている。
 どのような語彙を優先して学習するべきかという問いに対しては、コーパスの発達にも伴い、使用頻度と使用範囲という観点がしばしば議論される。頻度の高い語を先に学ぶという考え方と学習者の学習目的やニーズに合わせた語を学ぶという考え方である。 どのように語彙を学習するべきかという問いに対しては、いくつかのアプローチが提唱されてきている。大きく分けて、意味を中心としたインプットの中から語彙を学習する付随学習(incidental learning)と学習する目的に合わせて学習する語を焦点化する意図的学習(deliberate learning)に分けられる。多読のように多量のインプットを理解する中で新しい語彙の習得が行われる付随学習が起こるには、テキスト内の未知語は2%程度が適切であるとする報告もある。一方、意図的学習においては、暗記カードやフラッシュカードが利用されることが多いが、英語と母語の訳を両方見せる再認(recognize)よりも英語から母語へ訳させる検索(retrieve)を活用する、適切な間隔を置いて繰り返す、声に出す、文脈を利用する、順序学習効果を防ぐなど考えられる。語彙学習においては、受容語彙だけでなく発表語彙の育成も重要であり、定式表現なども用いて、流暢に語彙を活用できるような4技能育成が重要である。未知語の意味をどのように発見させるかという語彙の学習方略の指導も、最近では重視されてきている。学習方略の指導は、とくに頻度の高い語彙においては有効であり、頻度の低い語彙については指導時間にも制限があることから学習者にとっては方略の訓練は必須である。語彙の学習方略には、大きく分けて、文脈からの推測、単語カードの利用、接尾辞など語の分析的知識の活用、辞書使用が挙げられる。
 学習者がどれくらいの語彙力をもっているかをみる語彙サイズ(vocabulary size)の測定には、Vocabulary Levels Test、Productive Levels Test、Eurocentres Vocabulary Size Test、Vocabulary dictation testなどがあげられる。 フランス語やラテン語などからの借用語があるなど、言語の歴史的成立から、英語には語の種類が語彙の使用されるジャンルによって多様に存在する。外国語として英語を学ぶ学習者にとっては、多様なレベルの語彙を学ぶ必要があるため壁になりやすい。また、英語独特の特徴から、英語における語彙学習の知見を多言語の語彙学習へ一般化させる際には注意が必要であろう。

■第4章の要約 
Discourse Analysis 
談話(discourse)の中でコミュニケーションができるようになることは、外国語学習および指導における重要な目的の一つである。談話分析とは、異なる文脈の中で言語がどのように構成されるのかを描写し分析する分野であり、様々な形で外国語指導に示唆を与えてきている。
 例えば、談話分析から得た考察をもとに、学習者のニーズにあった多様なジャンルの特徴をシラバスや教材に生かすことができる。ライティング指導などでは、異なるテキストタイプの基本的な特徴を学習者に説明するときに参考になりうる。話し言葉と書き言葉の特徴の違いも研究され、話し手と聞き手の社会的な距離による、formalityやlexical density、文法の使用において違いがあることなどから、話し言葉と書き言葉の指導にも示唆がある。
 また、IRFモデルのように、教師・学習者間のやりとりの典型的な特徴が明らかにされ、教室内のやりとりを体系的に考察できるようになった。たとえば、伝統的な教師主導型の授業では、将来本物のやりとりを言語で行う学習者にとっては、貧しい学習環境しか提供できないかもしれないという指摘がなされる。一方、ペアワークやグループワークなどの教室内での学習者の言語パフォーマンスが、どれくらい実社会の談話に近似しているのかあるいは離れているのかを評価でき、最近では教室内のタスクデザインにも示唆を与えてきている。 
 会話分析では、日常的な会話は一般的に考えられているほど非構造的でないことが示されてきている。例えば、日常会話で行われるturn-takingにもある規則性が見られる。日常会話であっても、オープニングやクロージング、ディスコースマーカー、adjacency pairsなどの共通の特徴があり、体系的に会話の指導ができることがわかる。 
 最近の談話分析では、コーパスを使った語彙や文法の描写が可能になり、話し言葉や書き言葉といったモードの違いでの語彙や文法使用の異なりを見ることや、実際の文脈に組み込まれた形での例の提示ができるなど、より実生活に近い形での文法指導が可能となりつつある。

■第5章の要約
Pragmatics
人間のコミュニケーション行為は、知覚した言語コードの理解だけではなく、お互いの意図を推測する力に依存している。語用論(pragmatics)とは、システムとしての言語形式そのものではなく、言語形式とメッセージ、その言語使用者との相互関係について追究する研究分野である。我々は、単に聞き取った語句の表面的な意味理解だけでなく、特定の文脈内での含意的な意味理解を様々な形で行っている。例えば、it, thereなど指示語は聞き手が話者の意図するものを推測する必要がある。"Nice one."と言われても、その語句に込められた意味は誰が文脈によって異なってくる。"Where are you going tonight?"という発話は、時と場合によって、単なるあいさつと受け取られたり、詮索と捉えられたり、批判と受け取られたりする。これは発話行為と呼ばれ、言語が単なる表面的な意味をもつだけでなく、ある言語行為には相手に暗示的な行為を促す特定の言語機能をも含まれることを示す。
 コミュニケーション行為は、ある原理が働くと考えられた。Griceはそれを協調原理と呼び、量的、質的、関連性、言い方において適切なことを発話するからこそ、談話内で人はお互いに正しく理解し合えると考えた。もしその原理のどれかに逆らった発話をした場合、発話された意味とは異なる含意を探すことになる。上記の原理は、関連性の原理で説明がすべて可能とされたり、あるいは、協調原理は、通常、円滑なやりとりのための丁寧な発話がなされるために破られることがあり、丁寧さの原理が必要であるとされたりする。丁寧さは、コミュニケーション行為は発話者の社会的な関係によって大きな影響を受けることから起こる。肯定的な面子(自分のイメージをよく見せたり他者から認められたりしたいという面子)と否定的な面子(自分の自由を維持し、自分の領域に踏み込まれたくないという面子)という区分で丁寧さが表現され、例えば、"Where are you going?"は否定的な面子への脅かし、"Heard of it?"は肯定的な面子への脅かしととみなされる可能性がある。発話者同士の力関係、心理的距離、発話内容の強要度などの大きさの違いにより、表現が複雑になる傾向があり、また、このような現象は、文化の違いによっても大きく異なってくる。
 文脈は、コミュニケーションの過程において大きな役割を持っているのと同様に、言語指導および学習においても、学習者にとって文脈に関する情報は極めて重要である。例えば、コミュニケーションにおいて、参加者は誰か、どのような役割か、何人いるか、どのような場面か、どのような内容か、どのような目的か、という要素は、例えば、ライティング指導などにおいても、学習者の言語使用に強く影響を与える意味で重要である。また、コミュニケーションを相互的な意味の構築と捉えると、共通の背景知識を持たない学習者がいる場面では、コミュニケーションが難しくなる。ある行為の深刻さの受けとめ方の違い、遠慮の仕方の違い、相違の見解の示し方、など文化の違いによる語用論的な行動の違いに関して、外国語学習者にとって考慮される項目である。しかし、どのように第1言語から第2言語へこのような語用論的能力が転移するのか、あるいは発達過程を経るのかについてはまだ明らかになっていない。

■第6章の要約
Corpus Linguistics
話し言葉と書き言葉を集積したテキスト、いわゆる、コーパスを使用して研究が行われるコーパス言語学は、言語使用の実際のパターンを探るための分析手段、あるいは、言語指導の教材開発のための道具として最近急速に注目を浴びている。最近のコンピュータの進歩とともに、膨大な量のテキストの分析処理を自動的に行うことが可能となり、British National Corpus (BNC), Brown Corpusなどよく知られるコーパスも登場している。  
 コーパス構築の方法は、研究される対象によって決まってくる。Brown CorpusやBNCなどのコーパスは、広範囲にわたる一般的な言語的特徴を研究する資料を提供するものとして作られている。一方、特化した目的で作成されているコーパスもある。例えば、英語の変種を研究対象として作成されているInternational Corpus of English (ICE)や、子どもの話し言葉を集めたCHILDES databaseや非英語母語話者の表出した話し言葉や書き言葉を集めたInternational Corpus of Learner English (ICLE)などもある。  
 コーパスの大きさも、研究される対象によってそのサイズの適切さが決まってくる。例えば、低頻出語彙を調べるためには、100万語レベルのコーパスサイズでも十分ではないが、文法構造を調査するのであれば、コーパスのサイズはそれほど大きくなくてもよいと考えられる。また、コーパス構築においては、その言語的特徴の代表性をどのように捉えるかという課題もある。例えば、どのフィクション、ノンフィクション、日常会話などどのレジスターのテキストを集積するのか、モノローグ、ダイアローグなどどのような談話モードのテキストか、美術か科学などどのトピックを扱ったテキストか、話し手書き手はどのような国籍・性別・年齢・学歴などかなど、コーパス構築の際には考慮すべき範疇があり、研究対象によって当然異なってくる。最近では、コーパスを異なる研究目的に活用するため、生のテキストに他の情報を付加するコーパスもある。例えば、レジスター、ジャンル、トピック情報などのテキスト範疇を付加したコーパスや、品詞を明示したコーパスがある。  
 最も基本的なコーパスの活用方法として、言語情報の頻度がある。例えば、レジスターの違いにより、ある基本語彙の頻度に違いがあることを調べたり、あるコーパス内で50回の頻度のある語彙をすべて取り出したりすることも可能であり、語彙指導やテスト開発に活用可能である。また、startという語は学術的な文章の中で自動詞として使用される傾向があるなど、コロケーションなど共時的な語彙や文法パターンやその傾向を調べることもできる。そのほかにも、歴史的な言語変化、第一言語や第二言語の言語発達、話し言葉と書き言葉の違い、レジスター内での言語の違いなど様々な調査をするコーパス研究が出てきている。  
 言語指導においてコーパスは、どの言語特徴や構造が重要かを決めたり、どのようにそれらが使用されているのかを調べる情報をコーパスは提供してくれたりするなど、効率的な言語指導を行ううえで、今後大きな貢献が考えられる。

■第7章の要約
Second Language Acquisition
第二言語習得研究は、既に母語である第一言語を学習済みの子どもや大人がどのようにその他の言語を習得し使用するかを研究の対象とする。第二言語習得のこれまでの研究や諸理論の流れは、大きく分けて、言語学的および心理学的視点で区分できる。言語学的視点による理論は、言語学習の過程を学習者の内的要因のみで説明しようとする。ChomskyによるUG理論は、すべての言語に共通する生来の言語知識を想定し、複雑な言語体系の言語を、ほとんどすべての子どもが習得できるといった事象などの理由を説明しようとする。第二言語習得理論でもUGの作用に関する多様な議論が行われてきている。UG理論を援用し、Krashenは、習得-学習仮説・モニター仮説・自然な習得順序仮説・理解可能なインプット仮説・情緒フィルター仮説の5つからなるモニター理論を提唱している。

  一方、心理学的視点による理論は、言語学習の過程を学習者と外的要因との相互作用で説明しようとする。行動主義に基づく理論では、言語学習は模倣・練習・強化・習慣形成から起こると考える。その結果、第一言語で形成された習慣が第二言語習得への干渉を起こすと仮定され第一言語と第二言語の比較分析研究が行われるようになった。認知心理に基づく理論では、第二言語習得は、他の学習と同様に、学習者の注意と労力を必要とし、練習を通して、宣言的知識が手続的知識へ自動化される過程であると考える。その過程では、学習者による言語構造への気づきや、言語体系に新しい構造を再構築化する過程が不可欠とされる。また、コネクショニズムというモデルも現れ、言語的な規則の蓄積ではなく言語項目間のネットワークの強化こそが言語習得であると捉える。Multidementionalモデルでは、学習者は最も典型的な語順を先に習得し、習得できる言語構造が段階的に存在すると考え、学習者に心理言語学的に準備ができていなければその言語構造は習得されないと考える教授可能仮設がある。言語学習の大部分は他者とのインタラクションを通して行われると考えるLongなどの研究者もいる。対話者が学習者のために音声・語彙・統語構造・談話構造を単純化したり修正したりすることにより、インプットが理解可能になり、それが習得を促進すると考える。最近では、暗示的な否定的フィードバックが学習者に与えられることが、インタラクションが習得を促進する理由として考えられている。すべての学習は初め対話者とのコミュニケーションの中で知識が共起し、その後、その知識が学習者個人の中に内在化されるとするVygotskyによる理論が第二言語習得に応用され始めている。
  学習者の言語に目を向けてみると、第二言語習得理論研究では、当初、体系的に起こる学習者の誤答が頻繁に分析された。誤答分析研究では、学習者独自の過般化による誤答も多く見られ、第一言語の影響のみで学習者の誤答を説明することはできないとされた。その結果、第二言語学習者に共通して見られる、普遍的な習得順序の有無が注目され、UGなどの内的要因を重視する言語習得観を支持することとなった。第二言語習得に与える第一言語の影響は、わずかであり習得段階で影響の度合いが変化するものと考えられている。つまり、言語構造によっては、発音や語順のように第一言語の影響を強く受けるものもあったり、逆の場合もあったりする。しかし、発達段階によっては、第一言語の影響を強く受ける段階があることも報告されている。
  第二言語習得における文法指導の効果は、これまで主たる研究対象とされてきた。少なくとも、言語習得の速度を速め、正確な言語を使用させる効果が認められている。しかし、これまで文法指導の効果の有無に関しては、様々な議論が行われてきた。例えば、文法指導を行っても、Krashenの言う学習から習得に変えることはできない、あるいは、発達段階をスキップできないという主張がある。しかし、文法指導により、自然なコミュニケーションの中では高めることのできない文法的・語彙的な正確さを高めることが可能であったり、頻繁に触れることのできない言語構造を学ぶ機会を提供したりする。学習者にとって克服しやすいある種の誤答は、フィードバックを通して文法指導の効果が見られやすいことも報告されている。文法指導のあり方には、直接、メタ言語的な規則を教授するような明示的なものから、特定の言語構造の頻度を高めたインプットに集中的に触れさせるという暗示的なものまで幅があり、また、どの言語構造を指導対象にするのかにもより、文法指導の効果が異なる。しかし、現時点で、一般的に、文法指導に効果が見られるのは、特定の文法構造を集中的に指導したときのみであり、また、コミュニカティブな指導のもとでのみ効果があり、その場合でも、明示的な文法指導にとくに効果があるとされる。

■第8章の要約
Psycholinguistics
 心理言語学とは、言語習得と言語使用を支援する認知処理についての研究である。子どもの第一言語習得や第一言語による成人の言語理解や言語表出についての研究が多くなされてきている。とくに最近では、二言語を使用する学習者の言語処理に焦点が向けられてきている。二言語使用者に関する研究テーマは次のようなものがある。第二言語習得は第一言語習得と異なるのか、第一言語は第二言語使用の際どの程度の影響があるのか、言語の切り替えの際には規則性があるのか、第二言語使用者はどのように2つの言語を分離し使用しているのか、二言語はどのように同時に習得されていくのか、などである。
  この分野での重要なモデルとして、Leveltのスピーキングモデルがある。そのモデルでは、スピーキングのプロセスは、conceptualizerでメッセージを作り、formulatorでそのメッセージを語や文に形成し, articulatorで音に変え発話すると捉えられる。このモデルでは、言語表出の過程では、とくに、語彙レベルでの処理が、文形成を生み出すきっかけとして注目されている。この語彙レベルのプロセスには、語彙の意味や統語なの情報を含むlemmaと文字や音の情報を含むlexemeに区分される。Leveltのモデルは第一言語の言語表出をモデル化したものであり、第二言語に応用できるかについてはいくつか議論もあるが、広く応用されてきている。 
 二言語使用者の言語切り替えに関し、第二言語においても語彙、統語、音韻などの規則は第一言語のように保持されており、異なる言語ごとに別々に貯蔵されているものとする仮説がある。言語切り替えは、言語表出過程のlemmaの部分へのアクセスの段階で行われているものと考えられており、lemmaは意味、統語、音韻の3つから形成されていると仮定されている。その言語処理の認知過程は、観察しにくく調査が難しいが、絵と意味を適合させるタスクなどを通して調査が行われ、発話過程では意味が統語などの形式よりも先にアクセスされるなどといった特徴が分かりつつある。第二言語使用の際の語彙アクセスについては、どちらの言語がどの段階で選択されるかについては、まだ結論が得られていない。 
 第二言語使用の際、第一言語を介して第二言語を表出するのか、それとも直接第二言語を表出するのかについては、学習者のレベルによって、アクセス方法が違うものとの研究がある。しかし、初期の段階の学習者は、第二言語を表出する際、第一言語の影響を受けやすく、第一言語を介した方が言語処理をしやすくなることも指摘されている。どのように一度記憶された語彙は、記憶の中に何らかの形で保持され、完全に失われることはないとの報告もある。

■第9章の要約
Sociolinguistics
 社会言語学 社会言語学とは、言語形式やその選択に影響を与える社会的要素を研究対象とし、民族、性差、イデオロギー、階級などが言語使用にどう影響を与えるのかを、ことばの違い(言語変異)やことばの移り変わり(言語変化)などの事象を通して通時的および共時的に言語を研究する分野である。
 人の話し方のカテゴリー分けには、以下のようなものがある。ある社会グループが共有すると認識できる言語の特徴は、個人的な特徴の個人言語と区別し、社会方言と呼ばれるが、標準型と非標準型に区分される。標準型は、政府や教育などで取り上げられ標準化していったものであり、正式な形として認められる。一方、非標準型は、正しくないものと扱われる。この権威的な言語と汚名を付けられた言語の要素は、それぞれ言語変異に対する話者の態度が大きく関わってくる。標準型の変異は、たいてい権威が与えられた地域の方言である。方言は、アクセントと呼ばれる発音のパターンよりも、語彙や文法形態のことを指すことが多く、一般に、アクセントと方言は異なる概念とされている。 
 人の話し方を見ると、あるグループに属していると定義づけできる。その定義づけの道具である言語変異は、多様なレベルで調べられてきた。例えば、farmの/r/の発音の仕方の違いやアクセントの違いなどを調べる音韻学的な変異のレベルがある。このレベルの変異は、無意識で行われているため、比較的、研究対象とし易い。3単現のsの有無やアフリカ系アメリカ人に見られるbe動詞の欠落などといった文法的な変異のレベルがある。また、丸いパンでも、bunやrollといった違いや、"Are you finished?"か"Are you done?"の違いといった語彙的な変異レベル、会話などで主導権を握る際に影響を与えるような談話的な変異レベルなども研究されてきている。また、バイリンガルに見られるコード切り替えや、言語の生死、つまり、接触言語であるピジン言語やピジン言語の次世代が第1言語となったクリオール言語などの言語発達も研究がなされる。 
 さらに、これらの言語変異は、どのような社会的な要因に影響を受け生まれるのかが研究されてきた。社会的な要因の例としては、地域移動や社会移動、性別や権力、年齢、聴衆の有無、アイデンティティー、社会ネットワークの強さ、などが言語変異の特徴にどのように影響を与えているかについてである。この分野での研究ではフィールドワークをもとに言語使用のサンプルを収集するため、インタビュー、アンケートや、プロトコルなどの調査手法が用いられる。観察されていると被験者が感じれば、被験者は言語行動を変化させてしまう。これは、観察者のパラドックスと呼ばれ、これが最小限になるよう調査方法に工夫がなされる。言語変異の解釈も、社会言語学の重要な研究対象である。例えば、なぜ言語変異が存在するのか、どんな役割があるのか、どのように変化するのか、どのような過程を経るのか、などの問いに答えを見つけることである。

■第10章の要約
Focus on the Language Learner: Motivation, Styles and Strategies
  この章では、言語学習に影響を与える学習者の特性に焦点を絞る。学習者の特性には、教師の影響を受けないものと教師の影響を受けるものに分けられる。前者には、学習者の年齢、性別、言語適性が挙げられる。後者には、学習動機、学習スタイル、ストラテジーが挙げられる。
 学習者の学習動機は、意識的に高めることが可能であり、学習者の学習動機を高めることは重要な教師の指導スキルの一つである。言語における学習動機には、他の教科と異なり、社会的な側面を持っている。例えば、第二言語は、文化の一部であり、その言語コミュニティーに対する肯定的な態度がその言語を学習する動機に高める。また、学習動機は、固定的なものではなく、動的なものとして捉えられ、少なくとも3つの段階を経る。学習動機が生まれる段階、学習動機を維持する段階、学習動機を回顧する段階である。学習動機が生まれる段階では、第二言語、第二言語の文化、言語学習そのものに対する学習者の感じる価値や態度、言語学習を遂行する自信、言語学習に対する信念などが影響を与える。学習動機を維持する段階では、学習者にとっての斬新さ、魅力、ニーズなどを満たすような学習経験の質が重要であり、教師の性格や生徒とのラポート、フィードバックや賞賛などを含む指導方法、学習集団のあり方、学習者の自律感なども影響を与える。学習動機を回顧する段階では、フィードバックや賞賛、成績などでの自己に対する評価に影響を与え、効果的なストラテジーを強化したり広げたりする。それぞれの段階において、学習意欲を高めたり維持したりする指導が可能である。
 学習者はそれぞれ異なるアプローチやスタイルで言語を学習するが、それを学習スタイルと呼ぶ。学習スタイルは時間が経るにつれ変化するものと捉えられている。外向的・内向的、直感的・具体的、統合的・分析的などの学習スタイルの好みという観点から研究が進められてきた。
 言語学習に成功した者がどのようなテクニックを使用したのかを研究する分野はストラテジー研究である。ストラテジーの区分の一つに、言語学習ストラテジーと言語使用ストラテジーがある。前者は目標言語の知識や理解を促す目的でとられる行動を指し、後者は学んだ言語を使う際に用いられるストラテジーを指す。言語使用ストラテジーには、検索ストラテジー、リハーサル・ストラテジー、コミュニケーション・ストラテジー、カバー・ストラテジーがある。とくに、コミュニケーション・ストラテジーはコミュニケーション上のつまずきの回復に用いられる。ほかのストラテジーの区分の仕方として、認知ストラテジー、メタ認知ストラテジー、情緒ストラテジー、社会ストラテジーというカテゴリー分けもある。また、読み、書き、聞く、話す、語彙、訳といった技能別にみるストラテジーもある。学習者自身が自己を動機付けるストラテジーもあると考えられている。これまでの研究では、ストラテジーの好みや存在を意識化させたり、ストラテジーを強化・伸張・共有させる活動などを行って、ストラテジー使用を学習者に意識的に指導することが可能であることが分かっている。

■第11章の要約
Listening
 リスニングは普段は意識されることのない認知プロセスである。リスニングは受身的な処理として捉えられてきたが、最近では能動的な処理として捉えられるようになってきた。
 これまでリスニングの処理を理解するため様々なモデルが作られてきた。信号送受を中心とした数学的なコミュニケーション理論モデル、限られた処理能力の人間が入力、処理、出力を繰り返すと捉える情報処理モデル、人は相互作用の中で意味を獲得しようとすると捉える社会文脈モデル、人間は事を成し遂げるためにどう行動すべきかを理解しようとする傾向があると捉える状況行動モデル、などがある。
 リスニングには、一方向的と双方向的の2つのタイプがある。前者は、講義や授業などが例の情報伝達が目的であるリスニングであり、後者は、会話や議論など社会的関係の維持が目的であるリスニングであると捉えることができる。リスニングの処理には、ボトムアップとトップダウン処理がある。前者は、受け取ったインプットからの情報に基づき意味を理解する処理であり、トップダウン処理を促す作用もある。後者は、内容スキーマや形式スキーマといった聞き手の頭にある知識をもとに意味を予想したり推測したりする処理である。リスニングのスキルとしては、Richards(1983)が33ものミクロスキルを提唱した。Rost(1990)はそれをもとに、話者の話したことをどう認識し意図をどう解釈するかに関するスキルと、そのメッセージに適切に反応するスキルの2つの範疇にわけ、ミクロスキルの整理を試みている。そのミクロスキルの関係をどう捉えるかに関して課題も残る。リスニング・ストラテジーは、普段は意識しないストラテジーを意識させるメタ認知ストラテジー、間柄を理解するために呼び方を聞き分けるといった認知ストラテジー、話し手に援助を求めるなどといった社会・情緒ストラテジーの3つに区分できる。
 リスニングに関する研究は、さまざまな形で行われてきている。例えば、音声認識上の音声パターンの特徴や影響を検証されたり、タスクの違いによる意味交渉の量の変化が調査されたり、ボトムアップ処理とトップダウン処理の優位性をテストにおいて調査されたり、など見られる。リスニング研究における認知過程を明らかにする手法としては、タスクの違いによる意味交渉の量を観察したり、think-aloud protocolといった聞き手が聞き取った直後に内省させたり、タスクの後にプロセスを思い出させたりする回顧などがある。このような理解から実践への示唆としては、プレリスニング、リスニング、ポストリスニングといった指導アプローチが推奨されること、リスニングにおいて学習者が困難に感じるポイント(テキスト、話者、タスク、聞き手、プロセスなどの特徴)があること、理解度をテストすることではなくリスニングそのものの指導が重要であること、リスニングのテキストまたはタスクの本物度が学習者に応じて適切であること、困難があってもどのように意味を理解すればよいかリスニング・ストラテジーの指導が有効であること、リスニングスキルを高めるためには、言語的な英語力の向上が欠かせないということなどが指摘されてきた。

■第12章の要約

Speaking and Pronunciation
 スピーキングは日常生活のなかで当然のように行われている行為である。センテンスレベルに焦点を当てた心理言語モデルではなく、ディスコースレベルからスピーキングを本章では見てみることにする。マクロレベルでスピーキングを考えるとき、ディスコースのタイプ、つまりジャンルは重要な要素である。例えば、スピーチ、ジョーク、医者の診断など多様なやりとりが日常行われる。ジャンルとは、社会性・目的志向性・段階的な特徴をもつ。言語のやりとりの目的からみると、モノやサービスを交換するためのtransactionalなやりとりと社会的な関係を創り出したり維持したりするinteractionalなやりとりに区別される。また、日常会話は、複数の話者のやりとりからなるchatと1人の話者が話を独占する形のchunksに分けられる。一般的に、特定のジャンルには特定の段階的な構造があり、各段階で特定の語彙や文法的なパターンが見られる。例えばnarrativeの場合、話の要点を述べたabstract、場面や時・人物を導入するorientation、問題や危機を時間順で導くcomplication、その話題に対する話者の反応であるevaluation、問題や危機の解決を説明するresolution、全体をまとめるコメントを述べるcodaからなる。複数の話者が発話交替を行うことをturn-takingと呼ぶが、発話交替は一般的に、Initiation、Response、Follow-upからなるIRF構造をとると言われる。発話交替が行われるきっかけには、ポーズを置き自己選択したり、話者が次の発話を促したり、質問と応答などのadjacency pairの使用も発話交替のきっかけの役割を果たす。同時に、話者は、内容についての明確化、理解度の確認、要約など、話している話題について管理したり交渉したりしている。
 発音は、コミュニケーションにおける音声を扱う段階としてスピーキングにおいて重要な役割を果たす。話者は、発話内容を構造化して聞き手に伝える。その特徴の一つとして、意味の単位(sense group)や音調単位(tone-unit)として、一定の固まりのフレーズで一般的には発話される。この音調単位は、声の上昇下降や休止などの音調(tone)の変化によって特徴づけられる。例えば、ある音節(syllable)を大きく発音することで、発話内の卓立性を高め、話者があるメッセージを伝えるための重要な要素としてみなすことができる。例えば、発話交替の時期を告げたり、トピックの開始や結びを告げたり、あるいは、重要な情報を伝えたり、話者の感情を伝えたりする際に、音調変化が使用される。新情報を告げる際には下降調、旧情報の際には上昇調や下降上昇調が用いられたりする。したがって、これら音調は、話者が相互関係について交渉したり、話題についてどう考えているかを聞き手に伝えたりする極めて重要な手段の一つとして考えられる。強勢(stress)がどのように置かれるかもある程度規定される。例えば、一般的には、内容語は強勢が置かれ、機能語は強勢は置かれない傾向にある。また、同化(assimilation)や脱落(elision)、音連結(linking)のような語の音のつながりも忘れることはできない。個々の音が話者の音声器官によっていかに調音されるかについて研究する学問は、音声学(phonetics)と呼ばれ、特定言語の中での音の体系や/p/や/b/といった音の単位である音素(phoneme)がどのように構造化されているのかを理論的に扱う分野は音韻論(phonology)と呼ばれる。暗い/l/や明るい/l/のように前後の音声環境に影響されて現れる異音(allophone)や同言語でも個人差や地域差から生まれるアクセント(accent)などの要素も挙げられる。
 スピーキング指導への示唆として、スピーキング指導はセンテンスレベルで指導すべきかディスコースレベルで指導すべきかという課題があるが、それぞれを特長と弱点を見極めた指導が必要であり、どのようにディスコースレベルでスピーキング指導を行うべきかという課題は、マクロ的な視点として目的・ジャンルなど、ミクロ的な視点として発話交替などを考慮する必要がある。テキストの本物度(authenticity)については、学習者にとって易しいレベルに修正されたレベルから中間レベル、そして日常の会話で用いられているそのままの上体のレベルといった、3つのレベルに分けて本物度を捉えることができ、それぞれの特徴を生かすべきである。発音練習の手順としては、音を繰り返す機械的な練習から意味を理解した上での音の練習、より分析的な音声についての解説、そして学習ストラテジーなどいくつかのタイプが考えられる。


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Larsen-Freeman, D. (2003). Teaching Language: From Grammar to Grammaring. Boston, MA: Heinle.

第1章 Defining Language and Understanding the Problems

第2章 Challenging Conceptions of Grammar 
 教師は文法に対する多様な信念や態度を持っている。生徒に文法を学ぶ意欲が欠けていたり、使える文法を生徒が身につけていなかったりと考える前に、文法に対する我々教師の考え方を変えてみる必要がある。以下では、一般的な文法に対する考えに対し反論してみる。文法の捉えられ方: (1) 文法は知識であると捉えられるが、実際は知識と捉えるよりも技能と捉えた方が有益である。(2) 文法とは正確さのことであると考えられる傾向があるが、正確さだけでなく、意味的な妥当性や適切さまでもが文法に含まれる。(3) 文法とは規則であると捉えられがちであるが、実際の言語使用において規則をつねに応用しているわけではなく、丸覚えのフレーズを使用していたり、規則に当てはまらない例外も多く存在したりする。(4) 文法は恣意的であると捉えられるが、ある文法を選択するのにはつねに理由が存在している。(5) 文法において正解は一つであると考えられがちであるが、実際は多様な表現が可能である。(6) 文法とはセンテンス内のことであると考えられる傾向があるが、談話の中ではじめて理解できることが多い。文法学習の捉えられ方: (7) 文法は自然に習得されるべきで、指導する必要がないと捉えられることがあるが、習得を早めることが形式教授の役割であり、そのためには明示的な文法指導が、暗示的な習得を補う形で必要である。(8) 文法の習得には自然な習得順序があると主張されることがあるが、実際は、直線状に文法を習得するのではなく、スパイラル的に習得されるものである。(9) 文法は同じ方法で学習できると考えられることがあるが、一つのメカニズムだけで文法習得すべてを説明することはできない。文法教授の捉え方: (10) 誤答修正やフィードバックは必要ないと考えられることがあるが、われわれ教師の仕事は、最適な環境を作り出し、学習を最大限に引き出すことである。(11) 文法は退屈であると捉えられる傾向があるが、教師の仕事は、生徒を知的に楽しませることであり、学びに関わらせることであり、学ぶ道具を生徒に与えることである。(12) すべての学習者が文法を教わる必要があるとは限らないと考えられることがあるが、文法をどのように定義するかで、文法が必要と捉えることもできる。

第3章 Dynamics of Language (Grammaring)

第4章 The Three Dimensions 
 文法指導において、文法の形式(form)、意味(meaning)、使用(use)の3つの側面の存在を捉えていることは重要である。形式(form)とは、音声、書記素、機能語、統語を含む形式的な情報を指し、どのようにその文法を形づくればよいかを理解していることを意味する。例えば、There構文では、主語の位置にthere、次にbe動詞、論理的主語がくるという情報を持っていることである。意味(meaning)とは、語彙、派生形態素、語彙的成句、概念に関連する意味論的な情報を指し、その文法がどのような意味を表すのかを理解していることを意味する。例えば、There構文は、ものの存在とその場所を表すことを知っていることを指す。使用(use)とは、言語機能や談話語用論的な情報を指し、その文法がいつどのような場面でなぜ使われるのかを理解していることを意味する。There構文は、談話内での新情報を導入する際に用いられると理解していることを示す。文法を使いこなせる状態というのは、形式・意味・使用の3つがバランスよく理解されていることであり、文法の形式を正確に形作れることだけを指すのではなく、意味のある形で適切に文法を使うことができることまでも含まれる。  文法のこれら3つの側面はそれぞれ異なる形で学ばれ、指導も異なった形で行われなければならない。形式を学ぶには、模倣練習が必要であろうし、意味を学ぶには、模倣学習とは違って、文脈に敏感にさせる必要があるであろう。文脈や話し相手が誰かによって影響を受ける使用の側面を学ぶには、ロールプレイが理想的かもしれない。また、一つの授業中に、この3つの側面をすべて教えなければならないということでもなく、学習者にとって何が必要な側面なのかを精選する必要がある。学習者によっては、どの側面が最も大きな課題なのかは異なるものである。受動態を例にとって考えると、学習者にとっての最も困難な課題は、いつどのような場面で受動態を使うかという使用の側面であろうと考えられる。文法指導における指導内容を精選する際には、この3つの側面という概念はきわめて有効である。

第5章 Rules and Reasons 
 文法というと、一般に規則(rules)と同義語と捉えられる。規則とは言語の形態統語論的規則を一般化したものであり、体系的かつ順序立てて文法を指導する際に都合がよい。しかし、学習者にとって、文法の規則を知るだけでなく、なぜその文法が存在するのかといった理由(reasons)を知ることも大切である。理由を知ることで、文法を単に丸暗記したり機械的なものでなくしたりすることができる。また、文法の理由を知ることで、規則からの例外的事例を理解することも可能である。例えば、状態動詞の場合、進行形にはできない規則があるが、"I'm loving this class."のように例外が存在する。進行形にできるのは、状態に変化の可能性が想定される場合であり、状態動詞であっても進行形を取れる可能性がある。このように学習者が規則の裏にある理由を知ることで、融通の利かない規則の欠点に対し、柔軟に対応できるようになる。教師にとって、文法選択の理由は、どんな学習者のレベルであっても重要であると考えられる。例えば、There構文を初級レベルの学習者に教えているときであっても、There構文は新情報を導入する際に用いられるという理由を教師が知っていることで、教師が活動を考える際に、誤解を招くような導入をすることを避けることができる。

第6章 The Grammar of Choice 
 言語話者は、メッセージを伝達するために文法の中からある文法を選択する。しかし、ある文法が選択される動機として、社会的な要因が働くときがある。例えば、"I want"を多用する学習者が、無作法であると英語母語話者に受け取られてしまうことがあるが、無意識のうちに使用する言語で相手に与える印象を決めてしまうことがありうる。したがって、いつ、なぜある特定の文法形式が使われるのかという文法の使用の側面を理解しておくことは、教師にとっても、学習者にとっても大切なことであり、注意を要する。例えば、ある文法を選択することで、ある特別な態度を表してしまう可能性があったり、何が主語に用いられるかによって、背後にある権力が文法を選択する際に表れてしまうことがあったり、ある特定のフレーズを多用することによって、社会的なグループのアイデンティティーを示したりすることがある。


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Ellis, R. (2003). Task-based Language Learning and Teaching. Oxford: Oxford University Press.

■第1章の要約
Tasks in SLA and Language Pedagogy
第二言語習得および教授において、タスクという用語は多様に定義されてきた。これまでの先行研究におけるタスクの定義を規定する要素を取り出し、本書におけるタスクは次のように定義される。「タスクとは、メッセージが正しくかつ適切に送受されたかどうか判断できるある目的(結果)を達成するために言語を意味的に処理させる作業計画である。タスクでは特定の文法形式を使用させることもあるが、学習者の意識はつねに意味に向けられ、学習者の持つ言語知識を活用させる。タスクは、実社会に直接かつ間接的に関連する言語使用を求める。タスクには表出および理解の処理が含まれ、口頭および筆記による様々な認知処理が含まれる。」タスクは、焦点化されていないタスク(unfocused tasks)と焦点化されたタスク(focused tasks)の2種類に区分できる。前者は、不特定の言語形式を学習者に使用させるかもしれないが、ある特定の言語形式を使用させることを念頭に置いていないタイプのタスクをさし、後者は、ある特定の言語形式を表出および理解に使用させようとするタイプのタスクをさす。ただし、両者とも上記の定義にある特徴を共有する。
  これまでの多様なタスクを検討するために、タスクデザインのフレームワークを示すことができる。(1) 目的:そのタスクがどのような目的であるか、(2) インプット:タスクがどのような言語データを提示しているか(例えば、絵や地図)、(3) 条件:タスク内での情報の提示のされ方(例えば、一方か双方か)、(4) 手順:タスクを実施する際の手続き(例えば、内容を計画する時間の有無)、(5) 結果:タスクを通して得られる予想される結果(成果の場合:完成された表、過程の場合:言語・認知処理)である。このフレームワークをもとに、異なるタイプのタスクを体系的に描写することが可能である。
 タスクが第二言語習得および第二言語教授においてどのように扱われてきたかを概観すると以下のようになる。第二言語習得研究では、初期のケーススタディーにおける学習者言語の描写のためのタスク使用に始まり、インプット仮説・インタラクション仮説・気づき仮説をはじめとする検証研究では、どのようなタスクタイプが習得を促進しやすいのかを追究する研究の焦点となってきている。第二言語教授においては、これまでのタスクの扱われ方は、タスク援助型の言語指導(task-supported language teaching)とタスクに基づく言語指導(task-based language teaching)の2つのタイプに区分できる。前者のタイプは、概念・機能シラバスなどを例とするコミュニカティブアプローチにおいて、提示-練習-産出(PPP)型の産出段階でタスクが用いられる。教授内容と学習者の自然な習得順序と合わないなどとする批判が多い。一方、後者のタイプは、ナチュラルアプローチや手順シラバス、プロセスシラバスなどで見られ、タスクはシラバス構成の中心として捉えられる。最近では、事前・事後タスクなどのタスクサイクルが考案されたり、テスティングにおいてもタスクの概念が用いられたりするようになってきている。

■第2章の要約
Tasks, Listening Comprehension, and SLA
タスクに基づく研究は、言語表出、主にスピーキングのタスクに焦点が置かれてきたが、第一章でみたように本書での定義ではリスニングを含む4技能のいずれかを含むものである。リスニングに関する研究はこれまで次の2つの問いに関心が寄せられてきた。(1) リスニングタスクの特徴が学習者の聴解にどのような影響を与えるのか?(2) リスニングタスクの特徴が第二言語習得にどのような影響を与えるのか?である。この2つの問いからも分かるように、リスニングには、理解のためのリスニング(listening-to-comprehend)と学習のためのリスニング(listening-to-learn)の2つの機能に区分できる。理解のためのリスニングでは、例えば、次の音楽家のジャンルは何かをスキーマ知識に基づいて答えさせ、それが正しいかどうか英文を聴き取らせ確認するタスクを行う。理解のためのリスニングは、単に聞いたものを解読するだけではなく、仮説検証や推測を含んだ能動的な意味解釈と捉えられる。したがって、聞き手としての役割、聴き取りの目的、スキーマ知識(内容および形式スキーマ)、文脈情報が、理解のためのリスニングのプロセスに影響を与える。最近では、理解のためのリスニングは、話し手と聞き手の協同的な意味構築と捉えたり、ボトムアップ処理とトップダウン処理の相互作用と捉えたり、インタラクティブなものとして捉えられてきている。一方、学習のためのリスニングでは、例えば、過去と現在時制の文法の違いを注意深く聞いて過去か現在かを聴き取らせるような、学習者が聴き取るインプット内のある特定の文法構造に学習者の意識を向けさせるタスクを行う。これは、学習者に言語形式を気づかせる目的をもつ。Krashenのような理解可能なインプットを豊富に与えれば、学習者は無意識的に習得されるという考えに反し、Schmidtらは、インプットを与えるだけではなく、インプット内の新しい言語形式に学習者のnoticingがなければ習得にはならないとする考えがある。これは、理解のためのリスニングタスクを行っていれば、L2の習得がうまく達成できるかという問いにつながってくる。
 リスニングタスクは大きく分けて、インタラクティブとノンインタラクティブに区別できる。この章では、ノンインタラクティブなリスニングタスクにのみ焦点を当てる。ここでは、Listen-and-do taskとAcademic listening taskの2つのタイプに分けて、これまでの研究動向を見てみる。Listen-and-do taskは、指示を聞いてその指示どおりに物を選ぶなどのタスクで、情報を聴き取る中でインプット内の新しい言語形式に学習者の意識を向け、くり返しや簡略化など修正されたインプットがどのように理解を促進するかをみる際に用いられることが多い。その結果、意味のやりとり(meaning negotiation)などインタラクションを通し修正されたインプットは概して学習者の理解を高めることが明らかにされている。一方、そのような修正されたインプットが習得にまで至るかどうかは今のところ不明である。Academic listening taskは、大学などの講義における学習者によるノートテイキングの質をみたりそれが理解や習得にどう影響するかをみたりするために利用されてきた。その結果、第二言語学習者のノートは母語話者のそれと比べ、不十分であり正確でないことがわかり、理解において、および習得においてどれくらい影響しているかを断定できるにまで至っていない。

■第3章の要約
Tasks, Interaction, and SLA
本章は、学習者が他者とのインタラクションを行うタスクを扱う。そのようなタスクは、学習者を含んだインタラクションを促進し、そのインタラクションを通して言語習得を促進するものと捉えられている。タスクと言語習得は、間接的な関係にあり、それを理解するためには、タスクと言語使用、言語使用と言語習得の関係を探求する必要がある。タスクと言語使用の関係を、次の3つの観点、(1) 意味の交渉(negotiation of meaning)、(2) コミュニケーション方略(communicative strategies)、(3) コミュニケーションの効率(communicative effectiveness)の観点で見る。意味の交渉とは、会話者が意味をよく理解できない場合、会話を維持するためにとられる行動のことである。その意味の交渉の具体的方策としては、理解チェック(comprehension checks)、明確化要求(clarification requests)、確認チェック(confirmation checks)、言い直し(recasts)がある。意味の交渉を行うことが学習者にとって重要であるという理論的な前提は、学習者が、強制されたアウトプット(pushed output)を行ったり、理解可能なインプット(comprehensible input)を得たりすることが挙げられる。コミュニケーション方略は、言語的知識が欠如していたり、アクセスできなかったりする場合にであっても、なんとか会話をつなげる必要があるときにとられる行動である。会話をあきらめてしまう拒否方略(reduction strategies)となんとか会話をつなげようとする達成方略(achievement strategies)があり、後者には、近似表現、言い換え、造語、母語利用、援助要求、身振りがある。このコミュニケーション方略は、言語習得にとって重要とする見方とそうではない見方があるが、少なくともコミュニケーションを成立させる手立てとして重要であると考えられる。コミュニケーション効率とは、コミュニケーションの目的が達成できたかどうかをさし、会話者同士がお互いに指し示すものが確認できるかどうか、対話者の観点に立って会話ができるかどうかが、コミュニケーションの目的達成に求められる。
 インタラクション仮説は当初、意味の交渉などインタラクションを行うことで、学習者が理解可能なインプットを得ることができ、その結果、言語習得が促進されるものと仮定した。しかし、その後、仮説は次のように修正されることになる。理解可能なインプットの獲得だけではなく、意味交渉の結果、第二言語使用に言語的なフィードバックを得ることになる、また、意味交渉の結果、学習者は自分のアウトプットを修正することになる。それこそが、言語習得を促進するという考え方である。インタラクション仮説は、意味交渉の定義の問題など信頼性の問題や理解可能なインプットと言語習得の不明確な関係、意味交渉の方策をカウントする研究ではインタラクションの本質を捉えきれないとする妥当性の問題を批判されることもある。
 タスクがインタラクションにどう影響を与えるかという問いに答えるために、タスクの特徴が、意味の交渉、コミュニケーション方略、コミュニケーション効率にどのような影響を与えるかという視点で見てみる。タスクの特徴はこれまで、情報交換の有無(information-gap vs. opinion-gap)、情報の方向性(one-way vs. two-way)、タスクの結果(closed vs. open)、トピックの親しみ度、談話特性(narrative vs. description)、認知的複雑さ(detailed vs. less detailed)などの観点を取り上げ、タスクの特徴のインタラクションおよび習得への影響が調査されてきた。一方、会話者の役割、タスクのくり返し、対話者との親密度、フィードバックのタイプなど、タスクの実施方法が、インタラクションおよび習得にどのような影響を与えるかも調査されてきている。しかし、今のところ、相対する結果が出たり、取り扱うタスクの特徴が多くなったりするなど問題点もあり、どのようなタスクが第二言語習得を促進するかという問いに対する明確な結論に至っていない。

■第4章の要約
Tasks, Production, and Language Acquisition
本章は、学習者の言語表出とタスクの関係に焦点を絞る。とくに、特定の文法構造の表出を意図していない、焦点化されていないタスク(unfocused tasks)を行った結果としての言語表出を扱う。一般に、言語指導の目的は、流暢かつ正確で、適切な言語使用ができることである。どのようにこの目的が果たせるかを考えるためには、(1) 学習者の言語知識はどのように形成されているのか、(2) その知識は言語表出においてどのように処理されるのか、(3) 言語表出におけるその知識の活用が言語習得にどのように貢献するのか、という問いに答える必要がある。
 (1) 学習者の言語知識はどのように形成されているのか?言語知識は、言語の特殊性を認める普遍文法的なアプローチと言語と他の認知技能との差別化を認めない認知的なアプローチによって捉えられてきた。タスクに関する研究は、後者の認知的アプローチに拠り所を求めている。言語知識には、暗示的知識と明示的知識の2つに区分されることは一般的に認められてきている。明示的知識が暗示的知識になりうるかどうかという問題が議論されてきた。暗示的知識の表象については、規則に基づくシステム(rule-based system)と記憶に基づくシステム(memory-based system)の2つが共存することが認められている。
 (2) その知識は言語表出においてどのように処理されるのか?情報処理モデルによれば、概念化装置(conceptualizer)において話者が伝えたいメッセージは概念化され、そのメッセージは心的辞書(lexicon)内の情報を活用しながら形式化装置(formulator)を通し文法化・音声化され、調音装置(articulator)を通して発話される。このモデルから次の2つが指摘できる。学習者が言語表出する際に形式化装置の段階において、記憶に基づくシステムを活用した場合、素早い流暢な処理が可能となり、逆に、規則に基づくシステムを活用した場合には、正確性はあるが流暢性の低い処理になると考えられる。また、プランニング(strategic, on-line, monitoringの3種がある)の時間が学習者に与えられると、学習者にとって言語表出における諸問題が和らぐと考えられる。
 (3) 言語表出におけるその知識の活用が言語習得にどのように貢献するのか?これまで言語入力の役割が重要視され、第二言語習得における言語表出の役割は、言語習得に必要な処理を促す直接的に貢献すると考えるものは少なく、インプットへの注意を促すやnoticing-the-gapを促すなどといった間接的で限定的なものとする考えが多かった。しかし、言語表出の言語習得への直接的な貢献は、既習知識の処理の自動化や統語的処理の促進による形式への意識化にある。つまり、学習者の言語表出が、規則に基づくシステムから記憶に基づくシステムへ、あるいはその逆の移行を促すきっかけとなる可能性を指摘できる。
 どのようなタスクデザインが、あるいは、どのようなタスクの実施方法が学習者の言語表出に影響を与えるかが最近になって盛んに研究されてきている。とくに口頭による言語表出の影響は、これまで多様な形で測定がなされてきているが、流暢さ、正確さ、複雑さの3つの観点で測定されることが多い。どのようなタスクデザインが言語表出に影響を与えるかに関しては、インプットの変数(文脈的支援の有無、タスク内の要素の数、トピックなど)、タスクの条件(情報共有の有無、タスク要求度など)、タスクの成果(タスクの開閉度、元来の構造、談話モードなど)などの要因が、上記の3つの側面のいずれかにおいて、学習者の言語表出に影響を与えることが報告されてきている。このことから、唯一ベストのタスクがあるわけではなく、異なるタイプのタスクが第二言語習得に異なった貢献をする可能性があることを指摘できる。また、タスクの実施方法の違いに関して、プランニングの有無(online planning、strategic planning)、リハーサルの有無、事後タスクの有無が学習者の言語表出に大きな影響を与えることが報告されている。オンラインのプランニング(タスクパフォーマンスに時間制限を持たない)により、形式化に意識を働かせることになり、その結果、言語の正確さが高まるようである。一方、タスク前のプランニングにより、何を言いたいかメッセージの概念化に意識を働かせることになり、その結果、言語の流暢さと複雑さを高めるものと考えられる。しかし、正確さが低くなるというトレードオフの影響が見られる。リハーサルやタスクのくり返しの結果、言語の複雑さが高まるようであるが、これは、学習者が規則に基づくシステムに意識を向けることができるからであると推測できる。
 これらの多様な要因を見てみると、ある要因(タスクデザインまたはタスクの実施方法)により、学習者の意識がどこに向けられるかによって、流暢さ、正確さ、複雑さといった言語表出の特徴が異なることがわかる。つまり、タスクデザインやタスクの実施方法の違いにより、学習者が規則に基づくシステムに依存するときには、言語表出の正確さや複雑さを高め、記憶に基づくシステムに依存するときには、流暢さを高めるようであることがわかる。

■第5章の要約 
Focused Tasks and SLA
本章では、タスクデザインあるいはタスクの実施方法によって特定の文法構造を学習者に使用させることを意図した焦点化されたタスク(focused task)をみる。焦点化されたタスク(unfocused task)は、学習者が特定の文法構造をタスクの中で使用することを前もって知らされておらず、学習者の意識はメッセージに向けられている点で、文法練習(situational grammar exercise)とは異なる。文法練習では文法構造を練習することにもっぱら意識が向き、既有知識を自由に使用することが制限される。
 焦点化されたタスクが第二言語習得過程においてなぜ重要であるかは、スキル構築理論(skill-building theories)と暗示的学習(implicit learning)の知見から説明できる。認知心理学の分野では、認知技能の発達は統制処理から自動処理の過程を踏み、システムが再構築化されていくものと考えられている。また、ほぼ同じような概念として、宣言的知識から手続的知識への発達過程も提示されている。これらの考えでは、明示的知識の付与は、効果的なスタート地点と考えられ、その知識を自動化する段階で、練習(practice)が重要な位置を占める。しかし、文脈から切り離された機械的な文法練習ではなく、コミュニカティブな文脈の中で構造を使用するタイプの活動が自動化において重要と考えられる。ここに、焦点化されたタスクの意義がある。一方、暗示的学習の知見からも焦点化されたタスクの役割を見出すことができる。暗示的学習とは、言語習得は明示的に学習されるものではなく、コミュニケーションを通して無意識的かつ暗示的に習得されるものとする考えである。この考えは、コミュニケーションの機会を豊富に提供し第二言語習得を促進させるとする、タスクに基づく言語指導の根底にある考えである。しかし、焦点化されたタスクも、特定の文法構造を暗示的に学習させる機会を提供することが可能と考えられる。そのためには、コミュニケーションの中で文法構造に自発的に学習者に気づかせることが重要である。そこで、文法知識などで獲得した明示的知識が役割を担う。明示的知識は、インテイクとして取り組む際の気づき(noticing)と学習者自身のアウトプットと明示的知識とのギャップへの気づき(noticing-the-gap)を促す、暗示的知識の育成の補助的な役割を担っていると言える。 以上のように、焦点化されたタスクは、メッセージに焦点を置いたコミュニケーションの機会を与え、その中で学習者が偶発的に言語構造に気づくという機会をつくり出す役割を担っている。
 これを実現させるために、次のような3つのタスクデザインが考えられてきている。第1に、構造化された表出タスク(structure-based production tasks)である。これは特定の文法構造を偶発的に使って表現させるもので、明示的知識を自動化するという役割を担うものと捉えられる。しかし、タスク内で特定の構造を偶発的に使わせるようにタスクをデザインするのは容易ではない。つまり、そのタスクの中で当該の文法構造を使うことが、自然(naturalness)なタスクになるのか、タスクを達成するために必要な(utility)レベルなのか、タスクを行う上で必然的な(essentialness)レベルなのかにタスクのタイプを段階づけることができるように、ある文法構造をタスク内で必ず使用させる表出タスクをデザインすることは容易ではない。第2に、理解タスク(comprehension tasks)であるが、理解タスクとは、特定の構造を含むインプットを豊富に与える方法(input enrichment)や特定の構造に焦点化するようデザインされたインプットを学習者に処理させる(input processing)といった方法で、文法構造を含んだ文(章)の意味内容を理解させる活動である。このようなタスクであれば上記のタスクの必然性を求めることは容易である。第3に、意識昂揚タスク(consciousness-raising tasks)が考えられる。意識昂揚タスクは、学習者にサンプルを与え規則性を発見させ明示的知識を育成する活動であり、暗示的知識を育成する上では補助的なタスクであると捉えられる。 メッセージを中心としたタスクでパフォーマンスする最中に学習者が言語構造に偶発的に気づくようにするには、そのようなタスクをデザインするだけではなく、タスクを実施する中でも工夫が可能である。後者の方法として暗示的に行う方法と明示的に行う方法がこれまで議論されてきた。タスク中での明確化要求やrecastsという方法である。学習者の誤りを教師あるいは他の学習者が暗に示すという方法で、学習者はその意図には気づかない方法である。一方の明示的に焦点化する方法としては、コミュニケーションを妨げない程度に、学習者が誤りに気づくレベルでの訂正を行うことをさす。このように、焦点化されたタスクを(デザインあるいは実施方法によって)行うことにより、学習者が既に身に付けている言語構造を使用させたり、新しい言語構造を中間言語内に構築したり、または、学習者の明示的知識の育成に貢献したりする役割があることが指摘されている。

■第6章の要約 
Sociocultural SLA and Tasks 
これまでの章では、第二言語習得理論の主流となるインプットとアウトプットの言語処理過程として言語習得をみる認知的アプローチから、タスクに基づく言語指導をみてきた。本章では、Vygotskyを始めとする、他者とのかかわりの中で言語学習が行われると考える社会文化的アプローチを取上げる。このアプローチでは、人間の高度な精神活動は媒介(mediation)を等して行われるとされ、この媒介は、道具の使用、他者とのやりとり、符号(つまり、言語)の使用を通して行われると考えられる。このアプローチにおいて言語は、社会的やりとりを達成させたり、精神活動を維持したりする手段としてみなされる。したがって、第二言語学習とは、言語学習の媒介(道具)である手段と(学習の目的である)言語そのものの両方を発達させることを意味する。第二言語学習における媒介には、社会的やりとりの中で他者との媒介、プライベートスピーチを通して自己との媒介、タスクや技術など作られたものによる媒介などが考えられる。これらの媒介には、初心者が熟達者などから発達の支援を受ける際に得られる外的・他律的な(other-regulation)ものと、学習者個人があるパフォーマンスを自律して統制するために自身の資源を使う際に得られる内的・自律的な(self-regulation)ものがある。 
 学習者が一人で実際にできる発達レベルと他者からの支援を得てできる発達レベルには差があり、その差は発達の最近接領域(zone of proximal development)と呼ばれ、この差が教育的支援により発達可能性のある部分と考えられる。したがって、学習者が一人ではできないパフォーマンスを自律してでできるよう他者からの支援が適切になされる必要がある。この学習者の他律から自律への移行を支援する熟達者と初心者とのやりとりは足場作り(scaffolding)と呼ばれる。他者とのやりとりの中での学習を媒介させるためには、活動の参加者が活動の動機や目的を共有し、その活動の特徴に同意している際に得られる協調的主観性(intersubjectivity)が重要であり、初心者がその時点で必要としている最適の援助を熟達者からうまく引き出す場を作りだす必要がある。また、協調的主観性をもつことにより、ある発話が他者の発話に依存するその場での即興的に反照し合う意味のやりとりは偶発性(contingency)と呼ばれ、これも学習の媒介を生みだす中で重要とされる。これらの特徴がみられるとき、学習者は言語知識を発達させる機会を得ることになるとされる。したがって、第二言語学習は、タスクそのものによって引き起こされるのではなく、タスクに参加する者がどのようにそのタスクに関わるかに影響されると考えられる。これは、同じタスクを異なる学習者が行う場合に学習者がタスクに対する動機や目的意識が異なれば、同じタスクであってもタスクに対する関わり方が異なってくるとする活動理論(activity theory)によって説明される。 
 協同的なダイアログにおける足場作りやメタ言語、プライベートスピーチが、第二言語習得においてどのような役割があるのか研究され始めている。社会文化的アプローチ内で使われる各用語の定義の問題や長期的な調査がまだ少ないといった課題があるものの、協調的主観性や偶発性、活動理論などを考慮するとすれば、学習者があるタスクでパフォーマンスする場そのものを無視することはできず、その場を無視してタスクを定義づけたりカテゴリーづけたりすることはできないことが分かる。また、他者とのやりとりの仕方、学習者のタスクに対する動機や目的など、学習者がどのようにそのタスクに関わっているか、その状況に依存した要素をタスクの効果を考える際には慎重に検討する必要があることが分かる。

■第7章の要約
Designing Task-Based Language Courses
本章では、タスクに基づく言語指導のシラバスデザインをどのように行えばよいかをみる。シラバスデザインでは内容(どのようなタスクを行うか)と方法(どのようにタスクを行うか)を決定する必要があるが、本章では特に、内容、つまり、どのようなタスクを行うかというタスク選定の判断材料を提示する。タスクに基づく言語指導をデザインする際には、焦点化されていないタスク(unfocused task)を行う場合はタスクの選定を、焦点化されたタスク(focused task)を行う場合には言語内容(文法形式や言語機能)の選定が求められる。 
 これまで、シラバスには文法シラバスや概念機能シラバスのように、指導すべき言語内容を先に決定・特定し、その構造ごとに指導内容を配列するといった言語的シラバス(linguistic syllabus)が主流であった。しかし、学習者には個人内シラバス(built-in syllabus)があり、指導したことがすぐに習得されるわけではないとする第二言語習得研究からの知見を受け、言語的シラバスは再検討されることになった。そこで、Prabhuのprocedural syllabus(コミュニケーションを中心としたタスクを活用した指導)やLongによる学習者ニーズの重視やメッセージ中心の言語やりとりの中での形式への意識(focus on form)などの考えに基づくタスクシラバスなど、先に言語内容を特定しないタスクに基づいたシラバス(task-based language syllabus)が提唱されるようになった。
 本章では、この流れを受け、特に先に言語内容を特定しないタスクシラバスの作成に話を限定する。タスクの特定には、(1) どのようなタイプのタスクを選定するか、(2) どのようなタスクのテーマやトピックを選定するか、(3) どのような配列でタスクを行うか、を決定する。 タスクのタイプを区分する試みは、これまで様々なタスクの定義やフレームが提示されることによってなされてきた。ここでは4つの観点でタスクタイプの区分する。(1) インプット(どのようなインプットをタスク内で提示するのか:例;口頭か筆記か)、(2) 条件(どのような方法で学習者に情報をやりとりさせるのか:例;一方的か双方的情報交換、談話のタイプ)、(3) プロセス(どのような認知作業を行うのか:例;情報・意見・説明なのか)、(4) 結果(どのような成果が求められるのか:例;口頭か筆記か、談話のタイプ、閉じた・開いた)。
 タスクのテーマやトピック内容の選定に関しては、これまで議論されることが少なかったが、一般的なトピックを選定する際には、生徒、家庭、学校生活、社会といった同心円状に示されたEstaire and Zanonによるフレームワークは参考になる。タスク配列に関しては、上記の4つの観点(インプット、条件、プロセス、結果)による特徴がタスクの難易度に影響を与える可能性があることがこれまでの先行研究によって議論されてきているが、非形式的に学習者の状況に合わせて判断すべきである。
 コミュニケーションでの意味のやりとりを中心とした焦点化されていないタスクを基にするタスクシラバスにおいては、どのように文法などの言語形式に学習者の意識を焦点化(focus on form)するかという問題が残るが、その方法として2通りの考え方ができる。第1に、焦点化されていないタスクを行う中で、学習者の言語形式への意識化を同時に図る統合的なアプローチである。コミュニケーションを中心としたタスクを行いながら、学習者の表出するエラーのチェックリストなどをもとに、どの言語形式が習得されているかなされていないかを教師が判断し対処法的な形式指導が行われる形をとることになる。第二に、焦点化されていないタスクを行う指導と言語形式への意識化を狙った指導を同時並行的に行うアプローチが考えられる。このアプローチでは、焦点化されていないタスクの活用と焦点化されたタスクや指導の割合を、学習者のレベルに添って変化させていく形をとることになる。 ここまで見てきたように、シラバスデザインに関する諸問題は複雑であり、完全なモデルを提示することは不可能であるが、これまでの知見をもとにシラバスデザインの判断材料をいくつか提示することは可能であろう。

■第8章の要約
The Methodology of Task-Based Teaching
 本章では、タスクを活用した授業づくりの際にどのような方法や手続きがあるのかを、次の2つから見てみる。(1) 授業の中でタスクをどのように組み込んでいくかという授業計画の視点と、(2) 教師と学習者がどのように授業に参加するかという視点である。 
 まず、授業計画の視点であるが、タスクを活用したひとつの授業のフレームワークとして、プレタスク、タスク、ポストタスクの3つの段階に分けることができる。プレタスクの段階においては、後に行うタスクに対する学習者の動機づけを高めたり、言語習得が促進されやすい形に準備したりすることが目的となる。その方法として、(1) 後のタスクで行う内容と似た活動を行う、(2) タスクで行う事柄の理想モデルを与える、(3) タスクのトピックとなる内容スキーマや背景知識を活性化する、(4) タスクで行う活動を形式面および内容面に関して前もって準備・計画する。タスクの最中の段階としては、教師が前もって準備できる指導オプションと教師の瞬時の判断に任される指導オプションがある。前もって準備できる指導オプションとしては、(1) タスクの制限時間をどうするか、(2) 絵やテキスト、メモなどの支援をどれだけ活用するか、(3) サプライズ要素を入れるかどうか、などがある。一方、教師の瞬時の判断に任される部分は、教師および学習者が言語をコミュニケーションの道具として使用するように考慮しながらタスクにおける談話を統制していくなど、教師のこれまでの指導経験や理念に関わるところが大きい。また、タスク最中の学習者のやりとりは未熟なものであったりすることがあるため、教師が明示的および暗示的にフィードバックを与えたりモニターしたりする必要がある。ポストタスクの段階においては、タスクで行うパフォーマンスが言語習得につながるよう、(1) タスクで行ったことを繰り返す、(2) タスクで行ったことを言語面および内容面で振り返る、(3) エラーを復習したり、意識昂揚タスクを行ったり、ドリル練習を行ったりして、タスク中に扱った言語形式に焦点を絞り学習者の意識を向ける、などの工夫が考えられる。 
 タスクを活用した授業への教師および学習者の参加の視点としては、学習者同士で行う形が中心になるが、学習者が個人で行う形や、教師主導型、学習者主導型など様々な形があり、それぞれに利点と欠点がある。例えば、学習者同士で協同してタスクを行う場合、発話量や動機が高まり不安が軽減し学びが促進されるという利点がある。一方で、特定の学習者が活動を独占したり逆に依存しすぎたり、とくにグループワークでは言語形式に意識を向けることが困難であったりすることが欠点として考えられる。これらの課題を解決するために、学習者同士の協同作業そのものを支援する指導が教師には求められる。例えば、タスクに意義付ける、個人の貢献を見えるようにする、メンバー構成を検討する、情報共有の方法を検討する、話しやすい座席にする、メンバー構成を一定にする、共同作業のスキルを学ばせる、などが考えられる。それらの参加方法の形態がいかなる特徴をもっているかを考えながら、タスクの性質や授業展開などを同時に考慮して、タスクを活用した授業における指導オプションを考えていく必要がある。 
 最後に、タスクを活用した授業づくりの原則として以下のことを一般的なガイドとして示す。(1) タスクの難易度を考慮する、(2) 授業の目的を明確にする、(3) タスクの意義を意識させる、(4) 生徒に主体的に活動させる、(5) リスクを負うことに挑戦させる、(6) 優先的に意味に焦点を当てる、(7) 言語形式に焦点を当てる機会をもつ、(8) タスクでのパフォーマンスや進捗度を評価させる。

■第9章の要約 
Task-Based Assessment
本章では、本書で述べてきたタスクが、第二言語を用いたコミュニケーションの能力を評価するためにどのように活用できるかをみる。タスクを中心とした評価とは、ある特定の目的をもった意味に焦点化された文脈において、コミュニカティブな言語パフォーマンスを評価する道具としてタスクを活用した評価のことをさす。これまで言語の評価方法の概念として、TOEFLに代表される分析的・客観的に言語を評価する信頼性重視の量的測定や、クローズテストやディクテーションなどにより言語能力を統合的に捉えて評価を行う統合的言語能力テスト、そして、実生活に近い形での言語パフォーマンスを求める妥当性重視のコミュニカティブ言語テストがある。これらをまとめると、言語テストは大まかに見て、システムとしての言語知識を評価するシステム準拠テスト(system-referenced tests)と特定の文脈の中で言語使用を評価するパフォーマンス準拠テスト(performance-referenced tests)の2つに分けることができる。そして、それぞれのテストはさらに、直接的な言語サンプルを測定する直接的テストと、それをさらに細分化しその構成要素を測定する間接的テストに分けることができる。したがって、タスクに基づくテスト(task-based test)とは、直接的システム準拠テスト(言語能力の一つという観点でパフォーマンスを評価するテスト)と直接的パフォーマンス準拠テスト(実社会で実際に行われうるパフォーマンスを評価するテスト)をさす。 
 タスクに基づくテストは、タスクデザイン、実施手順、パフォーマンス測定の3つから記述できる。タスクデザインにおいては、直接的システム準拠の形をとるか、直接的パフォーマンス準拠の形をとるかに分かれ、それぞれに長所と短所が存在する実施手順においては、プランニングの時間と対話者を誰にするかという要素が、受験者のパフォーマンスの特徴を左右する可能性がある。パフォーマンス測定は、直接的評価(実社会に即したパフォーマンスが達成できたかという視点で評価する)、談話分析評価(タスクにおける言語パフォーマンスを正確性、流暢性、複雑性という観点で評価する)、外的評価(行動や言語的な規準を明記しそれに基準を設けて評価する)に分類できる。また、評価者が採点をするのか評価者以外の者が採点をするかという選択がある。 
 タスクを中心とした評価は、果たしてそのタスクが最善のパフォーマンスを引き出しているかという代表性(representativeness)、実社会の活動にどの程度そのタスクが反映されているかという本物度(authenticity)、そのタスクのパフォーマンスがどれほど実社会でのパフォーマンスを予測できるかという一般化(generalizability)、そのタスクは言語能力と専門知識のどちらを測定しているのかという非分離性(inseparability)、果たしてそのタスクを複数回実施しても同じような評価結果になるのかという信頼性(reliability)、どれくらい実施および採点にコストがかかるのかという実用度(practicality)といった課題を指摘することができる。しかし、タスクを中心とした評価には、言語指導への波及効果や有益な診断的フィードバックの提供、評価の妥当性などの利点を指摘できる。また、総括的評価としてだけでなく、形成的評価の一環としてタスクに基づくテストを活用する価値があることも指摘できる。タスクを中心にした評価は、妥当性や信頼性を高めるためにさらに研究がなされ長期的な視点で捉えられるべきであり、タスクの特徴を把握した上で指導目的に合った形でタスクを中心にした評価が活用されるべきである。

■第10章の要約 
Evaluating Task-Based Pedagogy 
本書で述べてきたタスクによりプログラム全体が構成されているようなコースは実際のところまだ少なく、特定の言語的構造を説明し、その構造を練習する伝統的なデザインの中で自由な言語表出をさせるタスクが使用されることが多く、外国語指導において広く普及している概念とは言えない。それはなぜなのかその理由を本章では考えてみる。まず、タスクに基づく言語指導を教育における革新と捉え、革新が成功するためのいくつかの要素から、タスクに基づく言語指導の主張そのものの特徴を見てみる。言語的に焦点化されていないタスクを、言語習得を促進させるためにコミュニケーションプロセスに学習者を従事させるために言語指導の中心に置く、とする主張は単純である。しかし、言語的に焦点化されたタスクを導入するとなると練習(exercise)と区別し難く、タスクの種類の段階付けを行うことも易しくはなく、その概念は複雑になる(complexity)。タスクを使った指導は、伝統的な言語焦点化の指導を廃止するような考えではないため試行しやすいと言える(triability)。いくつかの視点でタスクという革新を見てみると、完全にタスクを中心にした指導(task-based teaching)は伝統的な指導の中にタスクを補足的に活用する指導(task-supported teaching)よりも採用されにくいと言えるかもしれない。しかし、task-supported teachingはtask-based teachingよりも理論的に好ましいということにはならない。今後、タスクに基づく言語指導が本当に機能するのかどうかについて実証的な評価が行われる必要がある。ミクロレベルの評価とマクロレベルの評価があり得る。ミクロレベルの評価には、生徒に基づく評価(アンケートや面接による生徒からのタスクへの意見や態度をみる)、応答に基づく評価(想定した認知行動に合致しているかどうかタスク中の実際の行動を記録し調査する)、学習に基づく評価(タスクが本当に言語学習を促したかどうか事前・事後テストを行って測定する)が考えられる。一方、マクロレベルの評価は、プログラム全体が成功しているかどうかの評価であり、Prabhu(1987)が報告したCommunicational Teaching Projectの評価がそれに当たる。しかし、学習成果をどのように測定するかが難しく、実際の教育現場では均質な被験者を選ぶランダムサンプリングも難しいなどの理由から複雑であり問題も多い。 
  タスクに基づく言語指導に対する批判には、タスクで行うコミュニケーションの質が限られている点、タスクに基づく指導が文化的にそぐわない可能性がある点、タスクにより実際のコミュニケーションを行うことは難しい点、などいくつか指摘できる。しかし、タスクの基本的な主張は、タスクを通して、教室外のコミュニケーションに起こりうる様々な認知プロセスを学習者に体験させるということである。その認知プロセスには、トップダウン・ボトムアップ処理、気づき、意味のやりとり、語彙・規則に基づく言語表出、足場により支援された言語表出、プライベートスピーチ、言語形式についてのやりとりが含まれる。すなわち、コミュニケーションの目的を達成するために第二言語を使用する文脈の中で、学習者が意味と形式の両方に意識を向けさせるということである。その認知プロセスが言語習得を起こす条件を作り出すのであって、コミュニケーションそのものが作り出すのではない。したがって、タスクに基づくコミュニケーションは、必ずしも自然で、本物で、会話的なものでなければいけないというものでもなく、言語習得を促進する認知プロセスが含まれている必要があるということである。タスクに基づく言語指導が今後教育現場において受け入れられるためには、タスクに基づく指導が本当に実施可能かどうか、本当に機能するかどうか、成功の条件は何かなど、実証的な評価を提示することがより一層必要であろう。


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Skehan, P. (1998). A Cognitive Approach to Language Learning. Oxford: Oxford University Press.

■第1章の要約
Comprehension and Production Strategies in Language Learning
言語理解(comprehension)と言語表出(production)の言語学習(language learning)における関係において、学習者が言語理解および言語表出を行う際にはそれぞれ、必ず方略(strategy)が作用する。言語理解における方略とは、スキーマや文脈、そして非言語情報をもとに、ボトムアップ的な統語処理を伴わすに意味を理解が行われることを指し、言語表出における方略とは、言語知識欠如のために起こる話題回避や婉曲表現などボトムアップ的な統語処理を伴わす意味を表現することを指す。その結果、言語理解および言語表出を学習者が多量に行ったとしても、必ずしも言語学習および発達にはつながらない可能性がある。また、リアルタイムで行われる言語使用においては、とくに言語処理に伴うプレッシャーがかかる。したがって、意味のやりとりが最重要課題となる日常のコミュニケーションのもとでは、学習者は効果的な方略に依存することになり、統語的なボトムアップ処理に依存することは少なくなる可能性を秘めている。その結果として、コミュニケーションのもとでは言語学習および言語発達の促進は必ずしも保証できない可能性が指摘できる。

■第2章の要約
The Role of Memory and Lexical Learning
分析的・統語的に処理を行う規則に基づいた体系(rule-based system)は、規則を創造的に駆使でき組織的に規則を記憶内に保存できる一方、言語処理上の負荷が高く非効率的である。リアルタイムで行われるコミュニケーションおよび言語使用のもとでは、規則準拠システムに依存する統語的処理は学習者によって回避されることが多い。規則準拠システムに代わって、学習者は記憶された言語(memorized language)の固まり(chunks)である記憶に基づいた体系(memory-based system)に依存する傾向にあることが指摘できる。記憶に基づいた体系に依存する例として、定型表現などの語彙的成句が挙げられる。記憶に基づく体系は、全体的な固まりとして処理が行われることから、言語処理は自動化され処理上の負荷が小さい。また、処理上の負荷が小さい分、他の処理に資源を利用することが可能になり言語使用(言語理解および言語表出両方において)における利点がある一方で、この記憶に基づく体系への過度の依存は、規則に基づく体系を活用した統語処理が不必要になり、言語発達にとっては障害になる可能性も指摘できる。したがって、言語知識の二層性の特徴(dual-mode system)を考慮した、規則準拠および記憶準拠システムのバランスが重要であり、どちらか一方への過度の依存は言語使用および言語学習にとって不利になるトレードオフの関係にあると言える。

■第3章の要点
Psycholinguistic Processes in Language Use and Language Learning
情報処理アプローチ(information processing approach)に基づくと、第二言語学習は、インプット処理(input processing)、中央処理(central processing)、アウトプット処理(output processing)の3つの段階で考察することができる。インプット処理においては、学習者の言語発達において気づき(noticing)が重要であり、インプットの量、インプットの焦点化、学習者の内的要因、タスクの特性などが、気づきを促進する要因として大きく関係している。中央処理の段階では、規則に基づいた体系と記憶に基づいた体系が作動記憶(working memory)を通して長期記憶(long-term memory)の中から言語使用および言語発達のために活用されると考えられる。アウトプット処理の段階においても同様に、言語知識の二層性(dual-mode system)のトレードオフの関係が作用すると言える。リアルタイムでの意味の流暢なやりとりが最重要課題である言語使用においては、記憶に基づいた体系が活用される傾向にあり、学習者による言語体系への気づきが求められる言語発達にとっては、記憶に基づいた体系への過度の依存は障壁になり、規則に基づいた体系が意識され、学習者がもつ言語知識の再構築化(restructuring)や仮説検証(hypothesis testing)が行われる必要がある。この言語知識の二層性におけるトレードオフの関係は、最近のタスクに基づく言語指導の実証実験報告の中でも確認することができる。

■第4章の要約 
Models of Language Learning
これまでの言語学習を説明するモデルである、Chomskyを代表する普遍文法(universal grammar-based approach)、Pienemannを代表とする多面的モデル(multidimensional model)、Bialystockを代表とする分析-統制モデル(analysis-control model)を取り上げ、(1) 第二言語学習者の言語知識体系の表象を説明できる程度、(2) 言語知識体系の発達過程を説明できる程度、(3) リアルタイムでの言語使用と言語知識の表象の関係を説明できる程度、(4) 言語使用と言語発達の関係を説明できる程度、の考察観点で評価した場合、諸モデルの弱点をそれぞれに指摘できる。そこから、言語知識の二層性(dual-mode system)モデルが、上記したすべての考察観点においての妥当性を指摘することができる。つまり、第二言語学習者の言語知識は、(1) 規則に基づく体系と記憶に基づく体系の共存、(2) 言語知識体系の発達には規則に基づく体系が関わり、(3) 言語使用においては記憶に基づく体系が関わり、(4) 言語知識の二層性のトレードオフの関係の中で、語彙的成句と統語的成句が言語使用および言語発達過程において活用され、語彙成句化(lexicaliaztion)→統語成句化(sytacticalization)→再語彙成句化(relaxicalization)が繰り返されると説明することができる。

■第5章の要約
A Rational for Task-Based Instruction
外国語授業で行われてきた言語指導アプローチである、文法提示(presentation)→パターン練習(practice)→表出練習(production)は、伝統的な3Pアプローチとして批判される。一方、その代替案として、第二言語習得理論をもとにタスクに基づく言語指導が提案されてきた。多様なタスクの定義が行われてきているものの、概して、タスクの定義としては、明確な目的があり、その目的として意味の伝達が焦点化され、タスクにおける意味伝達は実社会との関連があり、その目的達成がタスクの成否として判断できるような言語活動のことを指す。タスクに基づく言語指導に関する研究では、タスクにおける学習者の言語使用(performance)は、流暢さ(fluency)、正確さ(accuracy)、複雑さ(complexity)の3つの観点で調査報告がなされてきている。その結果、学習者が意識を向ける資源には制限があり、タスクのもつ特徴によって、正確さが求められた結果学習者が言語形式に意識を向ければ言語の流暢さに支障が現れ、流暢さが求められた結果学習者がメッセージに意識を向ければ言語の正確さが低くなることが明らかである。その結果、第二言語知識体系は、規則に基づいた体系と記憶に基づいた体系の共存関係にあることの証拠として見ることができる。したがって、リアルタイムの言語使用(performance)と言語発達(development)の間には相互に均衡状態にあると言える。

■第6章の要約
Implementing Task-Based Instruction
伝統的な構造に基づくアプローチ(structure-based approach)では形式と意味の乖離が指摘され、タスクに基づく言語指導(task-based approach)では意味への過剰な意識から形式の軽視が指摘される。両者を考慮した中庸的なアプローチとして、意味を重視しながら同時に、学習者に形式をも意識させるアプローチを提案している。Pre-task、task cycle、language focusの3段階を提案するWillisのタスクアプローチを紹介すると同時に、第二言語習得理論との関連性の低さを批判し、これまでの理論研究からの知見に基づく必要性を主張する。とくに、どのようなタスクタイプを選択するか、あるいはどのようにタスクを連携させるかという課題の重要さと、タスク中の形式と意味への学習者の意識を操作することの重要性を主張している。そこで、事前活動(pre-task)、事中活動(during-task)、事後活動(post-task)の3段階からなる情報処理アプローチ(information-processing approach to task)を提示する。事前活動の段階として、プレタスクの理由説明、言語に関する指導、意識昂揚、パフォーマンスの計画を行う。事中活動の段階として、学習者の意識の操作(制限時間、モード、援助の設定)を行う。事後活動の段階として、タスクの振り返りおよび定着を図る。このアプローチによって、タスクを用いた指導における形式と意味の乖離を防ぐ手段を提示している。

■第7章の要約
Processing Perspectives on Testing
これまでのテスティングにおける主要な論点は、言語能力(competence)と言語使用(performance)の区別にある。BachmanはCanaleのcommunicative competence分析モデルを一段掘り下げ、コミュニカティブな言語使用を前提としたcommunicative language abilityモデルを提案している。言語使用と言語能力を結ぶ位置に方略能力を位置付けるなどモデル改善が見られるものの、前章までで見てきたdual-mode systemとパフォーマンスをどう説明するのかその関係性が十分に説明できない課題がある。そこで、言語使用(performance)は言語能力(competence)を基にしたものであるが、テストにおいて、performanceにおける要因を避けることはできない。また、テストパフォーマンスにおいてもdual-mode systemが説明されなければならない。したがって、communicative competenceのような構成要素を考えているだけでは不十分であり、performanceに影響を与える言語処理要因のコントロールを検討することがとくに第二言語テストにおいて今後必要かつ重要である。オンライン型のテスト(例えばオーラルテスト)におけるパフォーマンスにおいて、言語認知的処理を考慮すると、流暢さ、正確さ、複雑さにおけるトレードオフの相互関係が起こる。したがって、生徒に課すタスクの特徴(テスト前の考える時間、制限時間、タスクの内容など)によってパフォーマンスが強く影響を受けたり、生徒によって意識する側面が違ってきたりすることを踏まえた上で評価が行われるべきであると同時に、今後評価に強く影響を与えると考えられるタスクに関わる要素を検討していく必要がある。

■第8章の要約
Research into Language Aptitude
言語適性(language aptitude)は、知能、動機などの要素を含まない言語学習における言語特有の生来的能力と仮定される。また、この言語適性は、環境や訓練などによって影響を受けにくいものと仮定される。したがって、他の要素がすべて同じであれば、言語適性が高い学習者ほど言語学習が早く行われると仮定される。しかし、次の点から批判を受けてきた。第1に、第一言語能力において個人差は認められず、第一言語と同じように第二言語も誰しもが習得できる可能性を秘め、第二言語習得における達成度の個人差は環境に起因するのではないかという批判、第2に、言語適性を測定するテストの概念的妥当性が未だ低いとする批判、第3に、言語適性が適応するのはその測定テストの形態から学校教育などの形式的学習のみに対してであって日常的な環境における言語学習には当てはまらないとする批判である。しかし、第一言語習得においても習得の早さに関し個人差は明確に存在するとの報告があり、言語適性の構築概念は最近の言語学習過程や情報処理における理論モデルと照合しても理に適っていると考えられる。また、形式的学習以外の環境こそ音声入力を分析的に処理する力などの言語適性力が重要であるとも指摘できる。したがって、言語適性の存在を否定することはできない。ここでは、Carrollの言語適性の要因を整理し、言語適性の概念を構成する3つの要因を提示する。(1) 音素符号能力(phonemic coding ability)、(2) 言語分析能力(language analytic ability)、(3) 記憶力(memory)である。音素符号能力とは、音声入力をリアルタイムで処理する力を指し、入力を処理する段階で重要である。言語分析能力とは、言語サンプルの中から規則やパターンを推測し一般化する力で、中央処理において重要な働きを担う。記憶力とは、リアルタイムでの長期記憶からの効率的な検索力を指し、言語を表出の段階で重要になる。

■第9章の要約
Issues in Aptitude Theory: Exceptional Learners and Modularity
言語適性は言語学習の才能の特徴を見る稀な窓口であるとみなすと、言語適性とは何かを分析することは応用言語学の基本的な論点の一つである。そこで本章では、次の3つの疑問を扱う。(1) 言語学習に関わる能力は、一般的知能(intelligence)や認知能力(cognitive abilities)とは異なり言語特有のものなのかどうか、(2) 言語学習に際立った学習者(exceptional learners)は言語適性に優れているのかどうか、(3) 第一言語学習に関わる言語適性と外国語学習に関わる言語適性は同じものなのかどうか、また連続性はあるのかどうか。第1の質問については、これまでの第二言語の言語適性と知能(IQ)の比較検査の研究報告から、言語適性と一般的知能および認知能力の間には共通性が見られるものの両者は異なっているようである。言語適性の要素をさらに詳しく見てみると、言語分析能力(language analytic ability)などの要素については言語適性と一般的知能との共通性が見られ、音声符号化能力(phonemic coding ability)と記憶(memory)については一般的知能との特異性が見られるようである。第2の質問については以下の通りである。際立った第二言語学習成功者は、特別際立った知能や認知能力があるとは言えず、また言語適性の音声符号化能力と言語分析能力に関しても特別優れているとは言えないが、逆に、記憶力については特に際立った能力をもっている。一方、第二言語学習の低学習者に関しては、言語適性の中でも音声符号化能力が大きく劣っていることが分かった。例外的な第一言語学習者を見てみると、認知能力が劣っているにもかかわらず、統語面は通常通り成長し意味論的解釈がほとんどできない学習者がいる。逆に、意味的解釈は通常通りできるのに対し統語面での言語操作に劣る学習者がいる。したがって、第一言語では統語と意味論的要素は独立して発達し、第二言語では音声符号化と記憶は独立して発達する可能性があるという、第一言語学習と第二言語学習における区分化(modularity)が見られることがわかる。これは第3の質問に対する答でもある。つまり、一般的知能や認知能力とは異なる言語特有の要素が第一および第二言語学習に関係していることが確認できる。しかし、第一言語学習と第二言語学習とではその要素が、臨界期(critical period)を境にして違いが見られる。つまり、第一言語学習の場合、臨界期までは言語と認知は異なる学習メカニズムが働き、統語的要素と意味論要素に区分化が見られる。一方、第二言語学習の場合、とくに臨界期以降、言語適性の3要素のうち音声符号化能力(phonemic coding ability)と記憶(memory)において一般的認知能力との間に違いが見られ、言語適性の一つの要素である言語分析能力(language analytic ability)は、一般的認知能力とのはっきりとした差別はできないようである。この結果は、これまでの章で述べてきた記憶に基づく言語使用(memory-based language use)の存在の議論と符号するものと主張されている。

■第10章の要約
Learning Style
生まれもった特性と考えられている言語適性とは異なり、学習スタイルは、学習へのアプローチの個人的な好みを反映したものと考えられる。そのような学習スタイルに個人差が見られるのかどうか、これまで数多くの研究調査が試みられてきている。中でも、field dependence/independence(場依存)、つまり、全体の中で個々の要素を見つけ出し分析できるかどうか(field dependence)、あるいは、個々の分析よりも全体把握を得意とするかどうか(field independence)が研究の主要概念となり、研究が進展してきた。しかし、果たして明確な区分が可能かどうか、GEFTを代表とする測定方法が妥当かどうか、などの問題も指摘され、場依存の概念をより詳しく解釈し直す動きもある。場依存以外の学習スタイルの捉え方も、これまで多様になされてきた。例えば、Willing(1987)は、分析的か全体的かという軸と、受身的か能動的かという軸で、4つの学習スタイルに区分を試みている。Skehanは、これまでの章の議論を踏まえ、独自の分類を提案する。分析(high and low analysis)の軸と、記憶(high and low memory)の軸により、学習スタイルを4つに区分する。つまり、4つのタイプの一つに、言語の規則性を分析する傾向が高く正確さを重視し、かつ、語彙化された記憶を活用し流暢さを重視する傾向のある学習者(high analysis/high memory)がいることになる。この二次元によるモデルは、次の3通りに解釈される。つまり、この学習スタイルの傾向は学習者の能力を反映したものとして解釈するか、学習者が行うタスクの特徴によって強く影響を受けるものと解釈するのか、あるいは、学習者の好みが反映されたものとして解釈するかである。Shekanを含むこれまでの学習スタイルのモデルを再考察すると、すべてのモデルが、これまでの章で述べてきた情報処理の諸段階(information processing framework)、あるいは、知識の表象(representation)と処理(processing)の区別と関連していることがわかる。すなわち、研究者により強調する対象にズレがあるものの、入力処理(input)、中央処理(central processing)、表出処理(output)のいずれかに、学習スタイルの軸を関係づけていることがわかる。今後、さらなる調査の必要のある研究分野である。

■第11章の要約
Learners, Learning, and Pedagogy
教科書、シラバス作成、教育行政、教員研修などでは、一般的に学習者を画一的なものと想定し、学習者の個人差が議論されることは少ない。しかし、実際の日々の授業では、学習者の個人差への対応が余儀なくされる。学習者の個人差に対処すべく、外国語教育研究では、教師と学習者が学習内容を討論の上授業を行うprocess syllabusやタスクを中心に授業を行おうとするprocedural syllabusなどがこれまで提案されてきた。しかし、学習者に学習内容を判断および決定するだけの能力が備わっているかどうかは疑わしい。そこで、学習者の言語適性、学習スタイルや学習ストラテジーなどの個人差を考慮しながらそのようなシラバスを実施する改善策をこの章では検討する。これまでの章では、学習者の二重モード体系を見てきたが、学習者には、分析を優先し規則に基づき正確さを重視するタイプと統合を優先し記憶に基づき流暢さを重視するタイプに分かれる。またバランスの取れた学習者のタイプも存在すると考えられる。そのような多様なタイプの学習者は、異なる発達過程をたどるものと予想できる。そのような個人差に対応するためにも、画一的なタスクを実施するのではなく、タスクのタイプを選定したり、文法形式への焦点を調節するような工夫をしたりする必要性が考えられる。その具体的方策として、事前活動や事後活動で文法に焦点化した活動を行ったり、プロジェクト型の活動を導入したりすることが提案され、多様な言語適性や学習スタイル、学習ストラテジーをもった学習者がそれぞれの個性を発揮して言語学習を進めるものと考えられている。


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Brown, J. D. (1995). The Elements of Language Curriculum. Boston, MA: Heinle & Heinle.

■第3章の要約
Goals and Objectives
本章では、カリキュラムの目的と指導目標を次の3つの観点で述べる。(1) ニーズ・カリキュラム目的・指導目標の関係、(2) 指導目的を計画するプロセス、(3) 指導目標に対する賛否両論、(3) 実際のカリキュラム目的と指導目標の例を示す。
 ニーズ・カリキュラム目的・指導目標の関係: カリキュラム目的(goals)は、求められている言語や場面のニーズに基づいたプログラム全体の一般的な目標を示したものと定義される。したがって、将来生徒がどのようなことができるようになってほしいのか、あるいは、プログラムを終了し時何ができるようになってほしいのかを明記したものであり、より具体的で観察可能な指導目標を作成する際に基盤となるものである。カリキュラム目的は、言語および場面を中心としたものであるが、時には言語の機能面を重視したものがあったり、言語の構造面を強調したものがあったり、生徒のニーズに合わせた多様な形態がありうる。カリキュラム目的は永久的なものではなく、必要に応じて修正も可能な柔軟なものとして捉えられるべきである。一方、指導目標(objectives)は、プログラム終了時に生徒に身につけてほしい知識・行動・技能を具体的に描写したものとして定義する。カリキュラム目的を詳細に分析した結果であり、論理的にカテゴリー化されグルーピングされたものでなければならない。指導目標を明確化する際に、Mager(1975)の提示する3つの要素が参考になる。(1) パフォーマンス:生徒ができるようになってほしいこと(例:例示として機能する文に正しく線を引くことができる) (2) 条件:期待されるパフォーマンスの重要な条件(例:11年生レベルの一般科学に関するトピックの600語の文章で)(3) 基準:容認されるパフォーマンスの質やレベル(例:4回のうち最低3回はできる/80パーセントの正確さで)。とくに、パフォーマンスの表記に使われる動詞は、Gronlund (1978)が示すような、明確で観察可能な行動を描写する動詞が望ましい。これらの3要素以外にも、対象者(どのような生徒、どのようなレベルか)、測定方法(どのような手法でパフォーマンスの達成度を測るか)なども重要である。
 指導目的を計画するプロセス: 一般的なカリキュラム目的から具体的な指導目標を作成するにあたり、ほかのプログラムで使われている目標、言語教授に関する図書やジャーナル、教育学における学習の分類法など、多様な資料が入手可能である。言語教授に関する図書としては、van Ek & Alexander (1980)のfunctional syllabusなどは、言語機能を中心に詳細かつ包括的に言語指導目的を記述している点で参考になる。教育学における学習の分類法として、Bloom(1956)の認知領域(言語知識と言語技能に関係する学習側面)、情意領域(感情、価値、偏見などに関係する学習側面)などがある。
 指導目標に対する賛否両論:指導目標を作成することに対する賛否両論もある。指導目標を明確に立てることに対する批判として、目標は行動心理学に偏っている、目標には表現できないものがある、目標を立てることで指導をつまらなくさせる、教師の指導における自由度を制限してしまう、などである。しかし、指導目標のタイプや描写のレベルには幅があり、ある程度修正可能な柔軟なものであり、すべての教師からのコンセンサスを得る必要があり、教師の行動を制限するものではないこと、といったポイントを押さえれば、教師を支援するものとして貴重な役割を果たすものとして指導目標は捉えられるべきである。
 実際のカリキュラム目的と指導目標の例として、Zhongshan UniversityのGELCの授業の指導目標が提示されている。



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(c) Copyright 2001 Takeo Tanaka