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 深海生物の起源と系統  > シンカイヒバリガイの分散

説明文の1

シンカイヒバリガイ類の分散能力、環境適応能力を調べるため、シンカイヒバリガイ類の中でも、熱水域・湧水域のどちらにも生息できるシンカイヒバリガイとヘイトウシンカイヒバリガイの相模湾初島沖と、沖縄トラフの北部伊平屋海嶺、鳩間海丘で採集された20個体以上を用いて分析を行った。ただし、鳩間海丘にはシンカイヒバリガイが生息していない。  

説明文の2

シンカイヒバリガイとヘイトウシンカイヒバリガイのミトコンドリアND4遺伝子の塩基配列に基づく系統樹(ただし、見やすくするため、配列がほぼ同じものはまとめてある)。赤が熱水域、水色が湧水域の個体を示している.シンカイヒバリガイ・ヘイトウシンカイヒバリガイのいずれにおいても、湧水域と熱水域の個体が2つのグループに分かれることはないことがわかった。  

  

説明文の3

ヘイトウシンカイヒバリガイのミトコンドリアND4遺伝子の塩基配列に基づいたミニマムスパニングツリー。黄色が相模湾初島沖、水色が北部伊平屋海嶺、赤が鳩間海丘の集団をそれぞれ示す。生息地が異なっていても、多くの個体間で共有されるハプロタイプが存在した。  

説明文の4

シンカイヒバリガイのミトコンドリアND4遺伝子の塩基配列に基づいたミニマムスパニングツリー。黄色が相模湾初島沖、水色が北部伊平屋海嶺の集団をそれぞれ示す。ヘイトウシンカイヒバリガイと同様に、2つの地点間で多くのハプロタイプが共有されていた。  

説明文の5

表の対角線の下側、Fstの値は集団間の遺伝的分化を表し、ヘイトウシンカイヒバリガイとシンカイヒバリガイのどの集団間でもゼロに近い値であった。このことは、集団間で遺伝的な分化がないことを意味する。対角線の上側、Nmの値は1世代あたりに移住する個体数を表し、1より大きいと遺伝的交流があることを示す(infはinfinityの略で無限大のこと)。ヘイトウシンカイヒバリガイとシンカイヒバリガイのどの集団間においても、1よりもかなり大きな値であり、各集団間で高頻度の遺伝的な交流があることがわかった。    

説明文の6

沖縄トラフの熱水域と相模湾の湧水域は1500㎞も離れており、大きな環境の違いがあるにも関わらず、両地点間で多くのハプロタイプが共有され、遺伝的な分化が見られず、高頻度の遺伝的交流があることが示された。それゆえ、シンカイヒバリガイもヘイトウシンカイヒバリガイも1500kmという距離は分散の障壁にならず、(幼生の)分散能力と環境適応能力が非常に高いことが示された。    

説明文の7

熱水域に生息するインド洋のインドシンカイヒバリガイ、水曜海山・明神海丘のシチヨウシンカイヒバリガイ、ノースフィジーのB. breviorを用いてシンカイヒバリガイ類の分散能力を調べた。

説明文の8

シンカイヒバリガイ類3種のミトコンドリアND4遺伝子の塩基配列に基づいたミニマムスパニングツリー。青色がインドシンカイヒバリガイ、水色がシチヨウシンカイヒバリガイ、黄色がB .breviorを示す。 緑色の円で示されたように、シチヨウシンカイヒバリガイとB. breviorの間で多くの個体によってハプロタイプが共有されており、また、グレーノの円で示されたように、3種の間でも共有されるハプロタイプがみられた。    

説明文の9

Fstからインドシンカイヒバリガイと他の2種の間では有意な遺伝的な差があるが、シチヨウシンカイヒバリガイとB. breviorの間では遺伝的分化は見られなかった。Nmは全ての組み合わせで1以上であった。シチヨウシンカイヒバリガイとB. brevior間では大きな遺伝的交流があり、.インドシンカイヒバリガイとシチヨウシンカイヒバリガイ、インドシンカイヒバリガイとB. breviorの間では低頻度の遺伝的交流があることが推測された。    

説明文の10

インド洋・北西太平洋・南西太平洋のシンカイヒバリガイ類3種の間では、多くのハプロタイプが共有され、特にシチヨウシンカイヒバリガイとB. breviorの間では大きな遺伝的交流があり、インドシンカイヒバリガイと他の2種の間でも遺伝的交流があることが示された。この3種においてもシンカイヒバリガイ、ヘイトウシンカイヒバリガイと同様に幼生の分散能力(5000~10000kmにおよぶ)が非常に高いことが示された。    

説明文の11

インド洋から西太平洋や東太平洋へどのように分散するのだろうか?この図は海洋循環を表したものだが、太平洋からインド洋に向けての循環経路があり、このルートを経てシンカイヒバリガイ類は分散している可能性がある。    

説明文の12

ミスマッチディストリビューションでは、まずND4遺伝子の塩基配列に基づいて算出した観察値と母集団サイズ急増モデルを用いたモデル値が一致するか検定を行い、一致した場合算出されたτの値から、集団を確立してからの期間を推定できる。τの値が大きいほど、集団を確立してからの期間が長くなる。    

説明文の13

ミトコンドリアND4遺伝子の塩基配列に基づいたmismatch distribution。横軸はハプロタイプ間で異なる塩基数を示し、縦軸は相対的頻度を示す。棒グラフは観察値、折れ線グラフは個体群急増モデルを当てはめた時のモデル値。観察値がモデルと一致するか検定を行ったところ、全ての地点において観察結果とモデルとの間に有意な差がないことが示された。τの値に着目すると、B. brevior、シチヨウシンカイヒバリガイ、インドシンカイヒバリガイの順に大きくなっており、この順に集団が確立してからの期間が長くなっていることを意味する。    

説明文の14

シンカイヒバリガイ類は西太平洋に最も多くの種が見られるが、インド洋がシンカイヒバリガイ類の起源の地である可能性を示す。