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 筋肉の発生  > 筋肉の発生④

説明文の1

速筋になるべき筋肉は内因性プログラムによって、外的要因を必要とせず、そのまま速筋になることが明らかとなった。例えば、速筋から得た細胞を培養すると、速筋繊維が形成される。  

説明文の2

ところが、遅筋になるべき筋肉は内因性プログラムだけでは遅筋になりきれず、速筋と遅筋のトロポニンT の両方を発現する筋繊維が形成される。遅筋になるためには外的な要因が必要なのではないか。遅筋は持続的に収縮するので、連続的に神経刺激の影響を受ける。外的要因として神経支配が必要なのではないか?  

  

説明文の3

すなわち、速筋と遅筋のトロポニンT の両方を発現しうる筋繊維は、神経支配(連続的な神経刺激)を受けて遅筋繊維となるのではないか。  

説明文の4

そこで再びトロポニンTを分子マーカーとして、二次元電気と速筋型ならびに遅筋型各々のトロポニンTに対する抗体を用いたWestern Blottingによって、神経支配の影響を調べることにした。神経支配を徐神経によって切断してどのような変化が起こるか調べた。代表的な遅筋である背中の前広背筋の徐神経を試みたが、複雑に神経が入り込んでおり、すべての神経を切断するのは不可能であった。そのため、下肢の腓腹筋を用いることにした。  

説明文の5

ニワトリ腓腹筋(gastrocnemius)には、基部側の白っぽい領域と先端部側の赤みを帯びた領域がある。発生段階初期には全体が赤みを帯びており、発生が進むに連れ、基部側が白っぽくなる。先端部は変わらず赤みを帯びている。まず、基部、中央部、先端部と筋を切り分け、それぞれの部位でのTnT発現を調べた。    

説明文の6

孵卵後20日目、孵化後1日目、3日目、10日目のヒヨコ、そして大人についてTnTの発現をみてみると、全ての部位で主にL型fTnTを発現していた(ただし、孵化後10日目の中央部では明確なパターンをだすことができなかった)。    

説明文の7

中央部(middle)と先端部(distal)で発生を通してsTnTを発現していた。それらは2つに分かれて(2つのスポットとして)現れた。 基部(proximal)ではsTnTの発現はみられなかった。

説明文の8

大人では心筋型トロポニンT(cTnT)の発現はみられなかったが、中央部と先端部では孵化後3日目まで2つのスポットの発現がみられた。基部ではcTnTの発現はみられなかった 。    

説明文の9

中央部と先端部で、孵化後3日目まで先行研究ではcTnTの発現がみられた。また、sTnTが発生を通して発現していた。 一方、基部ではfTnTのみが発生を通して発現していた。    

説明文の10

このように一つの筋肉でありながら、TnTの発現が部位によって異なっていた。発生段階の初期では基部でも先端部でも、速筋型トロポニンT(fTnT)と遅筋型トロポニンT(sTnT)の両方が発現しているが、発生が進むと白っぽい基部ではfTnTのみが、赤みを帯びた先端部ではfTnとsTnTが発現する。    

説明文の11

徐神経して30日後では、徐神経した方の下肢の腓腹筋(徐神経筋)と同じ個体の徐神経しなかった方の下肢の腓腹筋(対側筋)の間で、トロポニンTの発現に違いがないようにみえる。本当に差がないのか量を測定してみた。    

説明文の12

アクチンの発現量を基準として、対側筋の基部、先端部のfTnTの発現量を各々100とした場合、徐神経筋の基部、先端部のfTnTの発現量はほぼ100で、対側筋と異ならなかった。    

説明文の13

アクチンの発現量を基準として、対側筋の基部、先端部のsTnTの発現量を各々100とした場合、徐神経筋の基部、先端部のsTnTの発現量はなんと対側筋より多くなってしまった。遅筋が遅筋になるためには、神経支配が必要だと考えたが、徐神経した(神経支配を遮断)した方が、むしろsTnTの発現量が多くなってしまったのである。そこで、さらに個々の筋繊維でTnTの発現量を調べることにした。    

説明文の14

筋肉の横断面(組織切片)を、速筋型ならびに遅筋型各々のトロポニンTに対する抗体と反応させてみた。基部では、赤色の矢印で示したfTnTを強く発現し、sTnTを発現していない繊維と、赤色の矢じりで示したfTnTを弱く発現し、sTnTを発現していない繊維がみられた。一方、先端部では、これらの繊維に加え、青色の矢印で示したfTnTを弱く発現し、sTnTを強く発現している繊維がみられた。    

説明文の15

徐神経した方の下肢の腓腹筋(徐神経筋)と同じ個体の徐神経しなかった方の下肢の腓腹筋(対側筋)の基部の間で比べると、赤色の矢印で示したfTnTを強く発現し、sTnTを発現していない繊維(F)と、赤色の矢じりで示したfTnTを弱く発現し、sTnTを発現していない繊維(f)がみられ、違いがみられなかった。    

説明文の16

先端部の間で比べると、赤色の矢印で繊維(F)がみられなくなり、赤色の矢印で示した繊維(f)がみられた。また、青色の矢印で示したfTnTを弱く発現し、sTnTを強く発現している繊維(f/S)がみられなくなり、青色の矢印で示したfTnTとsTnTをともに強く発現している繊維(F/S)がみられるようになった。    

説明文の17

まとめてみると基部では、観察される繊維の種類は変わらないが、先端部ではF繊維(速筋型fTnTを強く発現し、sTnTを発現していない繊維)と、f/S繊維(fTnTを弱く発現し、sTnTを強く発現している繊維)が、F/S繊維(fTnTとsTnTをともに強く発現している繊維)に置き換わったようにみえる。

説明文の18

基部はもともと速筋であったが、徐神経してもそのまま速筋であることがわかり、神経支配は速筋に影響を与えないことが明らかになった。先端部はもともと混合筋であったが、徐神経すると変化がみられた。ここで、神経支配には徐神経した場合とは反対方向の働きがあると考える。F/S繊維(fTnTとsTnTをともに強く発現している繊維)が、神経支配によってf/S繊維(fTnTを弱く発現し、sTnTを強く発現している繊維)となる場合、fTnTの発現が抑制されるので、遅筋化しているといえる。一方、F/S繊維が、神経支配によってF繊維(速筋型fTnTを強く発現し、sTnTを発現していない繊維)となる場合は、sTnTが発現が抑制されるので、遅筋化しているといえる。すなわち神経支配は相反する働きをしており、その総体として遅筋化でなく、むしろ速筋化(sTnTの発現量が減少する)が起こる。神経支配だけでは、遅筋化は説明できないようである。