【ドイツ渡航紀】0.渡航決定の経緯

昨年2021年度の1年間は,大学へ長期国外滞在(サバティカル)を申請してドイツの研究期間で研究を行っていました.

この滞在は公私共に貴重な経験となりました.今後同様にサバティカルを利用しようとされている研究者の方の参考になるよう,個人的な記録の意味も兼ねて雑記の形で整理していきたいと思います.

 

0.1 渡航を思い立つまで

サバティカルとは,研究従事者を教育や事務などの業務から離れさせて組織外の環境で研究に集中できるようにする制度です.国内外を問わず多くの研究組織で整備されており,私の周囲にも外国に滞在していた先輩研究者の方が多く,「ぜひ一度行った方が良い」とアドバイスを度々もらっていたため,いつか機会があればとなんとなく考えていました.

 

そのようなぼんやりとした状態から具体的な行動に移った大きなきっかけの一つは,自分と同年代・もしくはそれ以下の若手研究者が多く集まって研究を議論する研究プロジェクトに参加したことでした.

参加した若手研究者の方々は非常に高い主体性を持っており,研究面でも大きな刺激を受けたことに加えて,国外渡航の観点ではプロジェクト中から転職や短期滞在.長期滞在などの形で自由に海外の研究組織と行き来する人が少なからずいました.同世代以下の年代の方々のそのような姿を見て,機会は待つものではなく作るものだという意識になったことは,私にとって大きな変化でした.

 

私が現在専門にしているデータサイエンス分野の研究は欧米圏で活動が活発だったため,当時の時期に海外で知識習得とコミュニティ開拓に努める意義は大きいように思われました.またこれは私的な事情なのですが,いつか家族を連れて国外に長期滞在したいという考えがあった中で,子供の年齢や就学事情との兼ね合いで当時がベストのタイミングであるということもありました.

 

このような背景で,2021年度に国外の研究機関へ渡航しようと決めたのが2019年の年末頃,新型コロナウィルスが流行する直前(渡航の16か月前)でした.

 

0.2 所属組織内での調整と渡航先の決定

上記のように渡航を決めた直後は,新型コロナウィルスによる混乱と対応でそれどころでは無い状態がしばらく続きました.

そもそも日本を発つことができるのかも怪しい状況でしたが,仕事上の理由であれば長期滞在のビザを発給する国は多かったこと,職場の人事上の都合や上記の家族事情,また渡航予算措置の都合もあり,2021年の渡航を逃すと次の機会が回ってくる機会が分からなくなることから,ダメ元で2020年7月頃から具体的な準備を始めることにしました.

 

初めに行ったことは,所属組織(山梨大学)内での業務調整(渡航の9か月前)でした.

ちょうど山梨大学では2019年からサバティカル制度が新設されたため,海外への研究滞在の仕組みは存在していました.とはいえ,不在中は私が担当している講義を代行してもらう必要がありますし,その他の組織運営のための業務の担当人員も減ることになるので,当然ながら「行きたいので行きます」というものではありませんでした.新型コロナウィルス流行の中で出張することは非常識とみなされないかという懸念もありました.

しかし,私の上役に当たる方々に相談に行ったところ,ありがたいことに「若いうちに行っておけ」「社会情勢は悪いが,組織内の人員数の意味ではタイミングは悪くないから」と背中を押していただけました.同僚の先生方からも快く講義の代行を内諾いただき,業務上の問題はクリアできることになりました.

 

次に行ったのは渡航先の選択と交渉で,2020年8月頃(渡航の8か月前)のことです.

最初は自分の研究テーマに関連する有名な国外研究者へ直接メールを送ることを何度か行っていたものの,いずれも返事はありませんでした.有名な方は同じような相談を多数受け取る中で,面識の無い人を相手にする猶予は無いのだろうと想像します.私に国際的な業績や名声が既にあればまた話は違ったものと思いますが,その時点で考えても仕方のないことでした.

これはしかるべき筋に相談した方が良いだろうと思い直し,ある研究プロジェクトでメンターを務めてもらった情報学分野の方に意見を求めることにしました.私の研究テーマと近く,しかし全く同じではなく新しい分野の勉強にも繋がる共同研究が出来そうな海外の研究機関の当てが以前からあったため,この研究機関に滞在することについて意見を聞いたところ,偶然なことにこの研究機関の責任者の方と相談相手の方が個人的な友人であったため話を通してもらうことになりました.先方に紹介を受けた後は非常にスムーズに受け入れ交渉が進み,滞在を内諾してもらえました.

 

自分の希望した滞在先と相談をした方の間に親しい関係があったことはとても幸運な偶然でした.この経験を通じて私が感じた教訓は後続のために自分も研究者間のネットワークを大事にしなければならないということです.

仕事における個人間の繋がりには,公平な競争を疎外する良くない側面がある一方で,物事を円滑に進めたり今回私が恩恵を受けたように純粋にチャンスを広げてくれる面もあります.前者をコネ,後者を伝手と言い分けても良いかもしれません.コネの利用は当然避けられるべきで,そのような意味で個人的なネットワークを広げることには消去的だったのですが,海外への滞在機会を探す人が今後私の周囲にいた際などに,私が広いネットワークを持っていれば伝手という良い形で何らかの助けになることがあるかもしれません.自分が受けた恩恵をいわゆるペイフォワードとして返していくためにも,ネットワークを広げて良い形で後続に提供できるようにしておくことは重要であると考えを改めるようになりました.

 

話が逸れましたが,以上のような経緯で2021年4月からドイツ人工知能研究所(DFKI)に滞在できることが決まり,各種の必要な手続きに進むことになりました.以降の話はまた別の記事にまとめたいと思います.

2022年05月18日