研究④: 不活性芳香族化合物への直接・触媒的カルボニル化反応の開発

医薬品や発光材料の基盤となる機能性ヘテロ環はその材料特性から大きな関心を集めていますが、材料合成の基盤となりうる官能基をヘテロ環に自在かつ迅速に導入する手法はまだ十分には確立されておらず、多段階での分子変換を必要としたり、その結果生じる大量の副生物・廃棄物の処理に課題を残しています。特に、化学工業・医薬分野で重要な基礎反応のひとつとして注目されている遷移金属触媒を用いたカルボニル化反応では、その多くがハロゲン基や配向基などであらかじめ修飾された基質を必要とするため、必ずしも直截的な合成手法となっていない場合が多く見受けられます。
 一方、C–H結合の活性化による直接的なカルボニル化は適用範囲を大幅に拡大可能な新たな合成戦略といえますが、芳香族化合物の直接/触媒的カルボニル化反応の開発は前例が少なく、C–H結合の活性化を鍵とする芳香族類の直接的かつ実用的なカルボニル化反応の開発は有機合成化学における挑戦的な研究課題の一つとして残されてきました。
 以上の背景から本研究では、機能性材料の基盤分子の一つとして近年大きな注目を集めているチオフェン類およびフラン類の直截的なカルボニル化触媒反応の開発を目指しました。その結果、酢酸パラジウム触媒存在下、CO/CO2混合系でp-ベンゾキノンを再酸化剤として用いて反応を実施することで、対応するカルボン酸を高収率・高選択的に得ることにはじめて成功しました。反応の詳細なメカニズムを調査した結果、COがカルボニル源および触媒活性種であるPd–カルボニル錯体の形成に、CO2が形成したPd–カルボニル錯体の反応条件下での熱分解・触媒失活の抑制に寄与していることを明らかとしました。開発した直接的カルボニル化反応は優れた環境調和性を有しており、現在は本手法を活用した機能性分子・医薬品分子合成への展開について検討を進めています。