研究②: リン資源の循環利用・有効活用を目指した直截的分子変換法の開発

有機リン化合物は機能性配位子や難燃剤・農薬など幅広い用途がある一方で、従来、合成化学的利用の際にはリン由来の副生物の多くは再利用が困難な廃棄物として扱われてきました。また、リン官能基の基盤骨格への導入は廃棄物が等量副生する置換型反応により実施されています。このような背景に加えて、リン資源を産出する国が限定されることなどから、近年リン資源の枯渇が危惧されています。そこで本研究では、有機リン化合物の特性に注目し、希少なリン資源の循環利用と廃棄物を出さないリン官能基の直接的・触媒的導入を目指して種々検討を行っています。
 希少なリン資源の循環利用に関しては、フルオラス基を導入したリン試薬の循環系を設計しWittig反応に利用することで、有機溶媒とフルオラス溶媒を用いた抽出操作および効率的なリン資源の再生によるリン資源循環型Wittig反応を新たに開発しました。本反応ではフルオラス溶媒と有機溶媒の混合比率により抽出効率を高め、回収・再資源化の過程を最適化することで、優れたリン資源の回収と実用的なリサイクル利用に初めて成功しました。

また、リン–リン単結合を有するジホスフィン類のラジカル付加反応や遷移金属触媒反応に注目することで、機能性有機リン配位子の直接的合成と金属錯体へのone-potでの分子変換、リン官能基のビルディングブロックへの位置/立体選択的導入法などの有用な合成法を新たに開発しました。

日本の国産資源であるヨウ素 (I2)とジホスフィンを適切に組み合わせることで、医農薬品や機能性色素骨格に重要なリン-ヘテロ元素結合の触媒的形成法の開発にも取り組んでいます。反応系中で発生するP-I結合化合物は空気や水にも安定かつ高い反応性を有しており、従来の取り扱いが難しいリン-ハロゲン化物に代わる新しい合成中間体としての活用法の検討を進めています。