山梨大学 圧電フロンティア研究ユニット

ドメインエンジニアリング

担当:和田智志・上野慎太郎・藤井一郎
所属:応用化学科
専門:無機化学

 

トピックス

いかなる方向にもよく伸びるセラミック材料のしくみを解明 ~立方晶のように見えるのになぜ優れた圧電性をもつのか?~

当研究ユニットの藤井一郎助教、上野慎太郎准教授、和田智志教授と広島大学の黒岩芳弘教授の研究グループ、九州大学の佐藤幸生准教授からなる共同研究グループは、当研究ユニットが開発してきた結晶系が立方晶系に見えるにもかかわらず、優れた強誘電性と圧電性を示すセラミック材料の機能発現のメカニズムを大型放射光実験施設SPring-8でのX線回折実験により明らかにしました。本研究成果は、英国の学術出版社であるシュプリンガー・ネイチャーがオープンアクセス・ポートフォリオを拡大するために2020年に創刊した材料系のネイチャー・リサーチ・ジャーナル「Communications Materials」のオンライン版に2020年10月6日付で掲載されました。 山梨大学プレスリリース 掲載誌のページ

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過去のトピックス

 

研究概要

 圧電セラミックスは機械エネルギーと電気エネルギーを相互に変換することのできる素子です。電圧をかけるとわずかに伸び縮みするため、インクジェットプリンタのヘッドなどのアクチュエータや超音波発振に使われています。逆に振動を与えると電圧が発生するため、角速度センサなどに使われています。近年では、あらゆる場所に存在する振動エネルギーを利用して発電を行う圧電発電も注目されています。
 圧電セラミックスにおける問題点は、主要な材料のほとんどが有毒な鉛を含み、環境や生体への影響が懸念されることです。我々は微構造制御を駆使することで鉛系圧電材料を凌駕する圧電フロンティアに到達可能な非鉛圧電材料の創製に挑戦しています。

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図1 圧電特性とキュリー温度の関係と圧電フロンティア

◯ナノ/マクロ複合ドメイン構造を有するビスマス系非鉛圧電材料の開発

 チタン酸ジルコン酸鉛 [Pb(Zr, Ti)O3, PZT] は結晶構造の異なる2種類のドメインとともにナノサイズのドメイン(ナノドメイン)が共存しており、このナノ/マクロ複合ドメイン構造がチタン酸ジルコン酸鉛の高い圧電特性の起源と考えられています。我々はこれにならい、ナノ/マクロ複合ドメイン構造を持つビスマス系非鉛圧電セラミックスを作製し、圧電フロンティア到達を目指して研究を行っています。(ドメインとは自発分極の向きの揃った領域のことをいいます。)

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図2 ナノ/マクロ複合ドメイン構造(左)PZTと(右)理想の複合ドメイン構造

◯配向付与技術による高性能非鉛圧電セラミックスの開発

 結晶の圧電特性は、結晶方向に依存し、高い方向、低い方向があります。多結晶であるセラミックスは通常、結晶がランダムに配列しているので、圧電性は平均化されます。我々は強磁場や反応性テンプレート粒成長法を用いることにより、圧電特性の高い方向に結晶方向の揃えたセラミックスを作製し、圧電特性の向上を図っています。
 また、圧電特性はドメインサイズを小さくすると向上することから、配向セラミックスにおいてドメインサイズを制御することで、さらなる圧電特性の向上を目指しています。

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図3 反応性テンプレート粒子成長法

◯3次元ナノキューブ集積体の作製

 結晶構造が同じで、種類の異なる結晶同士を接合し“エピタキシャル界面”ができるとき、その界面近傍では歪を緩和するため格子定数が連続的に変化する“構造傾斜領域”と呼ばれる特殊な構造が作られます。こうした界面ではしばしば特異な電気特性が発現するため、我々はナノキューブ状の2種類の粒子を3次元的に集積することにより界面の面積を増大させ、界面での性能が最大限発揮される新材料を作っています。

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図4 ナノキューブ集積体と構造傾斜領域

 

圧電体に関する主な研究業績

ビスマス系非鉛圧電材料に関して
[1] Y. Kuroiwa et al., Commun. Mater. 1, 71 (2020).
  doi: 10.1038/s43246-020-00072-4
[2] T. Aizawa et al., J. Ceram. Soc. Jpn 127, 383-387 (2019).
  doi: 10.2109/jcersj2.19001
[3] H. Nam et al., J. Ceram. Soc. Jpn 127, 369-373 (2019).
  doi: 10.2109/jcersj2.19010
[4] H. Nam et al., Ceram. Int. 44, S199-S202 (2018).
  doi: 10.1016/j.ceramint.2018.08.115
[5] I. Fujii et al., Ceram. Int. 44, 10657 (2018).
  doi: 10.1016/j.ceramint.2018.03.094
[6] T. Aizawa et al., J. Ceram. Soc. Jpn. 126, 311 (2018).
  doi: 10.2109/jcersj2.17257
[7] S. Kim et al., J. Appl. Phys. 122, 014103 (2017).
  doi: 10.1063/1.4991492
[8] I. Fujii et al., Appl. Phys. Lett. 108, 172903 (2016).
  doi: 10.1063/1.4948264
[9] R. Mitsui et al., J. Ceram. Soc. Jpn. 121, 855 (2013).
  doi: 10.2109/jcersj2.121.855
[10] R. Mitsui et al., Ceram. Int. 39, S695 (2013).
  doi: 10.1016/j.ceramint.2012.10.164
[11] I. Fujii et al., Jpn. J. Appl. Phys. 50, 09ND07 (2011).
  doi: 10.1143/JJAP.50.09ND07

配向セラミックスに関して
[12] M. Kim et al, J. Mater. Sci. 53, 2396 (2018).
  doi: 10.1007/s10853-017-1717-y
[13] S. Ueno et al, Jpn. J. Appl. Phys. 56, 10PD06 (2017).
  doi: 10.7567/JJAP.56.10PD06
[14] E. Kobayashi et al, Trans. Mat. Res. Soc. Japan, 40, 223 (2015).
  doi: 10.14723/tmrsj.40.223
[15] S. Wada et al, Jpn. J. Appl. Phys. 46, 7039 (2007).
  doi: 10.1143/JJAP.46.7039

ナノキューブに関して
[16] Y. Yoneda et al., Trans. Mat. Res. Soc. Japan 43, 93 (2018).
  doi: 10.14723/tmrsj.43.93
[17] K. Nakashima et al., J. Cryst. Growth 376, 35 (2013).
  doi: 10.1016/j.jcrysgro.2013.04.022
[18] K. Nakashima et al., Ceram. Int. 39, 3234 (2013).
  doi: 10.1016/j.ceramint.2012.10.009
[19] S. Wada et al., J. Mater. Sci. 44, 5161 (2009).
  doi: 10.1007/s10853-009-3705-3