【映画評】トップガン マーヴェリック

コロナ禍による度々の延期を経て,とうとう公開されたトップガン(1986)の続編です.

 

2枚目に振り切った演技を行う主演のトム・クルーズ,海軍パイロットの世界という魅力的な設定,迫力にあふれた音響と映像美,(やや典型的ではありますが)普遍的な人間ドラマ,チャレンジへの連帯と達成感など,伝統的ハリウッド映画の魅力に満ちた作品でした.米国では内省的な映画が流行っている中で久々に現れた王道の映画という印象で,ぜひスクリーンで観るべき作品です.

 

この映画を名作に押し上げている要素は上記のように多々ある中で,この記事ではトム・クルーズの功績を挙げたいと思います.

元々前作のトップガンでトップ俳優としての立場を得たトム・クルーズですが,彼の本来の魅力はトップガンシリーズのように完璧な2枚目というよりも,少し人間として駄目な所や抜けたところがある人物を演じた際に現れるように感じています.優れた容姿をベースにしながらも,そこにプロとしての高い演技力や自己演出力を掛け合わせることで役の人物に深みを感じさせる,素晴らしい俳優です.

しかし今回の映画では,逆にそうした演技力や自己演出力の全てが容姿も含めたカッコよさの表現のために用いられており,前作から数十年が経ったかつてのエースパイロットの持つ,時間の中で培われた渋みがこれ以上ない直球で表現されています.陳腐さや滑稽さとのギリギリのバランスのところで,カッコよさを正しくカッコよさとして伝えていることもまた,トム・クルーズならではと思えます.

 

トム・クルーズは今回の続編を直接プロデュースし,主演としてだけでなくキャスティングや演技指導という形でも本作に関わっています.

彼に引っ張られる形で,出演する多くの若手俳優もまた優れた演技を行っており,今後別の作品でまた彼らを観ることが楽しみです.

2022年05月30日