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 淡水貝類による水質浄化  > 水質浄化室内実験

説明文の1

現在全国的に池や湖沼の水質悪化や透明度の低下が懸念されている。環境省の平成27年度公共用水域水質測定結果によると水質悪化の指標である生物学的酸素要求量または化学的酸素要求量の環境基準達成率は湖沼が最も低くなっている。池や湖沼は河川や海域に比べ、閉鎖的であり、水質悪化が生じている。  

説明文の2

これは山梨県河口湖で撮影した写真で、アオコが発生している。このような富栄養化によるアオコの発生は透明度を下げるだけでなく、毒素の流出及び急激な酸素欠乏により、水域に棲む生物の大量死や人間の生活用水の水質汚染に繋がる。  

  

説明文の3

池や湖沼には自然環境保全地域や自然公園などの自然保護区に指定されていたり、観光資源としての価値が高いものが多い。そのため、水質悪化や透明度の低下は環境及び観光資源の保全の視点から問題視されている。  

説明文の4

池や湖沼において水質浄化を行う方法には、懸濁微粒子の濾過や湖底に堆積したヘドロを取り除くといった物理学的処理、硫酸銅などを入れて藻類の増殖を抑え、アオコや淡水赤潮を防ぐ化学的処理、水生生物を用いて栄養塩や懸濁微粒子の除去を行う生物学的処理がある。物理学的処理・化学的処理による水質浄化法には短期的に効果が現れるというメリットがあるが、大規模な浄化施設の構築は維持管理費が非常に高く、人工物によって景観が損なわれ、池や湖沼の観光資源としての価値を下げることになる。また、化学的処理で用いられる硫酸銅は巻貝の仲間であるカワニナの行動を抑制し、強い毒性を示すことが報告されている。対照的に、生物学的処理は水質浄化の効果が現れるまでに時間がかかるが、景観や生態系に配慮した対策として注目されている。  

説明文の5

淡水性の二枚貝の主な種はイシガイ目とマルスダレガイ目に属している。代表的なものに、イシガイ目イシガイ科のイシガイ、カワシンジュガイ科のカワシンジュガイ、マルスダレガイ目シジミ科のマシジミ、マメシジミ科のマメシジミなどがいる。    

説明文の6

イシガイ科の二枚貝はグロキディウムと呼ばれる幼生の時期に魚に寄生する。冬季に生殖を行う種(カタハガイ、ニセマツカサガイ、ドブガイ)は、魚類の選択能力がなく、卵をたくさん放出し、生き残る個体を増やす戦略をとっている。夏季に生殖を行う種(カワシンジュガイ、イシガイ、オバエボシガイ、マツカサガイ、ササノハガイ)は、魚類の選択能力があり、魚類の活動が活発な夏季に生殖を行うことで、適した魚類に寄生する戦略をとっている。    

説明文の7

二枚貝の殻をはがすとまず外套膜がある。さらにこれらをめくると鰓があり、この鰓をめくると足がある。左の図の赤枠で切った内部の断面図を中央に示した。足を中心に左右で同じ構造の鰓と外套膜を持っている。二枚貝類は摂食活動の際にピンクで示した濁りの原因である懸濁微粒子を入水管から取り込み、これが殻の中に入ると赤い部分のえらに引っ掛かり、それを繊毛運動で口に運び栄養として吸収する。この摂食方法が濾過作用となり、水域の透明度をあげることができる。

説明文の8

二枚貝を池や湖沼に入れると、濾過摂食活動により透明度が上昇する。透明度が上昇すると日光が水底まで届くようになり、水草が生育し、水中の窒素やリンが固定されて富栄養化を防ぐことができる。また、生態系の根底を支える植物の生育が進むため、生物の多様性が増して水環境の改善につながる。また、二枚貝によってアオコの原因藻類であるミクロキスティスや鳥インフルエンザウィルスが除去されることが報告されている。    

説明文の9

カラスガイはアオコの原因藻類の一つであるミクロキスティスを繁殖時期に大量に摂食し、イシガイは季節に関係なく摂食して、ミクロキスティスが生成する毒素であるミクロキスチンを取り除くことができる。このように二枚貝を用いることで、水系の透明度を高めるとともに、水生生物や人間の生活水への影響がある毒素を取り除くことができるため、二枚貝を利用した水質浄化手法は非常に有効であると思われる。    

説明文の10

本研究では池や湖沼の浄化を目指して、二枚貝を使用して透明度を上げる手法の確立を目指す。二枚貝による水質浄化法の有効性を検討するため、第1段階では小型水槽を、第2段階では大型の水槽を用いて室内実験によって二枚貝の濾過能力を検討し、第3段階で試験的に二枚貝を自然水系に移植して浄化能力を検討することを計画した。    

説明文の11

第1段階では、人工的に濁度を上げた水槽に二枚貝を入れた場合と入れない場合とで36時間後までの濁度の比較を行った。実験中懸濁物質が沈殿するのを防ぐため、エアポンプを用いて水を常時撹拌した。実験は再現性を得るために3回行った。    

説明文の12

第2段階では、第1段階と同様に人工的に濁度を上げた水槽に二枚貝を入れた場合と入れない場合とで36時間後までの濁度の比較を行った。実験中懸濁物質が沈殿するのを防ぐため、エアポンプを用いて水を常時撹拌した。実験は再現性を得るために3回行った。    

説明文の13

桑谷 (1965)は、海産のアコヤガイ(Pinctada fucata martensii)が17.5μm以下の炭素粒子を取り込むと報告した。Sprung and Rose(1988)は、ゼブラガイが直径0.7μm~35μmの藻類を濾過していること、また粒径5μmの藻類を最も効率良く濾過していることを明らかにした。このように二枚貝が取り込むことができる懸濁微粒子の粒径は種類によって異なっている。第1、第2段階では、主に粒径が明らかな鉱物粒子(粒径4μm,2μm,0.2μm)カオリンを用いて、室温条件にて実験を行った。    

説明文の14

条件①では、粒径が明らかな鉱物粒子であるカオリンを用いて、室温条件において二枚貝の種間で濾過能力を比較した。 条件②では、冬季に低水温となる山梨県の山中湖のような水域の水質浄化に適した二枚貝を調べるため、低水温条件において二枚貝の種間で濾過能力を比較した。 条件③では、夏季に高水温となる都市型公園の池のような水深の浅い水域の水質浄化に適した二枚貝を調べるため、高水温条件において二枚貝の種間で濾過能力を比較した。 条件④では、二枚貝が摂食する可能性のある有機物としてクロレラを使用して二枚貝の種間で濾過能力を比較した。 条件⑤では、より広い水系に置いて二枚貝が濾過を効果的に行うことができるのか検討するため,大型水槽を用いて二枚貝の種間で濾過能力を比較した。    

説明文の15

二枚貝を移植する場合、産地や種名、また明確に区別される集団がある場合には、集団名を記録に残す必要がある。小型水槽では、湿重量の小さなヨコハマシジラガイとタテボシガイは10個体で1グループ、湿重量の大きなカラスガイ、イケチョウガイ、及び希少種で採集数が少なかったカワシンジュガイは1及び2個体で1グループとした。ヌマガイは大型2個体、中型5個体、小型10個体を用いた。大型水槽では、小型のヨコハマシジラガイとタテボシガイは20個体で1グループ、中型ヌマガイは10個体で1グループとした。    

説明文の16

第1段階の小型水槽を用いた実験結果。二枚貝を入れた場合と入れない場合(対照実験)との濁度低下の差をグラフ化した。横軸は経過時間、縦軸は濁度変化を表す。室温条件で粒径4㎛のカオリンを用いた場合、濁度低下が大きかったもの(最も大きなものから3番目まで)は、黄色のヨコハマシジラガイ、ピンクのヌマガイ10個体、赤の山中湖タテボシガイであった。    

説明文の17

粒径2㎛のカオリンを用いた場合に濁度低下が大きかったものは、赤の山中湖タテボシガイ、黄緑の河口湖タテボシガイ、紫の河口湖カラスガイであった。

説明文の18

粒径2㎛のカオリンを用いた場合に濁度低下が大きかったものは、赤の山中湖タテボシガイ、黄緑の河口湖タテボシガイ、紫の河口湖カラスガイであった。 る濁度低下の相違は見られなかった。    

説明文19

実験開始時、24時間後、36時間後の水槽の写真(3回の実験のうち1回の結果)を示す。どの粒径のカオリンを用いた場合でも36時間後には二枚貝の濾過によって透明度が向上した。特に粒径4㎛のカオリンを用いた場合には、ヌマガイ10個体、イケチョウガイ、河口湖タテボシガイ、山中湖タテボシガイで、粒径2㎛のカオリンを用いた場合には山中湖カラスガイ、イケチョウガイ、河口湖タテボシガイ、山中湖タテボシガイで、透明度の変化が顕著であった。粒径0.2㎛のカオリンを用いた場合には、粒径4㎛と2㎛のカオリンを用いた場合ほど透明度の変化は大きくなかった。    

説明文の20

低水温条件で粒径4㎛のカオリンを用いた場合、濁度低下が大きかったものは青の山中湖カラスガイ、赤の山中湖タテボシガイであった。  

説明文の21

粒径2㎛のカオリンを用いた場合、濁度低下が大きかったものは黄のヨコハマシジラガイ、赤の山中湖タテボシガイであった。

説明文の22

粒径0.2㎛のカオリンを用いた場合、種による濁度低下の相違は見られなかった。

説明文の23

粒高水温条件で粒径4㎛のカオリンを用いた場合、濁度低下が大きかったものは緑の中型ヌマガイであった。

説明文の24

粒径2㎛のカオリンを用いた場合、種による濁度低下の相違は見られなかった。

説明文の25

粒径0.2㎛のカオリンを用いた場合、種による濁度低下の相違は見られなかった。

説明文の26

クロレラを用いた条件では、遮光した場合としなかった場合で大きな差はみられなかった。

説明文の27

第2段階の大型水槽を用いた実験結果。粒径4㎛のカオリンを用いた場合、種による濁度低下の相違は見られなかった。

説明文の28

粒径2㎛のカオリンを用いた場合、種による濁度低下の相違は見られなかった。

説明文の29

粒径0.2㎛のカオリンを用いた場合、赤の山中湖タテボシガイで大きな濁度低下がみられた。

説明文の30

濾過効率FRを算出した。FRは二枚貝1g当たり初めの濁度の何%を減らすことができるかを表している。

説明文の31

ヌマガイでは大型個体と小型個体の間で濾過効率に有意な差はなかった。また、タテボシガイでは河口湖産のものと山中湖産の間で、粒径0.2μmのカオリンを使用した場合(P=0.09)を除いて両者の濾過効率に有意な差はなかった。それゆえ、同じ種であれば濾過効率はサイズや産地に関係なく比較的安定していると言える。河口湖と山中湖のタテボシガイは在来のものではなく、おそらく琵琶湖より移植され、各々の湖で繁殖してきたと思われる。各々の湖の環境条件に適応し、濾過効率の若干の相違がみられた可能性がある。

説明文の32

カラスガイ、イケチョウガイ、カワシンジュガイの濾過効率は低かった。また、それぞれ準絶滅危惧、絶滅危惧Ⅰ類、絶滅危惧Ⅱ類に指定されており、二枚貝の濾過能力、希少性を考慮すると、これらの種は大規模な水質浄化には適していないと思われる。ヌマガイ、ヨコハマシジラガイ、タテボシガイ,セタシジミは濾過効率が高かった。ヨコハマシジラガイやタテボシガイのような湿重量当たりの濾過効率の高い小型の二枚貝を移植するほうが運搬費用、水質浄化の面から考えて適切であると考えられる。

説明文の33

ヨコハマシジラガイとタテボシガイは比較的容易に入手しやすく、高水温条件下で高い濾過効率を示し、低水温条件下では効率が落ちるものの、懸濁微粒子を濾過していた。また、クロレラを用いた場合でも、大型水槽を用いた実験でも濾過効率高かった。ヌマガイの濾過効率は低水温条件では低かった。ヨコハマシジラガイは準絶滅危惧に指定されていることを考慮すると、希少種ではなく入手が比較的容易で総合的に濾過効率の高いタテボシガイが自然水系の水質浄化を行う上で最も有効であると考えられる。

説明文の34

濾過摂食を行う淡水産の貝類は、二枚貝だけではない。一般的に巻貝の摂食法は、藻類などを削り取って食べる刈り取り食や、堆積物を食べるデトリタス食である。しかし、タニシは濾過摂食も行うことが知られている。タニシは、触覚後方の頚部が鰭状に左右に伸びていて、それを丸めて水管にしている。右に出水管があり、左に入水管がある。出水管、入水管から水を出し入れする際に懸濁物質を鰓でこしとって摂食する。

説明文の35

この出水管は右の触覚後部の鰭状に伸びる頸部をまるめたもの。出水管の内部には肛門などが位置する。左の触覚の後部には同様に入水管があり、その内部には鰓がある。普通は右の水管の方が大きく目立つ。背中には頭部右側から外套腔の奥まで達する繊毛帯をそなえた食物溝がある。食物溝の両側は隆起していて、特に左側の隆起は粘液腺に富んでいる。鰓で濾過された水中の懸濁物質をこの食物溝の粘液でまとめながら繊毛運動で口に運び摂食する。

説明文の36

日本には4種のタニシが生息する。マルタニシは、北海道~沖縄に分布しており、全体的に丸みを帯びている。20世紀後期頃からは急速に減少傾向にあり、現在は準絶滅危惧(NT)(環境省レッドリスト)に指定されている。オオタニシは、北海道~九州に分布しており水田にも見られるが、水の干上がらない池沼や湧水のある場所などに多く生息している。ヒメタニシは、北海道~九州に生息しており、水田、池沼、用水路など日本のタニシ科ではもっとも多様な環境に棲み、また汚染にも比較的強く、個体数が多い。ナガタニシは琵琶湖水系の固有種で、現在は琵琶湖のみに生息しているが、かつては流出する瀬田川にも生息していたといわれている。

説明文の37

濾過摂食を行うヒメタニシの濾過効率は高く、分布も広いので水質浄化に有効であると思われる。カワニナは濾過摂食を行わないとされるが、いくらか懸濁物質を除去する能力がある。

説明文の38

藤田と宮崎はマツカサガイ(Inversiunio japanensis)、カラスガイ、ヒメタニシ(Sinotaia quadrata histrica)の水中の懸濁物質への影響を検討するため,藻類(珪藻と藍藻)を与えて懸濁物質の沈降速度を調べた。通常舞い上がってしまう小さな懸濁物質を二枚貝や巻貝が多量に取り込み、それらをまとめて糞や偽糞として排出することで、懸濁物質の粒径が大きくなり,沈降速度を速めることを報告した。

説明文の39

タニシを除く巻貝類は、主に刈り取り食者、デトリタス食者であり、濾過摂食は行わないが、保護のため粘液を分泌している。濾過摂食を行わないカワニナなどの巻貝を用いても、貝が分泌した粘液に懸濁物質が付着して塊になり、懸濁物質の粒径が大きくなることで沈降速度が速まることが考えられる。