研究③: 高周期ヘテロ元素の反応特性を活用した合成戦略の構築

一般に低周期ヘテロ元素–炭素結合は結合エネルギーが大きく、結合活性化には過酷な反応条件が必要です。一方、高周期ヘテロ元素–炭素結合はそれぞれの軌道の大きさが異なるために軌道が十分に重ならず、結合エネルギーが比較的弱いため、光照射や加熱によって容易に開裂することで対応する炭素ラジカルを発生します。発生した炭素ラジカルを種々の反応剤と反応させることで、新たな炭素–ヘテロ元素結合を形成可能です。このような高周期ヘテロ元素のラジカル反応特性を利用することで、有機鉛化合物を用いた二級炭素ラジカルの発生を経る非対称カルコゲニドの合成法や、テルル上でのラジカル置換反応を経由した非対称ジアリールテルリドの選択的合成法を新たに開発しました。加えて、高周期ヘテロ元素化合物である有機ビスマスを遷移金属触媒により活性化し、高反応性な含窒素C1ユニットであるイソシアニドとの多重挿入反応を制御することで、パラジウム触媒を使用した際は、電子供与性配位子として広く使用されているN-ヘテロ環状カルベンの前駆体として知られるジイミンが、ロジウム触媒を使用した際は多置換イミンが選択的に形成可能であることを新たに見出しました。また、得られたジイミンに対してさらに反応を行うことで、医薬品基盤分子であるキノキサリン誘導体への短工程変換を実現しました。

また、有機ビスマス化合物を空気中で加熱するだけで対応するアリールラジカルが簡便に発生可能であることを見出し、本手法を活用してクロスカップリング反応などに有用なアリールボロン酸エステルの遷移金属フリー合成を達成しました。