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研究の目的とタイプ          

何のために英語教育研究をするのかを把握し、研究行為の目的を明確にすることは研究を始めるにあたって極めて重要です。そこで、どのようなタイプの研究を行うかが決まってきます。ここでは、研究の目的とそのタイプを解説します。

 

英語教育研究の目的                

英語教育研究(ここでは、卒業論文、修士論文および学会等での研究をさす)の目的は、私は大きく分けて2つあると考えます。第1に、教師が自分の指導理念や指導方法を振り返り、英語教師としての資質を向上させること、第2に、英語教育の発展のためのデータや主張を蓄積し理論を構築することです。

 

英語教師自身の資質向上

何のために外国語としての英語を教えているのか?英語の何をどのような方法で指導すべきなのか?英語の学びの何を評価すべきなのか?英語教育の本質とは何か?など、1人1人異なったテーマを英語教育研究の機会のなかで深く考えることになります。焦点化された一つのテーマを深く探求しながら、英語教育の本質を考えてみることによって、日々の英語指導のあり方を振り返り、自分自身の指導理念や指導方法を冷静に検討する力を育成することになります。たとえ研究対象が、実践と直接結びつきそうにない理論的な研究であっても、ピンポイントで小さな事象を扱った研究であったとしても、その研究過程で身につけた、アンテナを張って価値ある情報を取捨選択するセンス、ものの本質を見極めるセンス、人の主張を鵜呑みにせず自分のものとして解釈するセンス、客観的にものごとを分析考察できるセンス、そして自分の考えをわかりやすくまとめるセンスは、英語授業の実践に必ず生きてきます。

 

英語教育における理論構築への貢献

英語教育研究の第2の目的は、以下の通りです。

 

まず、英語教育に関連する一つの専門領域を深く考察し、その分野での研究動向を把握し、これまでに明らかになっている事柄および議論されてきた論点を整理し、さらに今後どのような事象・仮説(指導方法)を明らかにしていくべきかを考察・検討することです。

 

そして、そのような考察をもとに、一つの仮説および主張を構築し、その仮説および主張を具体的に支持・実現するデータ・方略を収集・考案し、今後の英語教育に直接および間接的に示唆を与える研究として、データや提案および考察を外国語教育のさらなる発展のために蓄積していくことです。

 

そのためには、自分がいろいろと考えたことを、他の人にとって、できるだけわかりやすい形で、その考えを残していくことが大切です。

 

 

英語教育研究のタイプ                

英語教育研究のタイプには、大まかに分けて次の4つがありまる。参考までに、カテゴリーごとに具体的モデルとなる論文を挙げました。

 

@論考型研究

これまでの研究仮説や報告を包括的に考察・整理し、新しい論点や新しい仮説を構築する。例えば、臨界期仮説に関する先行研究における重要論点の指摘。文法指導の効果に関する先行研究結果の考察と今後の研究課題の整理など。

 

(論文例1) 新論点提示型

Laufer, B. & Hulstijn, J. (2001). Incidental vocabulary acquisition in a second language: The construct of task-induced involvement. Applied Linguistics, 22, 1-26.

これまでの語彙習得の研究動向をレビューしながら、語彙習得における処理水準、動機づけ、ニーズなどの重要性を指摘し、学習者のタスクへの介入(involvement)の程度が、語彙習得の成否に影響を与えるとの新しい論点を導き出している。

 

(論文例2) 概念整理型

Ellis, R. Basturkmen, H. & Loewen, S. (2002). Doing focus-on-form. System, 30, 419-432. 

文法指導の主流になりつつある、focus on formの定義と理論的背景を解説しながら、コミュニケーションをとる中での言語形式への焦点化の2つのタイプを具体例とともにカテゴリーに区分し整理している。

 

(論文例3) 研究動向整理型

Kasper, G. (2001). Four perspectives on L2 pragmatic development. Applied Linguistics, 22, 502-530.

語用論的能力の習得に関するこれまでの研究動向を、(1) 語用論的能力と文法能力の発達の関係、(2) 語用論的能力と情報処理の関係、(3) 語用論的能力と社会文化的アプローチの関係、(4) 語用論的能力と社会化の関係、の4つの視点からまとめ整理している。

 

(論文例4) 論点対比型

Ellis, R. (2000). Task-based research and language pedagogy. Language Teaching Research, 4, 193-220.

第二言語習得研究および言語教授におけるタスクに関わる議論を心理言語学的および社会文化学的な視点から概観し、その2つの視点における議論の長所と短所を指摘し、これら2つの視点からのタスクを基盤とする教授の議論の必要性を主張している。

 

(論文例5) 現象説明型

Ellis, R. (1999). Item versus system learning: Explaining free variation. Applied Linguistics, 20, 460-480. 

第二言語習得過程における、free variation ("No look." "Don't look." などの学習者言語の可変性)という現象の存在理由と役割の重要性を、これまでの認知科学などの知見を援用し、system learningの前段階に起こるitem learningの証拠であることを主張し、同じ意味を違う形でも表現してみたいと思う学習者の表現欲求がこの現象を生み出している原因であると考察している。

 

 

A調査型研究

これまで十分に明らかにされていない事象に関して傾向や現象の量や質を調査する。例えば、高校生を対象にした英語の学習意欲に関するアンケート調査。ライティングにおける生徒の使用するストラテジーの調査など。

 

(論文例1) アンケート調査例

Akiyama, T. (2003). Assessing speaking: Issues in school-based assessment and the introduction of speaking tests into the Japanese senior high school entrance examination. JALT Journal, 25, 117-141. 

東京都の中学校英語教師199名にスピーキングテストに関するアンケートを行い、直接スピーキング力を評価している教員の割合やスピーキング力の測定に使用されるタスクの内容を調査している。

 

(論文例2) 観察調査型

Asaoka, C. & Usui, Y. (2003). Students' perceived problems in an EAP writing course. JALT Journal, 25, 143-172.

日本の大学におけるアカデミックライティングの授業の中で、学生がライティング過程において何をどのように問題視しているかを、日本人大学生を対象に、1年間に渡る縦断的および質的な観察を行い調査している。

 

(論文例3) プロトコル調査型

Qi, D. S. & Lapkin, S. (2001). Exploring the role of noticing in a three-stage second language writing task. Journal of Second Language Writing, 10, 277-303.

ESL環境で学ぶ英語力のレベルの異なる2人の成人学習者を対象に、学習者の気づきが作文過程でどのように作用するかをthink-aloud protocolを用いてケーススタディ調査の結果を報告している。

 

(論文例4) 教材分析型

Ellis, R. (2002). Methodological options in grammar teaching materials. In Fotos, S. & Hinkel, E. (eds.). New Perspectives on Grammar Teaching in Second Language Classrooms (pp. 155-179). Mahwah, NJ: Lawrence Erlbaum Associates.

市販のESL用文法テキストがどのような内容で構成されているかを分析し、その傾向を指摘し、その結果をもとに軽視されがちな指導オプションの重要性を提案している。

 

 

B実験型研究

これまでの先行研究を考察し、ある事象・指導方法に関する仮説(こうすればこうなるであろうと予測し検証できるようにすること)を検証する。例えば、ライティング指導におけるエラー修正の効果の有無について(ライティングのエラー修正をすれば効果があるであろう)の仮説を立て検証する、など。

 

(論文例1)

Erlam, R. (2003). Evaluating the relative effectiveness of structured-input and output-based instruction in foreign language learning: Results from an experimental study. Studies in Second Language Acquisition, 25, 559-582.

文法説明を行った後、インプット型の指導、アウトプット型の指導、そして特別な指導を受けない統制群の3つのグループに分け、それぞれの指導に効果があるかどうかを検証している。

 

(論文例2)

Yuan, F. & Ellis, R. (2003). The effects of pre-task planning and on-line planning on fluency, complexity and accuracy in L2 monologic oral production. Applied Linguistics, 24, 1-27.

タスクの事前活動として、pre-task planningとon-line planning、そしてno planningがタスクパフォーマンスに影響を与えるとの仮説を立て、被験者をこの3グループに分け物語を絵を説明させるタスクを行い、学習者の口頭表出の特徴(流暢さ、複雑さ、正確さ)が、どのように影響を受けるかを検証している。

 

(論文例3)

Hu, G. (2002). Psychological constraints on the utility of metalinguistic knowledge in second language production. Studies in Second Language Acquisition, 24, 347-386.

メタ言語知識の活用において、(1) 文法構造の典型性の程度、(2) その文法が学習者に意識されているかどうか、(3) メタ言語知識の処理が自動化されているかどうか、この3つの要素が第二言語表出におけるメタ言語知識のアクセスに影響を与えるとの仮説を立て、どのように影響を与えるかを検証している。

 

 

C提案型研究

これまでの研究報告・仮説に基づいて、ある指導ポイントを論考したり、指導方法を提案したりする。例えば、インプット処理仮説にもとづく文法練習の提案。読解力を正しく測定するためのテスト項目の開発など。

 

(論文例1) 指導ポイント提示型

Field, J. (2003). Promoting perception: Lexical segmentation in L2 listening. ELT Journal, 57 (4), 325-334.

リスニングにおけるボトムアップ的な低次レベルの要因である音声の符号化も高次レベルの要因(背景知識や方略の有無)と同じぐらい聴解上の困難を引き起こす重要な要因であることを主張し、音声学の基本的知見をもとにその練習法を提示している。

 

(論文例2) 指導方法提示型

Ellis, R. (1995). Interpretation tasks for grammar teaching. TESOL Quarterly, 29, 87-105.

従来の文法指導の問題として、文法規則が説明された後、すぐ規則を表出させる練習を行う傾向があることを指摘した上で、文法規則を含んだ文を解釈させる練習の重要性を主張し、そのタイプの文法指導方法を提示している。

 

(論文例3) 指導方法提示型

Newton, J. (2001). Options for vocabulary learning through communication tasks. ELT Journal, 55, 30-37.

メッセージの伝達を重視したコミュニカティブタスクのなかで未習語彙の学習をどのように促進させるかという課題を解決する指導方法を事前・事中・事後活動の3つの段階に分け、ペアやグループを用いた語彙学習のあり方を提案している。

 

 

[留意点]

必ずしも、研究の特徴を明確に区分することができないこともあります。あるいは、複数の研究のタイプを兼ね備えた研究も存在します。しかし、重要なことは、これまでの先行研究での仮説や提案を建設的に批判し、考察を加えていくことによって、新たな研究仮説の検証や指導方法の提案が継続して行われ蓄積されていくことだと思います。

 

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