▲PageTOPへ戻る




 希少生物の保護と環境保全  > ホトケドジョウの進化

説明文の1

普通のドジョウ(コイ目ドジョウ科)とは異なり、コイ目タニノボリ科に属す。ヒゲは8本、体長は最大で7〜8cmくらい。エゾホトケドジョウ(L. nikkonis)、ホトケドジョウ (L. echigonia)、ナガレホトケドジョウ(L. sp. 1)、トウカイナガレホトケドジョウ(L. sp. 2)、ヒメドジョウ(L. costata)、 L. pleskei の6種が含まれる。日本在来のエゾホトケドジョウ(L. nikkonis)、ホトケドジョウ(L. echigonia)、ナガレホトケドジョウ(L. sp. 1)、トウカイナガレホトケドジョウ(L. sp. 2)は絶滅危惧IB類に指定されている。  

説明文の2

エゾホトケドジョウは北海道(ひし形)、ホトケドジョウは本州の東北地方から近畿地方(丸)、ナガレホトケドジョウは本州の近畿・中国地方・東海地方と四国の北部・東部(星型)、ヒメドジョウは韓国・中国・ロシア(三角、ただし本州の一部に移入)、 L. pleskeiはロシアの東部(四角)に分布する。  

  

説明文の3

ミトコンドリアDNAに基づき構築したホトケドジョウ類の系統樹。アウトグループはフクドジョウ(Noemacheilus barbatus toni)。6種は各々別のグループを形成。エゾホトケドジョウ、ヒメドジョウ、 L. pleskeiが1つのグループを、ホトケドジョウ、トウカイナガレホトケドジョウ、ナガレホトケドジョウが別のグループを形成。  

説明文の4

日本のホトケドジョウ類は、エゾホトケドジョウ、ホトケドジョウ7集団(北陸集団、山形集団、東北集団、北関東集団、南関東団、東海集団、近畿集団)、ナガレホトケドジョウ2集団(紀伊・四国集団と山陽集団)、トウカイナガレホトケドジョウに分けられる。さらにヒメドジョウが一部の地域に移入した。  

説明文の5

ホトケドジョウ7集団、ナガレホトケドジョウ2集団の間には、分散を妨げる山地、山脈、高地、海が存在する。ただし、北関東集団と南関東集団の間にはこのような障壁はなく、山形集団は最上川に生息し、北陸集団の分布域に含まれる。また、トウカイナガレホトケドジョウとホトケドジョウの東海集団は分布域が重なる。    

説明文の6

左図は現在のホトケドジョウの北関東集団(赤丸)と南関東集団(青丸)の分布。北関東集団と南関東集団との分岐の後、約12万5千年前に、温暖化による下末吉海進が起こり、関東一帯は水没した(右図)。この一帯に生息していたホトケドジョウは絶滅したか、周辺の陸地の水系に退避した。海水が引いた後にホトケドジョウが進入し、北から分散したものと南から分散したものが現在の境界線を形成した。    

説明文の7

トウカイナガレホトケドジョウはナガレホトケドジョウとされていたが、遺伝学的にはナガレホトケドジョウよりムむしろホトケドジョウに近縁であった。すなわち、トウカイナガレホトケドジョウは形態学的、生態学的にはナガレホトケドジョウで、遺伝学的にはホトケドジョウである。

説明文の8

このような矛盾は、遺伝子浸透によって説明できる。ミトコンドリアは母性遺伝であり、トウカイナガレホトケドジョウ♂がホトケドジョウ♀と交雑をし、 子孫のメスがまたトウカイナガレホトケドジョウのオスと交雑をする。ということが続いていくと、核はトウカイナガレホトケドジョウに近似され、ミトコンドリアはホトケドジョウのまま保存されている可能性がある。    

説明文の9

核DNAに基づき構築したホトケドジョウ類の系統樹。5種は各々別のグループを形成。エゾホトケドジョウ、ヒメドジョウ、 L. pleskeiが1つのグループを、ホトケドジョウ、トウカイナガレホトケドジョウ、ナガレホトケドジョウが別のグループを形成。ホトケドジョウは7つの種内集団を形成。もし遺伝子浸透説が正しければ、トウカイナガレホトケドジョウの核のDNAはナガレホトケドジョウに類似するはずである。しかし、トウカイナガレホトケドジョウは核DNAでもホトケドジョウに近縁であった。    

説明文の10

ミトコンドリアDNAおよび核DNAの両方を基に構築した系統樹。種間、集団間の関係の信頼性が向上した。    

説明文の11

トウカイナガレホトケドジョウの形や棲み場所については、近畿・中国地方や四国のナガレホトケドジョウと区別がつかない。ところが、ミトコンドリアDNAでも核DNAでもトウカイナガレホトケドジョウはホトケドジョウに近縁である。トウカイナガレホトケドジョウはホトケドジョウと共通の祖先をもっていたが、奥山に棲み、激流に流されないように形がナガレホトケドジョウと同様になった。つまり平行進化した。    

説明文の12

寒冷地に適応した(亜熱帯や熱帯には生息しない)ホトケドジョウ類の祖先が、氷河期に朝鮮半島を経て日本に移住して、日本で分布を拡げた。    

説明文の13

間氷期に気温(水温)が上がり、海面が海進によって上昇すると、ホトケドジョウの祖先は低地の里山的環境を伝わって北に移動した。一方、ナガレホトケドジョウの祖先は北に移動せず、高地の奥山的環境に適応した。異なる環境への適応、遺伝的変化の蓄積によってホトケドジョウとナガレホトケドジョウへと種分化した。    

説明文の14

氷河期にエゾホトケドジョウの祖先がサハリンを経由して北海道に移住した。    

説明文の15

エゾホトケドジョウとL. pleskeiの共通祖先とヒメドジョウが種分化した。    

説明文の16

山地、山脈、高地や海によって生息地が分断され、ホトケドジョウの北陸集団、ナガレホトケドジョウの山陽集団、紀伊・四国集団が分岐した。また、トウカイナガレホトケドジョウが分化した。    

説明文の17

ホトケドジョウの東北+山形、北関東+南関東、近畿+東海集団が分岐した。

説明文の18

ホトケドジョウの東北+山形が東北集団と山形集団に、北関東+南関東が北関東集団と南関東集団に、近畿+東海集団が近畿集団と東海集団に、それぞれが分岐した。    

説明文19

最後にエゾホトケドジョウとL. pkeskeiが種分化した。    

説明文の20

国土地理院発行の20万分の1の地勢図(豊橋)を利用して東海地方のホトケドジョウ類の採取地点おとびダム建設予定地を水系とともにした。赤丸はホトケドジョウを、黄色丸はナガレホトケドジョウを、河川を紺色の線で示した。 

説明文の21

豊川水系ではホトケドジョウ(赤)とトウカイナガレホトケドジョウ(黄色)が棲み分けているようにみえる。

説明文の22

基本的に豊川水系近辺は隆起地帯である。豊川を走る中央構造線の右岸と左岸で地質構造が異なる。右岸側は領家帯で浸食されやすく、左岸側は三波川帯で浸食されにくい、両者の間には火山性堆積物がある。隆起し浸食されにくい場所(奥山的な環境)にトウカイナガレ、浸食されやすい場所(里山的な環境)にホトケドジョウが生息。