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 筋肉の発生  > 筋肉の発生③

説明文の1

速筋の細分化には内因性プログラムが重要であることがわかったが、筋肉の細分化には内因性の性質(intrinsic character)だけが重要なのであろうか?外因性の要因(extrinsic factors)は無関係なのか?神経支配や位置情報やホルモンの非存在下である培養細胞で調べた。  

説明文の2

分子マーカーとしてTnTの発現を培養細胞で調べるため、速筋型TnT、遅筋型TnT、心筋型TnTの各々に対する抗体を用いた。速筋型TnTに対する抗体は、速筋の胸筋と翼(上肢)筋と混合筋の足(下肢)筋のTnTと反応した。遅筋型TnTに対する抗体は、混合筋の足(下肢)筋と遅筋の前広背筋(ALD)のTnTと反応した。心筋型TnTに対する抗体は、心筋のTnTとだけ反応した。  

  

説明文の3

抗体を使って、正常発生におけるTnTの発現を調べた。速筋の大胸筋では、孵卵13日まですべての筋繊維がすべての型のトロポニンTを発現したが、孵卵15日から速筋型TnTのみを発現した。下肢の腓腹筋では、孵卵13日まですべての筋繊維が速筋型と遅筋型トロポニンTが発現したが、孵卵15日から速筋型TnTのみ、遅筋型TnTのみ、速筋型と遅筋型TnTの両方を発現する繊維の3種類がみられた。遅筋の前広背筋では、孵卵11日まですべての筋繊維がすべての型のトロポニンTを発現したが、孵卵13、15日では速筋型と遅筋型TnTの両方を発現した。孵卵17日から遅筋型TnTのみを発現した。  

説明文の4

孵卵7日の胚の胸の筋並びに下肢の筋からの培養細胞では、速筋型と遅筋型TnTの両方を発現する筋管が形成され、速筋型TnTのみ,、遅筋型TnTのみを発現する筋管は形成されなかった。孵卵8、9日の胚の胸の筋並びに下肢の筋からの培養細胞では、速筋型と遅筋型TnTの両方を発現する筋管が主であるが、速筋型TnTのみを発現する筋管も形成された。遅筋型TnTのみを発現する筋管は全くみられなかった。。  

説明文の5

1度培養した細胞の一部を再度培養した。このような操作を繰り返すことによって1つの細胞から形成される筋管を得ることができる。孵卵9日の胚の胸の筋からの培養細胞では、速筋型と遅筋型TnTの両方を発現する筋管のみが形成された。孵卵11、13日の胚からの培養細胞では、速筋型TnTのみを発現する筋管が増え、孵卵17日の胚からの培養細胞では。速筋型と遅筋型TnTの両方を発現する筋管がみられなくなった。孵卵9、11日の胚の下肢の筋からの培養細胞では、速筋型と遅筋型TnTの両方を発現する筋管のみが形成された。孵卵13、17日の胚からの培養細胞では、速筋型TnTのみを発現する筋管が増えた。遅筋型TnTのみを発現する筋管は全くみられなかった。    

説明文の6

孵卵13日の胚の大胸筋(速筋)からの培養細胞の一部を再度培養し(3〇)、その一部を再度培養し(4〇)、さらにもう一度その一部を再度培養した(5〇)。どの場合にも、速筋型と遅筋型TnTの両方を発現する筋管と速筋型TnTのみを発現する筋管が形成されたが、遅筋型TnTのみを発現する筋管は全くみられなかった。    

説明文の7

孵化1日の胚の大胸筋(速筋)からの培養細胞の一部を再度培養し(3〇)、その一部を再度培養し(4〇)、さらにもう一度その一部を再度培養した(5〇)。どの場合にも、速筋型TnTのみを発現する筋管が形成されたが、速筋型と遅筋型TnTの両方を発現する筋管と遅筋型TnTのみを発現する筋管は全くみられなかった。

説明文の8

孵化11日から孵化後60日の大胸筋(速筋)からの培養細胞では、速筋型と遅筋型TnTの両方を発現する筋管と速筋型TnTのみを発現する筋管がみられたが、発生が進むにつれて速筋型TnTのみを発現する筋管の割合が増えた。同様に腓腹筋(混合筋)からの培養細胞では、速筋型と遅筋型TnTの両方を発現する筋管と速筋型TnTのみを発現する筋管がみられたが、孵化13日以降発生が進むにつれて速筋型TnTのみを発現する筋管の割合が増えることはなかった。孵化後1、60日の前広背筋(遅筋)からの培養細胞では、速筋型と遅筋型TnTの両方を発現する筋管とだけがみられたが、前広背筋は遅筋であるにもかかわらず、遅筋型TnTのみを発現する筋管は見らえなかった。したがって、速筋では外因性の要因がなくとも速筋化するが、遅筋では外因性の要因が存在しないと遅筋化できないことがわかる。    

説明文の9

次に組織培養を行った。ヒヨコの大胸筋の下肢の腓腹筋への移植、その逆の腓腹筋の大胸筋への移植、前広背筋の大胸筋ならびに腓腹筋への移植を行った。    

説明文の10

まずヒヨコの大胸筋を腓腹筋に移植した。このヒヨコをある期間飼育した後、TnTの発現を調べたところ、本来は腓腹筋で発現しないB型のトロポニンTアイソフォームが発現した。すなわち、大胸筋が腓腹筋の中で組織培養され、大胸筋で発現するB型トロポニンTアイソフォームが発現したのである。    

説明文の11

その際、移植された大胸筋は腓腹筋の中で変性し、衛星細胞が分裂・融合し、筋繊維を再構築した。その再構築された筋繊維の中で大胸筋で発現するB型トロポニンTアイソフォームが発現した。すなわち、腓腹筋の神経の支配下で大胸筋は本来の大胸筋となったのである。速筋の形成は神経支配、位置情報などとは無関係である。    

説明文の12

腓腹筋の中で、大胸筋はその発生を再現した。B型トロポニンTアイソフォームでは、移植してから88日目ではBA、BC、BNが存在したが、178日目でほぼBAだけとなった。L型トロポニンTアイソフォームは、再構築された筋繊維と腓腹筋の筋繊維が混合してしまうため、本来腓腹筋で発現されているものであると思われる。    

説明文の13

前広背筋(ALD)を大胸筋に移植しても(a~d)、腓腹筋に移植しても(e、f)、前広背筋が本来発現している遅筋型TnTがみられた。遅筋は他の筋の神経の支配下で遅筋になりえたのだろうか?    

説明文の14

まとめてみると、大胸筋、腓腹筋、前広背筋は移植先で本来の運命を発揮していると思われる。腓腹筋を大胸筋に移植した場合でも、発生が進んだ大胸筋では本来みられない、腓腹筋由来のL型トロポニンTアイソフォームが発現した。    

説明文の15

トロポニンTアイソフォームの発現を組織切片で検出するために、抗体の特異性を調べた。速筋である大胸筋は速筋型TnTに対する抗体のみと、遅筋である前広背筋は遅筋型TnTに対する抗体のみと反応した。    

説明文の16

前広背筋を大胸筋に移植した際、前広背筋と大胸筋の繊維が融合して、速筋型TnTに対する抗体のみと反応し、遅筋型TnTに対する抵抗のみと反応しない部分(上、下)、逆に遅筋型TnTに対する抗体のみと反応し、速筋型TnTに対する抵抗のみと反応しない部分(中)がみられた。前広背筋は大胸筋の中で、遅筋型TnTだけを発現する本来の遅筋を形成した。    

説明文の17

筋を血管系に富んだ砂嚢漿膜下で培養してみた。砂嚢漿膜上におかれた筋は、血管系から酸素と栄養の供給を受け、再構築される。    

説明文の18

大胸筋を砂嚢漿膜下で培養しても、大胸筋はその発生を再現する。しかし、60日間培養しても正常発生の孵化後5日から10日のトロポニンTアイソフォームの発現状態に類似した。このようにトロポニンTアイソフォームの変化が遅れるのは、大胸筋を腓腹筋に移植した場合にも同様で、移植して48日間たっても、正常発生の孵化後10日から30日のトロポニンTアイソフォームの発現状態に類似した。    

説明文の19

前広背筋を砂嚢漿膜下で培養した場合、速筋型トロポニンTアイソフォームは移植片全体にみられたが(上)、遅筋型トロポニンTアイソフォームはその一部にしかみられなかった(中)。遅筋型トロポニンTアイソフォームは速筋型トロポニンTアイソフォームを発現する細胞で発現していた(下)。すなわち、遅筋型トロポニンTアイソフォームだけを発現する細胞はみられなかった。    

説明文の20

砂嚢漿膜下での前広背筋の培養を始めた4日後、ほとんど全ての細胞が速筋型と遅筋型TnTの両方を発現しており、わずかに速筋型TnTだけを発現するものがあった。10日後、30日後には、速筋型と遅筋型TnTの両方を発現していている細胞が減っていき、速筋型TnTだけを発現するものが増えていった。遅筋の前広背筋を移植したにもかかわらず、速筋化していった。外因性の要因がない場合は筋は速筋化していく。前広背筋を腓腹筋に移植した際には、遅筋が再生したが、どんな刺激であろうと外因性の要因として神経支配があれば、遅筋は遅筋になれるのであろうか?    

説明文の21

砂嚢漿膜下での前広背筋の培養を行った場合には、30日後にはほとんど速筋型TnTだけを発現する細胞となった。しかし、前広背筋を前広背筋自身に移植するとほとんど遅筋型TnTだけを発現する細胞となった。    

説明文の22

砂嚢漿膜下での前広背筋の培養30日後には、93.4%の細胞が速筋型TnTだけを発現した。しかし、前広背筋を前広背筋自身に移植すると、99.3%の細胞が遅筋型TnTだけを発現した。砂嚢漿膜下での培養では、速筋型TnTを発現する細胞しか生き残れなかったのだろうか?    

説明文の23

砂嚢漿膜下で培養した前広背筋を、前広背筋に移植した。60.3%の細胞が速筋型TnTだけを発現したが、38.4%の細胞が遅筋型TnTだけを発現した。したがって、砂嚢漿膜下で培養された前広背筋には、遅筋型TnTを発現することができる細胞が存在した。