【一般書】息吹

中国系アメリカ人のテッド・チャンによるSF小説の短編集です.

ある雑誌による2020年のベストSFランキングにおいて,あの「三体II」を抑えてトップにランクされたことを知って読んだところ,評価に違わない作品でした.

 

SF作品には大きく2つのタイプがあると考えています.1つはSF的な設定そのものをエンターテインメントとして楽しませてくれるもので,もう1つはSFとしての設定を舞台装置として用いながら,寓話的に何らかのメッセージを届けようとしているものです.劉慈欣による三体シリーズは前者のタイプの作品として,テッド・チャンによる「息吹」は後者のタイプの作品として,おそらくSF史に残るものです.

 

「息吹」は様々な設定の下での物語を通して,私達が日常の中で普遍的に行っていることの価値を提示しています.ここでいう普遍的なこととは,他者との関係を築いていくことや次世代を育てること,意思を持って何かを決めることなどであり,更には生きていることそのものを指しています.創造性に富んだストーリーと言葉の中でこうしたものの意味を示している点では文学や哲学にも通じるものがあり,同時代の中で読むことができたことを嬉しく思える作品でした.

 

なお,この作品の翻訳は三体シリーズに続いて大森望さんが手がけており,その訳の素晴らしさも日本語版における作品の価値を高めているように感じます.一部の翻訳SF小説のような読みにくさもないので,SF小説には馴染みのない方にもお薦めです.

2021年02月25日